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第8章 桜吹雪の下で
7話 焦がれた唯一**
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ミソラが立ち上がったのを合図のようにして、あやかしたちが一斉に霧のようにかき消えた。近くにも、誰も残っている気配がない。
蘇芳は、知らず詰めていた息をゆるゆると吐いた。
しかしそれも束の間、にわかにまた違う緊張に襲われる。
——晴弥の方、見られない……。
あれだけ勢いよく抱きつきにいったくせに、今更途方もなく緊張して、心臓の音が晴弥にまで聞こえてしまうのではないかと思う。
——でも、枷は外してあげなければ……だってきっと、すごく辛いはず。
しかし、外したらどうなるのか、ミソラに仄めかされてしまった今、意識しないではいられない。
逡巡している蘇芳を訝ったのか、晴弥がわずかに身動きする。
「……」
ハッと見上げた先に、黄金の瞳があった。
美しく、力強く、自分を射抜くその目に、どれだけ焦がれ続けてきたか。
見つめ返したその目に浮かぶ、紛れもない熱情を認めた途端、羞恥と緊張を上回る衝動に身体が勝手に動いた。
「……、ッ」
かじりつくように、頭を抱えて、唇を重ねる。
ずっと、こうしたかった。初めて身体を重ねた時には、混乱と激情に飲まれてそんなことを思う余裕すらなかった。
今だって変わらず余裕はないけれど、何が欲しいのかを、蘇芳はもう知っている。
初めて感じるその熱さと柔らかさに目眩がしそうで、無我夢中で吸い付いた。
「ぅ、」
晴弥が苦しげに漏らす呻きに、ハッと少しだけ我に返る。
口付けは止めないまま、片手に握り込んでいた若葉に力を集めるように意識をし、背中を探って手枷に押しつけた。
ごと、と重たそうな音を立てて外れた枷が晴弥の手から弾き飛ばされるのと、蘇芳の視界がぐるりと回るのとが同時だった。
「ン! ふ、ぅん、んん……ッ」
柔らかな下草の上に組み敷かれ、むせるような濃い匂いが立ち込める。脳の奥が蕩け、意識が霞むほどの熱が腹の奥から込み上げた。
——あ、晴弥の匂い……すっご……。
貪られるのが幸せで、くたりと力が抜けてしまって、ぞわぞわと急速に発情しているのが分かった。
もう、ようやく本当に、何も気にしなくていい。
——これは、俺の甲。唯一の、俺のつがい。
心の命じるままに、蘇芳は手を伸ばした。
「んぁ、ッふ、ん、ぁ……!」
分厚い舌に口内をくまなく擦られ、口ごと食べられているような錯覚。
こうして熱を交わす行為がこんなに切なく心を掻き立てられるものだなんて、蘇芳は初めて知った。
ただ唇を触れ合わせるだけじゃない、ひどく無防備なところを相手に許す、身体の芯から溶けて崩れていってしまいそうな感覚を、蘇芳は全身を戦慄かせて味わっていた。
だらしなく開いた口の端から飲みきれない唾液が溢れていくのも構っていられず、上顎を擦られる快感に息が上がる。口の中にそんなに感じる箇所があるだなんて、知らなかった。
「ぁ! んん、んぅ、!」
着物の合わせをぐいとはだけられ、忍び入った手が素肌に滑る感触だけでぞくぞくと淡い刺激が走る。
焦らすような触れ方に涙が溢れれば、それを舐め取られて顔中口付けられ、本当に獣の獲物になったような気分だ。そこまで求められているという事実が嬉しくて、また新しい涙があふれた。
「は、ぁ、……」
自分でも晴弥の肌に触れたくて、力の入らない手で懸命に晴弥の帯を引っ張り、緩ませる。熱い素肌に直接触れただけで、えも言われず満たされる心地に吐息を漏らした。
「あんま煽んな」
唸り声がしたかと思えば、きつく首筋を吸われ、歯を立てられて、蘇芳が小さく悲鳴をあげる。
「ひぁ……ッ」
命を握られるのにも酷似した、つがう行為を想起させる歯の感触に興奮が一層増して、身体が悦びに跳ねた。首、鎖骨、と唇が降りていき、すでに期待に硬く尖っていた胸の頂に躊躇なく噛みつかれて、蘇芳が身悶えする。
「やああ……!」
もう片方も指の腹でこねられ、腰の奥が重たくなっていく感覚にびく、びくと身体が跳ねた。
さっきから全く触れてもらえていない足の間、後ろの方がもう蕩けて疼いて仕方ない。
「や、も、っと……」
