溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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 そこから顔を出したのは、むろん、フィオナだ。隣には女性の使用人がいて、フィオナを支えている。

「「──フィオナ!」」

 重なった侯爵と侯爵夫人の呼び声に、フィオナは恐怖と嫌悪に顔をひきつらせた。

「……名前を呼ばないで! あなたたちなんて親でも何でもないわ! もうほうっておいて! アイン侯爵家の屋敷に帰るぐらいなら、死んだほうがましよ!!」

 悲鳴のような心からの叫びに、侯爵と侯爵夫人が驚きに目を見張る。フィオナは二人のリアクションを待つことなく、早々に引っ込んだ。使用人の女が、ぱたんと窓を閉じる。

「どうだ。嘘ではなかっただろう?」

 腕を組み、ニールが吐き捨てる。驚愕する二人に、ニールは怒りを通り越していっそ呆れてしまった。

(……こいつら、本当に阿呆だな)

 だが、と考える。阿呆だからこそ、行動の予測がつかないことがある。誘拐だなんだと騒がれては──まあ、どうにかなるものの──些か面倒だと。

 ──だから。

「わたしがフィオナを説得してやろうか?」

 唐突なニールの提案に、侯爵と侯爵夫人は、え、と顔をあげた。

「ほ、本当ですか? 私たちがいかにフィオナを想っているか、伝えていただけるのですか?」

 侯爵の返しに、ニールは何とも言えない顔をしてから、まあな、と答えた。

「だが、あの様子では時間がかかるだろう。少なくとも、ひと月……いや、それ以上かもな」

 侯爵夫人が「かまいませんわ!」と勢いよく答える。ニールは二人に気付かれぬように小さく口元を緩めてから、口を開いた。

「そうか。なら、わたしからの連絡を待っていてくれ。いいか。それまではくれぐれも余計なことはするなよ」


 もちろんですとも。
 侯爵と侯爵夫人は、二人そろって頷いた。
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