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「い、いずれ爵位を継ぐぼくが、ろくに資産もない子爵令嬢と結婚してもよいと言うのですか?!」

 侯爵は侮蔑の双眸でネイトを見下ろしたが、他の者はみな、やはり、と呆れたように苦笑していた。

「──お前はとことん愚かだな。こんなことをしでかした貴様が、爵位を継げると本気で思っているのか?」

「だ、だって。エリンは、そんなこと一言も……慰謝料と謝罪と……」

「馬鹿め。二人で幸せに、とおっしゃられていたことから察せなかったのか。それらは全て、お前をブファン侯爵家から除籍する前提での話しだ──ですよね、エリン様」

 エリンは答えず、ただ、口元を緩めた。

「本来、お前は一生を地下牢で過ごしてもおかしくないことをした。エリン様の寛大な心に、感謝するんだな」

 理解が追い付かず、ネイトがぽかんと口を半開きにする。

「除籍って……屋敷を追い出されるってことですか?」

「当たり前だろう。いいか。お前はこれから言われた通り、脅迫した令嬢に謝罪してまわれ。言っておくが、執事が二人の令嬢の屋敷に先回りして、もうお前はブファン侯爵家の人間ではなく、ただの平民だと伝えているから、そのつもりで。それでもまだ馬鹿なことを言うつもりなら、それ相応の覚悟をしておけ」

「……さ、先ほどのやり取りは、まさか……」

「ああ、そうだ。お前が白状してくれて良かったよ。確かな証拠は、何もなかったからな」

 ネイトが声をなくす。当然だろう。もはや何の後ろ盾もないネイトは、貴族令嬢である彼女たちに何をされようとも、逆らうことなどできないのだから。

「そのあとは、世界で一番大切なアデラの元に行けばいいさ。結婚でも何でも好きにしろ」

 侯爵が吐き捨てる。ネイトは絞り出すようにぼそぼそと呟いた。

「……ですが。アデラの家に、人を養う余裕など」

「知らん。どうでもいい。そうだ、エリン様。アデラには婚約者がいたはずですが、いかがいたしましょう」

「ああ、そうでしたね。よくよく考えてみれば、ネイトは平民になるのですから、アデラの親が許すはずありませんよね。アデラに何かする気はありませんので、あとは二人に任せます。まあ、あなたたちは情の形がどうであれ、相思相愛だったのですから。アデラがあなたを見捨てるはずありませんよ。良かったですね。これからは誰に遠慮することなく、大好きなアデラの傍に、ずっといられますよ」

「……そんなこと、ぼくは、望んでない……」

 ネイトが顔面蒼白でぼやく。エリンはそれが本心だろうと、そうでなかろうと、もうどうでもいいことのように続けた。

「何でしたら、アデラにも家を捨てるよう説得して、二人で駆け落ちでもしたらいいんじゃないですか? わたしはあなたの姿をもう二度と見なくてすむのなら、それでよいですよ。幸せを願いはしませんが、その邪魔をするつもりもありませんので、安心してください」

「──あ、あの!」

 突然声を挟んできたのは、リックだった。

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