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 婚約者である令嬢──しかも爵位が上の令嬢を、身勝手な理由で殺害しようとしたミックには、死刑が宣告された。父親であるホルン伯爵が贖罪金を差し出せば、終身刑になる可能性もあったが、ミックが罪を犯したと知るやいなや、ホルン伯爵はミックを、何の迷いもなくホルン伯爵家から除籍した。

 後に知ったことだが、ミックもまた、フィオナと同じように、家族から愛されずに育った子どもだった。だからこそ、あれだけフローラに執着していたのかもしれない。ミックにとっては、フローラこそ、全てだったのだろう。

 今は脱け殻のように、地下牢にて、フローラに会えるそのときを待っている。


 フィオナの元家族は、頼れる者も財産もなく、まして贖罪金など出せるわけもなく、それぞれを地下牢にて数年の時を過ごすことになる。刑期を終えても、行くあても何もない元両親は、生きる術もないうえにプライドだけは高いまま。平民として生きながれえるくらいならと、まもなく自害を選ぶことになる。対して元兄は、犯罪に手を染めることになり、後に死刑が宣告されることになる。



 心が満たされた今になって、フィオナはふと、考えることがある。それは、姉のフローラのこと。

 あの家族は、本当に姉を愛していたのだろうか。そんな疑問がわいてきて、思う。姉は、はたしてフィオナより、幸せだったのだろうか。ミックの重すぎる愛に、息が詰まることはなかったのだろうか。

 ──もっと話し合えていれば、何かが変わっていたのだろうか、と。


「どうした?」

 はっとする。見れば、馬車はとうに学園へと到着していた。心配そうにこちらを見てくるニールに、どこか安堵したフィオナが微笑む。

「いいえ。幸せを噛み締めていただけです」

 何だそれは。言いながら、先に馬車をおりたニールが手を差し出す。その手に引かれ、フィオナが馬車をおりる。まわりの女子生徒たちが、フィオナに敵意の眼差しを向けてくるのがわかった。その中には、以前、味方だとフィオナを励ましてくれた令嬢も混じっていた。

(……仕方ないよね。ニール様はみなの憧れの的ですもの)

 フィオナが苦笑する。その想いを読み取ったように、ニールが、辛いか、と静かに問いかけてきた。フィオナは、まさか、と心から笑った。

「この程度で心が揺さぶられるようでは、ニール様の隣にいる資格など、ありませんから」

 ニールが「そうか」と満足そうに口角をあげる。そう。この程度のこと、何でもない。

 だって。

「フィオナ、おはよう」

 愛する人と、大切な親友な傍にいてくれるから。

「おはよう、ジェマ」


 わたしの世界はきっと、これから──。



             ─おわり─
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