1 / 11
1
しおりを挟む
「アレクシア。話しがある」
放課後。王立学園の校舎内の廊下でアレクシアを呼び止めたのは、アレクシアの婚約者である、ダレルだった。
こうして顔を合わせるのは、何日ぶりだろう。思いながら、アレクシアは、何でしょう、と答えた。
「ここでは何だから、場所を移動しよう」
ダレルはアレクシアの返答を待つことなく、さっさと背を向け、歩きはじめてしまった。人の話しを聞かないところは、相変わらずらしい。
はあ。
アレクシアはため息をつくと、仕方なく、ダレルの後をついていった。
ダレルが、今は使われていない音楽室の扉を開ける。すると、待ちわびていたかのような声色で、ダレルの名を呼ぶ女の声が響いた。
「ダレル様っ」
「待たせてすまない、バーサ」
アレクシアは、目を丸くした。一応は婚約者である自分の目の前で、二人が抱き合ったからだ。
立ち尽くすアレクシアに向き直ったダレルは、唐突に「きみには失望したよ」と吐き捨てた。
何のことかさっぱりわからないアレクシアは、首を傾げるしかない。失望するも何も、二人の婚約は親が決めたもので、完全なる政略なもの。子どものころは、愛のある結婚を夢見たこともあったが、現実はそう甘くない。
互いに、割り切っていた。最初のころは二人で出掛けることもあったが、どうせ学園を卒業すれば、結婚が待っている。嫌でも毎日顔を付きあわすことになるのだからと、自然と二人は、必要最低限のときにしか会わなくなっていった。
だから、失望も何もないはず──なのだが。
「ぼくとバーサは、ただの友人関係だ」
「……はあ」
あなたは友人とそのように熱っぽく抱き合うのですかとたずねたくなったが、アレクシアはぐっと堪えた。ひとまず、話を聞かなければなにもわからない。
「なのにきみは、ぼくたちの仲を誤解して、バーサを虐めていたんだってね」
ダレルがバーサを庇うように抱き締めながら、アレクシアを睨み付けてくる。一方のアレクシアは、ぽかんとしていた。なにを言っているのか理解するのに、数秒をようした。
「……あの。わたし、そのバーサという方とはじめてお会いしたのですが」
バーサは、まあ、と涙を滲ませた。大袈裟なそれに、まるで演劇を見ているようだと、アレクシアは思った。
「そんな言い訳するなんて、ひどいですわ! 子爵令嬢のあなたは、伯爵令嬢のわたしに逆らうことなどできないでしょうと、あたしを打ちながら笑っていたではありませんか?!」
「? はあ。あなたは、子爵令嬢なのですね」
覚えがなさ過ぎて、怒りすらわいてこないアレクシア。そんな態度のアレクシアに、業を煮やしたようなダレルは声を荒げた。
「お前! さっきからその態度は何だ!!」
アレクシアは、そう言われましても、と優雅に顎に手を当てた。
「何もかもがあまりに突然過ぎて……話しを整理してもよろしいですか?」
放課後。王立学園の校舎内の廊下でアレクシアを呼び止めたのは、アレクシアの婚約者である、ダレルだった。
こうして顔を合わせるのは、何日ぶりだろう。思いながら、アレクシアは、何でしょう、と答えた。
「ここでは何だから、場所を移動しよう」
ダレルはアレクシアの返答を待つことなく、さっさと背を向け、歩きはじめてしまった。人の話しを聞かないところは、相変わらずらしい。
はあ。
アレクシアはため息をつくと、仕方なく、ダレルの後をついていった。
ダレルが、今は使われていない音楽室の扉を開ける。すると、待ちわびていたかのような声色で、ダレルの名を呼ぶ女の声が響いた。
「ダレル様っ」
「待たせてすまない、バーサ」
アレクシアは、目を丸くした。一応は婚約者である自分の目の前で、二人が抱き合ったからだ。
立ち尽くすアレクシアに向き直ったダレルは、唐突に「きみには失望したよ」と吐き捨てた。
何のことかさっぱりわからないアレクシアは、首を傾げるしかない。失望するも何も、二人の婚約は親が決めたもので、完全なる政略なもの。子どものころは、愛のある結婚を夢見たこともあったが、現実はそう甘くない。
互いに、割り切っていた。最初のころは二人で出掛けることもあったが、どうせ学園を卒業すれば、結婚が待っている。嫌でも毎日顔を付きあわすことになるのだからと、自然と二人は、必要最低限のときにしか会わなくなっていった。
だから、失望も何もないはず──なのだが。
「ぼくとバーサは、ただの友人関係だ」
「……はあ」
あなたは友人とそのように熱っぽく抱き合うのですかとたずねたくなったが、アレクシアはぐっと堪えた。ひとまず、話を聞かなければなにもわからない。
「なのにきみは、ぼくたちの仲を誤解して、バーサを虐めていたんだってね」
ダレルがバーサを庇うように抱き締めながら、アレクシアを睨み付けてくる。一方のアレクシアは、ぽかんとしていた。なにを言っているのか理解するのに、数秒をようした。
「……あの。わたし、そのバーサという方とはじめてお会いしたのですが」
バーサは、まあ、と涙を滲ませた。大袈裟なそれに、まるで演劇を見ているようだと、アレクシアは思った。
「そんな言い訳するなんて、ひどいですわ! 子爵令嬢のあなたは、伯爵令嬢のわたしに逆らうことなどできないでしょうと、あたしを打ちながら笑っていたではありませんか?!」
「? はあ。あなたは、子爵令嬢なのですね」
覚えがなさ過ぎて、怒りすらわいてこないアレクシア。そんな態度のアレクシアに、業を煮やしたようなダレルは声を荒げた。
「お前! さっきからその態度は何だ!!」
アレクシアは、そう言われましても、と優雅に顎に手を当てた。
「何もかもがあまりに突然過ぎて……話しを整理してもよろしいですか?」
437
お気に入りに追加
2,253
あなたにおすすめの小説

