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第8章 桜吹雪の下で
6話 あるべき道へ
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「……分かった。分かったから、それならさっさとこれ外せ」
後ろ手に拘束している手枷を軋ませて、晴弥が唸る。この一連のやり取りの間もずっとミソラの力によって押さえつけられていたのだから、相当な負荷がかかっていたはずだった。
しかしミソラが予想に反して思案顔になる。
「うーん、そうだなあ、ちょっとこれは予想していなかったからねえ」
「は!? どう見てももうこれで全部終わりだろうが!?」
「いや、それはそうなんだけど、今それをここで外すと何が起きるか、考えてもごらん?」
言われて、はたと蘇芳が気づく。
そうだ、今自分が晴弥に触れる距離にいてなんともないのは、ミソラによって晴弥のあやかしの力が抑えられているからで、それが解放されたら、自分たちは。
真っ赤になった蘇芳に、ミソラがまたしても人の悪い顔で笑う。
「威嚇を制御もできていないようだし、ここで我々が見ている中で蘇芳に襲いかかる気なら、止めないけれどね?」
「や、ちょ、それは」
あからさまな揶揄に、晴弥が何もいう前に蘇芳が慌てて制止した。
盛大な舌打ちと共に、最大級の苛立ちを隠しもしない晴弥に、蘇芳もいたたまれない。
「でも、その、これってミソラさまにしか外せない……んですよね」
「そうなんだよねえ。……ああ、そうだ」
独り言のように言ったミソラが、徐に近くにあった若葉を無造作に摘み取り、ふっと息を吹きかける。
「蘇芳、手を出して」
言われるまま空いている方の手を差し出すと、ミソラがかがみこみ、手のひらに若葉が載せられた。若葉からはじんわりとミソラの気配がする。ミソラを見ると、頷きが返ってきた。
「私の力を一時的に載せてある。我々がここを去った後、その手枷に載せてお前の力を重ねれば、外れるよ」
自分にとっても親同然の存在に、自分たちが何をするか分かられていてにこやかにそう言われるのは、蘇芳が生きてきたまだ短い時間の中でも指折りに地面に埋まりたいほどの恥ずかしさだ。
「ああ、それから」
揶揄うような色がミソラの顔から消え、厳かな顔に戻る。
「私がこの地を治める間は、もうお前たちのように苦しむものをこれ以上は出さないと、約束しよう」
「それは……」
スッと頭が冴えていくような感覚に、蘇芳が居住まいを正す。身動きが不自由な晴弥もそれは同じであるようだった。
「生きとし生けるものは、その定めに沿って、あるべき場所で、そうあるように生きる、これを曲げてはいけない。我々も例外であってはならないということだ。……例え、どれほど近しく感じ、どれだけ姿を似せられても、我々は人に非ず。その境界の揺らぎがもたらすものを心に留め、我々はあるべき道に立ち返る」
周りに無言で立っているあやかしたち全てに言い聞かせるように、通る声で告げるミソラは、やはり人ならざる、この地を統べるものだった。
「我々の生きる時は長い。お前たちも、人の血をも引くとはいえ、人よりも遥かに長く生きるだろう。異なる道を歩むとも、お前たちも我々に連なる者だと私は思っている。いつでも、帰ってきなさい」
ミソラの瞳には、もういつかのような獰猛な光はなく、ただ全ての命を慈しむ、初めて会った時のあの大いなる存在の力があった。
後ろ手に拘束している手枷を軋ませて、晴弥が唸る。この一連のやり取りの間もずっとミソラの力によって押さえつけられていたのだから、相当な負荷がかかっていたはずだった。
しかしミソラが予想に反して思案顔になる。
「うーん、そうだなあ、ちょっとこれは予想していなかったからねえ」
「は!? どう見てももうこれで全部終わりだろうが!?」
「いや、それはそうなんだけど、今それをここで外すと何が起きるか、考えてもごらん?」
言われて、はたと蘇芳が気づく。
そうだ、今自分が晴弥に触れる距離にいてなんともないのは、ミソラによって晴弥のあやかしの力が抑えられているからで、それが解放されたら、自分たちは。
真っ赤になった蘇芳に、ミソラがまたしても人の悪い顔で笑う。
「威嚇を制御もできていないようだし、ここで我々が見ている中で蘇芳に襲いかかる気なら、止めないけれどね?」
「や、ちょ、それは」
あからさまな揶揄に、晴弥が何もいう前に蘇芳が慌てて制止した。
盛大な舌打ちと共に、最大級の苛立ちを隠しもしない晴弥に、蘇芳もいたたまれない。
「でも、その、これってミソラさまにしか外せない……んですよね」
「そうなんだよねえ。……ああ、そうだ」
独り言のように言ったミソラが、徐に近くにあった若葉を無造作に摘み取り、ふっと息を吹きかける。
「蘇芳、手を出して」
言われるまま空いている方の手を差し出すと、ミソラがかがみこみ、手のひらに若葉が載せられた。若葉からはじんわりとミソラの気配がする。ミソラを見ると、頷きが返ってきた。
「私の力を一時的に載せてある。我々がここを去った後、その手枷に載せてお前の力を重ねれば、外れるよ」
自分にとっても親同然の存在に、自分たちが何をするか分かられていてにこやかにそう言われるのは、蘇芳が生きてきたまだ短い時間の中でも指折りに地面に埋まりたいほどの恥ずかしさだ。
「ああ、それから」
揶揄うような色がミソラの顔から消え、厳かな顔に戻る。
「私がこの地を治める間は、もうお前たちのように苦しむものをこれ以上は出さないと、約束しよう」
「それは……」
スッと頭が冴えていくような感覚に、蘇芳が居住まいを正す。身動きが不自由な晴弥もそれは同じであるようだった。
「生きとし生けるものは、その定めに沿って、あるべき場所で、そうあるように生きる、これを曲げてはいけない。我々も例外であってはならないということだ。……例え、どれほど近しく感じ、どれだけ姿を似せられても、我々は人に非ず。その境界の揺らぎがもたらすものを心に留め、我々はあるべき道に立ち返る」
周りに無言で立っているあやかしたち全てに言い聞かせるように、通る声で告げるミソラは、やはり人ならざる、この地を統べるものだった。
「我々の生きる時は長い。お前たちも、人の血をも引くとはいえ、人よりも遥かに長く生きるだろう。異なる道を歩むとも、お前たちも我々に連なる者だと私は思っている。いつでも、帰ってきなさい」
ミソラの瞳には、もういつかのような獰猛な光はなく、ただ全ての命を慈しむ、初めて会った時のあの大いなる存在の力があった。
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