溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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 フィオナは全てに絶望し、部屋に閉じこもるようになった。ミックとフローラが話しかけても、無言を貫いた。両親と兄とミックは怒ったが、フローラはただ、哀しんだ。それがよけい、両親たちの怒りをかうことになり、フィオナはどんどん孤立していった。

 愛されない寂しさをうめるように、フィオナは勉学はもちろん、淑女の教養として大切な音楽、ダンスにもただひたすらうちこんだ。そのかいもあって、王立学園の入試では、第二位という結果をおさめることができた。

 でも、誰も褒めてはくれなかった。どうしても学園に通いたいというフローラが入試に受かったことだけを、家族とミックは喜んだ。


 学園に入学とほぼ同時に、フローラとミックは婚約した。ミックはいつでも、フローラを支え、傍にいた。学園の廊下ですれ違うと、フローラはいつもフィオナに笑顔で話しかけてきたが、フィオナはどうしても笑みをつくれず、黙りこんでしまうことが多々あった。その都度、フローラは哀しそうな顔をし、時にはしくしくと泣きだしてしまうことすらあった。その様子に、ミックはむろんのこと、他の男子生徒もフィオナを責めるようになった。

 病弱でか弱いフローラは、庇護欲をそそられる存在だったのだろう。だが面白いことに、女子生徒の大半の反応は真逆だった。

「まあ、なんですの。あれは。男性に庇われることが当然のように」

「まったくですわ。知ってます? あの方、ナイフとフォークより重いものは持てないそうですわよ」

 妹として最低だとは承知しているが、それでも女子生徒のフローラに対する評価に、救われた気さえすることがあった。

(……こんなわたしじゃ、愛されなくて当然ね)

 自身を嘲笑う。そんなフィオナを、真正面から肯定してくれる存在が現れた。

「あの難しい入学試験で二位だなんて。本当にすごいですね」

 授業中にふいに教師がもらした事実に、たまたま隣の席に座っていたジェマが、キラキラした瞳で言ってきた。フィオナは思わず、苦笑してしまった。

「すごくないわ。他にすることも、興味もなかったから勉学に打ち込めただけ。ね? つまらない人間でしょ?」

 するとジェマは「でも、フィオナ様が努力したのは本当でしょう?」と、心底不思議そうに首をかしげた。それはただ、純粋な問いで。

 そうね。とは、フィオナには答えられなかった。自身を肯定したことなど、なかったから。でも。

「……え、と」

 返答に困り、目線をさ迷わせる。このときのフィオナは、泣くのを堪えるのに必死だった。

 そう、そうなの。わたしなりに、必死に努力はしたの。でも、誰も褒めてくれなかったから、わたしは無駄なことをしたんだなって。わたしがどんなに努力しても、誰も喜んでくれなかったことが、本当はとても哀しかったの。

 怒涛のように押し寄せる感情に、フィオナ自身が困惑していると、

「──フィオナ様」

 優しく名を呼ばれ、そっと顔をあげた。ジェマはただ静かに、優しい笑顔を浮かべているだけだったけれど。


 フィオナにはどうしてか、大丈夫ですよ、とジェマが言ってくれているような気がした。


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