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【短編完結】婚約破棄ですか?了承致いたしますが確認です婚約者様
鏑木 うりこ
恋愛
マリア・ライナス!お前との婚約を破棄して、私はこのリーリエ・カント男爵令嬢と婚約する事にする!
わたくしの婚約者であるサルトル様が声高に叫びました。
なるほど分かりましたが、状況を良く確認させていただきましょうか?
あとからやはりなかった、間違いだったなどと言われてはたまったものではございませんからね?
シーン書き2作目です(*'ω'*)楽しい。

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?
しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。
いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。
どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。
そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います?
旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。

婚約破棄されましたが気にしません
翔王(とわ)
恋愛
夜会に参加していたらいきなり婚約者のクリフ王太子殿下から婚約破棄を宣言される。
「メロディ、貴様とは婚約破棄をする!!!義妹のミルカをいつも虐げてるらしいじゃないか、そんな事性悪な貴様とは婚約破棄だ!!」
「ミルカを次の婚約者とする!!」
突然のことで反論できず、失意のまま帰宅する。
帰宅すると父に呼ばれ、「婚約破棄されたお前を置いておけないから修道院に行け」と言われ、何もかもが嫌になったメロディは父と義母の前で転移魔法で逃亡した。
魔法を使えることを知らなかった父達は慌てるが、どこ行ったかも分からずじまいだった。

魅了魔法にかかって婚約者を死なせた俺の後悔と聖夜の夢
鍋
恋愛
『スカーレット、貴様のような悪女を王太子妃にするわけにはいかん!今日をもって、婚約を破棄するっ!!』
王太子スティーヴンは宮中舞踏会で婚約者であるスカーレット・ランドルーフに婚約の破棄を宣言した。
この、お話は魅了魔法に掛かって大好きな婚約者との婚約を破棄した王太子のその後のお話。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※魔法のある異世界ですが、クリスマスはあります。
※ご都合主義でゆるい設定です。


【完結】婚約破棄の代償は
かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティにて王太子に婚約破棄を告げられる侯爵令嬢のマーガレット。
王太子殿下が大事にしている男爵令嬢をいじめたという冤罪にて追放されようとするが、それだけは断固としてお断りいたします。
だって私、別の目的があって、それを餌に王太子の婚約者になっただけですから。
ーーーーーー
初投稿です。
よろしくお願いします!
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる