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「わたしの証言を疑うか。いい度胸だ」

 サアッ。
 顔から一気に血の気が引いていくのを感じながら、侯爵夫人が「……と、とんでもありません」と、首を左右にふる。隣に立つ侯爵も同様な顔色をしている。

 厄介なことをしてくれたものだ。

 そんな苛立ちから、使用人からの報告をまともに聞いていなかった二人は、目撃者がいるという情報すら、耳に入っていなかったのだ。

「──出ていけ。いいか、三度目はないぞ」

 静かな怒気が宿る声色に、さすがの侯爵と侯爵夫人も、大人しく病室から出ていかざるを得なかった。


 次の日。

 朝からフィオナの病室を訪れた二人だったが、そこにはすでに、フィオナの姿はなかった。

「む、娘はいったいどこに行った!?」

 慌てる侯爵たちに、医師は「ニール・ブラート様が連れて行かれましたよ」と告げた。それから馬車を走らせ、王都内にあるブラート公爵が所有する屋敷の一つ──今は学園に通うニールが複数の使用人と暮らしている──を訪れた二人だったが。

「お前たちには会いたくないそうだ」

 門の前で待っていた二人に、屋敷から出てきたニールが、門扉越しにそう告げた。侯爵が声を荒げる。

「お、親の承諾なしに娘を勝手に屋敷に連れ込むなど、いくら公爵令息といえども許されることではありませんよ!」

「ほう。では、警察ヤードにでも駆け込むか?」

「そ、れは……」

「あなた! この方はフィオナと恋仲にあるお方ですのよ。これもきっと、フィオナを想っての行動なのです。そうですよね?」

 慌てて口を挟んできた侯爵夫人。ニールはつかの間沈黙したあと、ああ、とだけ答えた。

「ほら、ごらんなさいな。夫が失礼をいたしました。ですがこれも、娘を想ってのこと……その、一目でよいのでフィオナに会わせてもらうことはできないのでしょうか?」

 ニールは「……クズが」と小さく舌打ちし、傍にひかえていた侍従に目配せをした。侍従が、はい、と言い、屋敷に入っていく。

「二階の、一番右端の部屋を見ていろ。顔を見せるかどうかは知らんがな」

 ニールに言われた通りに、侯爵と侯爵夫人がそこに目を向ける。しばらくして、部屋の窓が開けられた。
 
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