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「嫌な思いをさせてすまなかったな、フィオナ。ミックにはあらためて、私からよく言って聞かせるから」
侯爵がすまなそうに謝罪する。当初は、どうせミックから婚約解消を申し出てくれるだろうと考えていたのだが、思っていたよりミックの執着心は強かった。ならば──この様子では無駄かもしれないが、諦めずに、伝え続けるより他に選択肢はないように思えた。
このままでは、修道院にすら行けなくなってしまう。そうなれば、残された道は──。
「お父様。例えミックがわたし自身を愛してくれたとしても、わたしはもう、ミックを愛していません。どころが、気味が悪くて仕方がないのです。吐き気すら覚えるほどに」
ここまでの拒絶ははじめてで、さすがのミックも「な……っ」と、言葉をなくしていた。
「フィ、フィオナったら。それは言い過ぎなのではなくて?」
侯爵夫人がたしなめるが、もはや同じぐらい嫌悪を抱く相手に何を言われようとも、何の感情も動くはずもなく。「そうでしょうか」と、フィオナはさらっと答えた。
侯爵はやれやれと諦めたように深いため息をつくと、まとう空気を一変させた。
「──フィオナ、いい加減にしなさい。貴族がそうそう、好いた相手と結婚できるわけがないだろう。愛のある結婚など、幻想に過ぎない」
その科白の意図を汲み取り、フィオナはぐっとこぶしを握りしめた。
「……お父様はどうあっても、ミックとわたしと結婚させるおつもりなのですね?」
開き直ったのか。侯爵はふん、と腕を組んだ。
「結婚とはしょせん、家と家との繋がりだ。どれだけ互いに利益が得られるか。それが重要なのだ。お前にはわからんかも知れんがな」
お前の意思など、はじめから関係ないのだ。スムーズに事が運ぶようにと甘やかしてやれば、調子にのりおって。威圧的に侯爵が続ける。
フィオナはしばらく沈黙してから「……なるほど。よくわかりました」と淡々と告げた。それからすっと表情をなくし、命じられるままに、両親とミックと共に食卓を囲んだ。
満足気に笑う両親に対し、フィオナとミックは、終始無言だった。
侯爵がすまなそうに謝罪する。当初は、どうせミックから婚約解消を申し出てくれるだろうと考えていたのだが、思っていたよりミックの執着心は強かった。ならば──この様子では無駄かもしれないが、諦めずに、伝え続けるより他に選択肢はないように思えた。
このままでは、修道院にすら行けなくなってしまう。そうなれば、残された道は──。
「お父様。例えミックがわたし自身を愛してくれたとしても、わたしはもう、ミックを愛していません。どころが、気味が悪くて仕方がないのです。吐き気すら覚えるほどに」
ここまでの拒絶ははじめてで、さすがのミックも「な……っ」と、言葉をなくしていた。
「フィ、フィオナったら。それは言い過ぎなのではなくて?」
侯爵夫人がたしなめるが、もはや同じぐらい嫌悪を抱く相手に何を言われようとも、何の感情も動くはずもなく。「そうでしょうか」と、フィオナはさらっと答えた。
侯爵はやれやれと諦めたように深いため息をつくと、まとう空気を一変させた。
「──フィオナ、いい加減にしなさい。貴族がそうそう、好いた相手と結婚できるわけがないだろう。愛のある結婚など、幻想に過ぎない」
その科白の意図を汲み取り、フィオナはぐっとこぶしを握りしめた。
「……お父様はどうあっても、ミックとわたしと結婚させるおつもりなのですね?」
開き直ったのか。侯爵はふん、と腕を組んだ。
「結婚とはしょせん、家と家との繋がりだ。どれだけ互いに利益が得られるか。それが重要なのだ。お前にはわからんかも知れんがな」
お前の意思など、はじめから関係ないのだ。スムーズに事が運ぶようにと甘やかしてやれば、調子にのりおって。威圧的に侯爵が続ける。
フィオナはしばらく沈黙してから「……なるほど。よくわかりました」と淡々と告げた。それからすっと表情をなくし、命じられるままに、両親とミックと共に食卓を囲んだ。
満足気に笑う両親に対し、フィオナとミックは、終始無言だった。
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