溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

文字の大きさ
上 下
6 / 41

6

しおりを挟む
 フィオナは全てに絶望し、部屋に閉じこもるようになった。ミックとフローラが話しかけても、無言を貫いた。両親と兄とミックは怒ったが、フローラはただ、哀しんだ。それがよけい、両親たちの怒りをかうことになり、フィオナはどんどん孤立していった。

 愛されない寂しさをうめるように、フィオナは勉学はもちろん、淑女の教養として大切な音楽、ダンスにもただひたすらうちこんだ。そのかいもあって、王立学園の入試では、第二位という結果をおさめることができた。

 でも、誰も褒めてはくれなかった。どうしても学園に通いたいというフローラが入試に受かったことだけを、家族とミックは喜んだ。


 学園に入学とほぼ同時に、フローラとミックは婚約した。ミックはいつでも、フローラを支え、傍にいた。学園の廊下ですれ違うと、フローラはいつもフィオナに笑顔で話しかけてきたが、フィオナはどうしても笑みをつくれず、黙りこんでしまうことが多々あった。その都度、フローラは哀しそうな顔をし、時にはしくしくと泣きだしてしまうことすらあった。その様子に、ミックはむろんのこと、他の男子生徒もフィオナを責めるようになった。

 病弱でか弱いフローラは、庇護欲をそそられる存在だったのだろう。だが面白いことに、女子生徒の大半の反応は真逆だった。

「まあ、なんですの。あれは。男性に庇われることが当然のように」

「まったくですわ。知ってます? あの方、ナイフとフォークより重いものは持てないそうですわよ」

 妹として最低だとは承知しているが、それでも女子生徒のフローラに対する評価に、救われた気さえすることがあった。

(……こんなわたしじゃ、愛されなくて当然ね)

 自身を嘲笑う。そんなフィオナを、真正面から肯定してくれる存在が現れた。

「あの難しい入学試験で二位だなんて。本当にすごいですね」

 授業中にふいに教師がもらした事実に、たまたま隣の席に座っていたジェマが、キラキラした瞳で言ってきた。フィオナは思わず、苦笑してしまった。

「すごくないわ。他にすることも、興味もなかったから勉学に打ち込めただけ。ね? つまらない人間でしょ?」

 するとジェマは「でも、フィオナ様が努力したのは本当でしょう?」と、心底不思議そうに首をかしげた。それはただ、純粋な問いで。

 そうね。とは、フィオナには答えられなかった。自身を肯定したことなど、なかったから。でも。

「……え、と」

 返答に困り、目線をさ迷わせる。このときのフィオナは、泣くのを堪えるのに必死だった。

 そう、そうなの。わたしなりに、必死に努力はしたの。でも、誰も褒めてくれなかったから、わたしは無駄なことをしたんだなって。わたしがどんなに努力しても、誰も喜んでくれなかったことが、本当はとても哀しかったの。

 怒涛のように押し寄せる感情に、フィオナ自身が困惑していると、

「──フィオナ様」

 優しく名を呼ばれ、そっと顔をあげた。ジェマはただ静かに、優しい笑顔を浮かべているだけだったけれど。


 フィオナにはどうしてか、大丈夫ですよ、とジェマが言ってくれているような気がした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結保証】ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結保証】公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

「あなたは公爵夫人にふさわしくない」と言われましたが、こちらから願い下げです

ネコ
恋愛
公爵家の跡取りレオナルドとの縁談を結ばれたリリーは、必要な教育を受け、完璧に淑女を演じてきた。それなのに彼は「才気走っていて可愛くない」と理不尽な理由で婚約を投げ捨てる。ならばどうぞ、新しいお人形をお探しください。私にはもっと生きがいのある場所があるのです。

愛してくれない婚約者なら要りません

ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~

ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

【完結保証】上辺だけの王太子妃はもうたくさん!

ネコ
恋愛
侯爵令嬢ヴァネッサは、王太子から「外聞のためだけに隣にいろ」と言われ続け、婚約者でありながらただの体面担当にされる。周囲は別の令嬢との密会を知りつつ口を噤むばかり。そんな扱いに愛想を尽かしたヴァネッサは「それなら私も好きにさせていただきます」と王宮を去る。意外にも国王は彼女の価値を知っていて……?

処理中です...