恥じらいよりも欲しい気持ちが勝って、でも言葉にするのにはまだ理性がなくなりきっていなくて、足を巻きつけて訴える。だって、こんなの無理だ。
蘇芳は、知らず詰めていた息をゆるゆると吐いた。
しかしそれも束の間、にわかにまた違う緊張に襲われる。
——晴弥の方、見られない……。
あれだけ勢いよく抱きつきにいったくせに、今更途方もなく緊張して、心臓の音が晴弥にまで聞こえてしまうのではないかと思う。
——でも、枷は外してあげなければ……だってきっと、すごく辛いはず。
しかし、外したらどうなるのか、ミソラに仄めかされてしまった今、意識しないではいられない。
逡巡している蘇芳を訝ったのか、晴弥がわずかに身動きする。
「……」
ハッと見上げた先に、黄金の瞳があった。
美しく、力強く、自分を射抜くその目に、どれだけ焦がれ続けてきたか。
見つめ返したその目に浮かぶ、紛れもない熱情を認めた途端、羞恥と緊張を上回る衝動に身体が勝手に動いた。
「……、ッ」
かじりつくように、頭を抱えて、唇を重ねる。
ずっと、こうしたかった。初めて身体を重ねた時には、混乱と激情に飲まれてそんなことを思う余裕すらなかった。
今だって変わらず余裕はないけれど、何が欲しいのかを、蘇芳はもう知っている。
初めて感じるその熱さと柔らかさに目眩がしそうで、無我夢中で吸い付いた。
「ぅ、」
晴弥が苦しげに漏らす呻きに、ハッと少しだけ我に返る。
口付けは止めないまま、片手に握り込んでいた若葉に力を集めるように意識をし、背中を探って手枷に押しつけた。
ごと、と重たそうな音を立てて外れた枷が晴弥の手から弾き飛ばされるのと、蘇芳の視界がぐるりと回るのとが同時だった。
「ン! ふ、ぅん、んん……ッ」
柔らかな下草の上に組み敷かれ、むせるような濃い匂いが立ち込める。脳の奥が蕩け、意識が霞むほどの熱が腹の奥から込み上げた。
——あ、晴弥の匂い……すっご……。
貪られるのが幸せで、くたりと力が抜けてしまって、ぞわぞわと急速に発情しているのが分かった。
もう、ようやく本当に、何も気にしなくていい。
——これは、俺の甲。唯一の、俺のつがい。
心の命じるままに、蘇芳は手を伸ばした。
「んぁ、ッふ、ん、ぁ……!」
分厚い舌に口内をくまなく擦られ、口ごと食べられているような錯覚。
こうして熱を交わす行為がこんなに切なく心を掻き立てられるものだなんて、蘇芳は初めて知った。
ただ唇を触れ合わせるだけじゃない、ひどく無防備なところを相手に許す、身体の芯から溶けて崩れていってしまいそうな感覚を、蘇芳は全身を戦慄かせて味わっていた。
だらしなく開いた口の端から飲みきれない唾液が溢れていくのも構っていられず、上顎を擦られる快感に息が上がる。口の中にそんなに感じる箇所があるだなんて、知らなかった。
「ぁ! んん、んぅ、!」
着物の合わせをぐいとはだけられ、忍び入った手が素肌に滑る感触だけでぞくぞくと淡い刺激が走る。
焦らすような触れ方に涙が溢れれば、それを舐め取られて顔中口付けられ、本当に獣の獲物になったような気分だ。そこまで求められているという事実が嬉しくて、また新しい涙があふれた。
「は、ぁ、……」
自分でも晴弥の肌に触れたくて、力の入らない手で懸命に晴弥の帯を引っ張り、緩ませる。熱い素肌に直接触れただけで、えも言われず満たされる心地に吐息を漏らした。
「あんま煽んな」
唸り声がしたかと思えば、きつく首筋を吸われ、歯を立てられて、蘇芳が小さく悲鳴をあげる。
「ひぁ……ッ」
命を握られるのにも酷似した、つがう行為を想起させる歯の感触に興奮が一層増して、身体が悦びに跳ねた。首、鎖骨、と唇が降りていき、すでに期待に硬く尖っていた胸の頂に躊躇なく噛みつかれて、蘇芳が身悶えする。
「やああ……!」
もう片方も指の腹でこねられ、腰の奥が重たくなっていく感覚にびく、びくと身体が跳ねた。
さっきから全く触れてもらえていない足の間、後ろの方がもう蕩けて疼いて仕方ない。
「や、も、っと……」
恥じらいよりも欲しい気持ちが勝って、でも言葉にするのにはまだ理性がなくなりきっていなくて、足を巻きつけて訴える。だって、こんなの無理だ。
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