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 同じ学年ではあるが、フィオナとミックは、別のクラスだった。フィオナを教室の前まで送り届けたミックが「じゃあ、またね」と、名残惜しそうに手をふる。ええ。フィオナは手をふり返してから、教室内へと入った。

 遠巻きにあいさつをしてくる者はあれど、話しかけてくる生徒はいない。フィオナは対して気にした様子もなく、きょろっと視線をさ迷わせた。

(……あ、いた)

 目当ての人物を見つけたフィオナが、階段上になっている席の、一番上の右端へと向かう。気付いた人物が、ゆっくりとフィオナの方へと顔を向けた。

「……おはよう、フィオナ」

「ええ。おはよう、ジェマ」

 かわいた笑顔であいさつをしてくれたのは、この学園に通うようになってからはじめて出来た、学友のジェマだ。子爵令嬢である彼女とは、何故だか小さなころからの付き合いがある友のように、気が合った。同じ空気間、とでもいうのだろうか。

 ──いや。最大の理由はきっと、別のところにあるのだろうが。

 とにかく、侯爵令嬢であるフィオナと身分の差はあれど、互いに信頼しあい、今では唯一の親友とも呼べる仲になっていた。

「……今日もミック様と一緒に登校してきたのね」

 隣に座るフィオナをじっと見ながら、ジェマが声をかけてくる。

「ええ。婚約者だもの。教室まで送り迎えするなんて、少し過保護過ぎる気もするけど」

「──そっか。ね、フィオナ」

「なあに?」

「いま、幸せ……?」

 ジェマの、確かめるような小さな問いかけに、フィオナが微笑む。

 家族に。大好きな人に。愛されているいまが不幸だなんて、あるわけないじゃない。

 心で呟き、フィオナは「もちろんよ」と答えた。



 昼休み。
 教室の扉付近で待つミックに「すぐに行くわ」と声をかけながら、フィオナは隣に立つジェマに向き直った。

「ジェマ。今日こそ一緒に、昼食をとらない?」

 ジェマは何度目かのフィオナの誘いに「ごめんね」とだけ返した。そう。哀しそうにうつ向くフィオナが踵を返す。そこでジェマが、待って、と声をかけてきた。

 気が変わったの? と嬉しそうに振り返るフィオナに、ジェマがハンカチを差し出してきた。

「これ、落としたよ」

「あ……ありがとう」

 何だ、違ったのね。落胆したフィオナがハンカチを受けとる。それは今朝、ミックから貰ったばかりの赤薔薇が刺繍されているハンカチだった。

「……それ、ミック様からの贈り物?」

「え、ええ。そうなの。綺麗でしょう?」

 フィオナが、にこっと笑う。ジェマは、そうね、とだけ答えてくれた。

 
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