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「……ニール様」
綺麗な低音。けれど圧倒的な圧のある声に、ミックが怯む。フィオナはその隙に手を振り払うと、ミックから距離をとった。
「フィオナ!!」
尚も食い下がるミックが、手を伸ばす。フィオナはそれを、右手で叩き落とした。
「もういい加減にして! フローラお姉様の代わりは他で探して!」
「フローラになれるのはきみだけなんだよ!」
また伸ばされたミックの腕を掴んだのは──ニールだった。ぎりっ。強い力で、ミックの腕が捻れていく。
「何を……は、はなしてください……っ」
苦痛に顔を歪めるミックを見ながら、ニールは淡々と告げた。
「──なるほどな。こいつの様子が可笑しかったのは、貴様のせいか」
腕は捻られたまま、ミックは高身長のニールを見上げ、睨み付けた。
「フィオナはぼくの婚約者です。貴殿にはかかわりのないこと。ほうっておいてくださいっ」
ニールは横目でフィオナを見てから、ミックに視線を戻した。
「婚約者──のわりには、随分と煙たがられているようだが」
「意見の相違です」
「そいつが姉になることを拒んでいることか?」
ミックがきっぱりと「そうです」と答える。またまわりがざわついた。ニールは不気味なものでも見るかのような目付きで「お前、気でも狂っているのか?」と、眉を寄せた。
──が。
「はあ?」
ミックの馬鹿にしたような、蔑んだような顔つきと声色に、ニールはぴくんと片眉を動かしたかと思うと、流れるような動作でミックの胸ぐらを掴んだ。
「──貴様。いい度胸をしているな」
そのまま持ち上げられたミックが「ひ……っ」と小さな悲鳴をあげる。ミックにとって幸いだったのは、そのタイミングで鐘が鳴ったことだった。
ニールは舌打ちしながら、ぱっと手をはなした。持ち上げられたぶんの高さからそのまま落とされたミックが、尻を強打する。
「こ、これは暴力だ! 訴えさせてもらうからな!!」
ミックが叫ぶ。ニールに、誰かに迷惑をかけるなど、冗談ではない。フィオナが抗議のため、目を吊り上げる。だが、フィオナが何かをする必要もないほど、女子生徒たちがものすごい勢いでミックに詰め寄った。
「何が暴力よ! 先に無礼を働いたのはあなたでしょう?!」
「そうよ! それにニール様は、とちくるったあなたからフィオナ様を守ろうとしただけじゃない!」
「前から気味の悪い人だとは思っていたけれど、思っていた以上だったわ!」
これにはさすがにまいったのか。ミックは痛む尻を押さえながら立ち上がり、青い顔で逃げていった。
「──フィオナ? 大丈夫?!」
人混みをかきわけるように教室内から走って出てきたジェマの姿に、フィオナはようやく緊張の糸がほぐれたような気がした。
綺麗な低音。けれど圧倒的な圧のある声に、ミックが怯む。フィオナはその隙に手を振り払うと、ミックから距離をとった。
「フィオナ!!」
尚も食い下がるミックが、手を伸ばす。フィオナはそれを、右手で叩き落とした。
「もういい加減にして! フローラお姉様の代わりは他で探して!」
「フローラになれるのはきみだけなんだよ!」
また伸ばされたミックの腕を掴んだのは──ニールだった。ぎりっ。強い力で、ミックの腕が捻れていく。
「何を……は、はなしてください……っ」
苦痛に顔を歪めるミックを見ながら、ニールは淡々と告げた。
「──なるほどな。こいつの様子が可笑しかったのは、貴様のせいか」
腕は捻られたまま、ミックは高身長のニールを見上げ、睨み付けた。
「フィオナはぼくの婚約者です。貴殿にはかかわりのないこと。ほうっておいてくださいっ」
ニールは横目でフィオナを見てから、ミックに視線を戻した。
「婚約者──のわりには、随分と煙たがられているようだが」
「意見の相違です」
「そいつが姉になることを拒んでいることか?」
ミックがきっぱりと「そうです」と答える。またまわりがざわついた。ニールは不気味なものでも見るかのような目付きで「お前、気でも狂っているのか?」と、眉を寄せた。
──が。
「はあ?」
ミックの馬鹿にしたような、蔑んだような顔つきと声色に、ニールはぴくんと片眉を動かしたかと思うと、流れるような動作でミックの胸ぐらを掴んだ。
「──貴様。いい度胸をしているな」
そのまま持ち上げられたミックが「ひ……っ」と小さな悲鳴をあげる。ミックにとって幸いだったのは、そのタイミングで鐘が鳴ったことだった。
ニールは舌打ちしながら、ぱっと手をはなした。持ち上げられたぶんの高さからそのまま落とされたミックが、尻を強打する。
「こ、これは暴力だ! 訴えさせてもらうからな!!」
ミックが叫ぶ。ニールに、誰かに迷惑をかけるなど、冗談ではない。フィオナが抗議のため、目を吊り上げる。だが、フィオナが何かをする必要もないほど、女子生徒たちがものすごい勢いでミックに詰め寄った。
「何が暴力よ! 先に無礼を働いたのはあなたでしょう?!」
「そうよ! それにニール様は、とちくるったあなたからフィオナ様を守ろうとしただけじゃない!」
「前から気味の悪い人だとは思っていたけれど、思っていた以上だったわ!」
これにはさすがにまいったのか。ミックは痛む尻を押さえながら立ち上がり、青い顔で逃げていった。
「──フィオナ? 大丈夫?!」
人混みをかきわけるように教室内から走って出てきたジェマの姿に、フィオナはようやく緊張の糸がほぐれたような気がした。
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