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 フローラの遺体はその後、教会の裏手にある墓所に埋葬された。父親も母親も、兄も、ミックも。ずっと泣き続けていた。

 ──けれど、しばらくして。

「もうすぐ冬が終わるとはいえ、まだ寒いね。風邪をひくといけないから、もう帰ろう」

「……え、あの」

 ミックがそう言って、フィオナに手を伸ばしてきた。フィオナが混乱する。昨日、ミックたちが優しい言葉をかけてくれたのは、フローラを失ったショックからくる一時的なものだと思っていたからだ。

「そうね。日が暮れてしまえば、もっと気温が下がるもの。早く帰って、あたたかいスープを作ってもらいましょうね」

 涙のあとを残す母親も、小さく微笑んでいる。父親も同じ。これまでまともに会話したことはおろか、目線さえ合わせようとしなかったのに。

 ただ、兄だけは内情を知るアイン侯爵家の使用人たちと同じように怪訝な顔をしていたが、とても口を挟める空気ではなかったのだろう。それほどまでに、この光景は異常だったから。


 ──この人たちは、わたしをフローラお姉様の代わりにしようとしている。

 フィオナは、頭ではわかっていた。フローラを失った哀しみを、ただ顔が似ているという理由だけでフィオナを愛し、それを必死に埋めようしていると。

 いままで一度だって愛してくれたことなどなかったくせに、ふざけないで。そう叫んでしまいたい気持ちはあるのに、声が出せない。代わりのようにあふれてきたのは、涙だった。


 次の日の朝。

 少し悩んではみたものの、フィオナは髪を束ねることをやめ、フローラのように髪を垂らして、父親と母親が待つ食堂へと向かった。兄は、王都外にある自身の屋敷に、昨日のうちに早々に帰ってしまったため、もう姿はなかった。

「……おはようございます」

 もしこれでフローラの真似をするなと怒鳴られたら、もうやめにしよう。意を決して食堂内へ入ると、両親は一瞬目を見張ったものの、すぐに笑顔になった。

「まあ! その髪型、よく似合っているわ。ねえ、あなた」

「ああ、そうだな」

 フィオナの心中は、むろん複雑だった。それでもはじめて親から褒めてもらえたことは、フィオナにとって、この上なく嬉しいことだった。

 
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