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「良かった。目が覚めたのね」

 病室の寝台の上で目を覚ましたフィオナの視界にまず入ったのは──侯爵夫人だった。隣には、侯爵。他には誰もいなかった。

「ミックに首を絞められたと聞いたが……本当か? 何かの間違いじゃないのか?」

 侯爵が問いかける。まだぼんやりしているフィオナは、何も答えない。

「だとしても、きっと本気じゃなかったわよ。こうして生きているわけだし。それにあなた、昨日はとてもひどいことを言っていたもの。自業自得なところもあるわよ?」

 侯爵夫人がフィオナをたしなめるような口調で語ると、侯爵は同意するようにうなずいた。

「そうだな。これはお互い様だ。被害者であるお前がそんなことはされていないと証言すれば、何とでもなるだろう。この意味、理解できるな?」

 否定は許さない。そう双眸に宿す両親を、ガラス玉のような瞳で見上げるフィオナ。


「──聞きしに勝るクズだな」


 と、吐き捨てながら病室に入ってきたのは、ニールだった。侯爵夫人が目を吊りあげる。

「どなたかは知りませんが、ノックもなしに入ってくるなんて、無礼ではなくて?」

 だがそれを、何かに気付いたようにはっとした侯爵が、真っ青な顔で止めに入った。

「ば、馬鹿! この方はブラート公爵のご子息、ニール様だ!」

「え? ブラート公爵って……」

 困惑する公爵たちの間をすり抜け、ニールはフィオナに近付いた。見ると、虚ろな双眸をしたフィオナが、こちらに向かって手を伸ばしていた。その手を、ニールがそっと握る。

「……あ、あらまあ。もしかして」

「フィオナ。お前、ニール様とそういう関係だったのか……?」


 二人の様子に、侯爵と侯爵夫人は頬が緩むのを押さえられなかった。


 
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