57 / 74
第7章 本当の気持ち
3話 月が満ちるのを待つように*
しおりを挟む
着物を咥えている口内までじんわりと痺れてくるようで、蘇芳の頭の中では声を出さぬよう、晴弥に布を噛ませられている想像で一層心が掻き立てられるようだ。
——ああ、でも。
一度も、その口で塞いではくれなかった、と今頃になって思う。あの時は無我夢中であったし、晴弥のことをきちんと知ってもいなかった。
けれど今はもう触れてもらうだけでは足りないと心が叫んでいる。願っていいのならば、自分を全て差し出し、晴弥の全てが欲しい。身体だけでなく、もっと深いところで繋がりたい。
それはもう言葉では説明のできない、心の奥深くから溢れ出てくる思いだった。
乱暴なほどに貪り、息が止まるほど翻弄してほしい。痛いほど張り詰めている屹立には手を触れず、蘇芳はこれまで自分では触れることを避けていた、その奥の足の間へ手を伸ばした。
「んうぅ……!」
溢れんばかりの蜜液で濡れそぼった後孔は、つぷりと中指を差し込んだだけで震えるほどの快楽を伝えてくる。自分でも驚くほど熱くきつく絡みついてくる肉壁は蘇芳の細い指一本では到底足りないとうねり、ぎゅうぎゅうと中を満たす質量を求めて収縮した。
——足りない、……ッ!
快楽か切なさか判別のつかない涙をほろほろと溢し、蘇芳は入るだけ指を小さな孔に突き入れ、掻き回した。
「あ、あ、あ、……~~ッ!」
自分の指だけではあの時のようにはいかなくて、屹立へも手を伸ばす。前も後ろも同時に刺激して、身体をぐうっと丸めながら蘇芳は果てた。
はあ、はあ、と荒く息を吐きながら、蘇芳は横たわったままぼうっと部屋の天井を見つめていた。
足りない、とは思うけれど、それは悲観的なものではない。どこか、幼い頃に月が満ちるのを待っていた時のような、少しだけ静かに興奮していて、けれど待っているこの時間そのものも楽しい、そんな気持ちだ。
熱が、引いていく。発情が収まっていくのが分かる。髪や目も黒くなっているのは見なくても明らかだった。手拭いで身体を拭い、乾いた着物に着替える。窓を引き開け、気持ちを切り替えるように深呼吸して、順番が前後してしまったが持って帰ってきた荷物を広げることにした。
黙々と手を動かしながらも、考えるのはただ一人のこと。
あんな態度だったけれど、きっと遠くへは行っていない。もしこれまでの数少ない接触から感じ取った蘇芳の予想が当たれば、ああ言っていても、里へ降りてきて人を困らせるのを止めはしないだろう。あるいはその行動にもし何らかの変化があったなら、それは蘇芳の言葉の与えたものだということになる。いずれにしても、それを掴むことが全ての契機になるはずだった。
だから——蘇芳がその後耳にした話の中身も、それに続くことになる出来事も、蘇芳にとっては全く予期せぬものだったのだ。
——ああ、でも。
一度も、その口で塞いではくれなかった、と今頃になって思う。あの時は無我夢中であったし、晴弥のことをきちんと知ってもいなかった。
けれど今はもう触れてもらうだけでは足りないと心が叫んでいる。願っていいのならば、自分を全て差し出し、晴弥の全てが欲しい。身体だけでなく、もっと深いところで繋がりたい。
それはもう言葉では説明のできない、心の奥深くから溢れ出てくる思いだった。
乱暴なほどに貪り、息が止まるほど翻弄してほしい。痛いほど張り詰めている屹立には手を触れず、蘇芳はこれまで自分では触れることを避けていた、その奥の足の間へ手を伸ばした。
「んうぅ……!」
溢れんばかりの蜜液で濡れそぼった後孔は、つぷりと中指を差し込んだだけで震えるほどの快楽を伝えてくる。自分でも驚くほど熱くきつく絡みついてくる肉壁は蘇芳の細い指一本では到底足りないとうねり、ぎゅうぎゅうと中を満たす質量を求めて収縮した。
——足りない、……ッ!
快楽か切なさか判別のつかない涙をほろほろと溢し、蘇芳は入るだけ指を小さな孔に突き入れ、掻き回した。
「あ、あ、あ、……~~ッ!」
自分の指だけではあの時のようにはいかなくて、屹立へも手を伸ばす。前も後ろも同時に刺激して、身体をぐうっと丸めながら蘇芳は果てた。
はあ、はあ、と荒く息を吐きながら、蘇芳は横たわったままぼうっと部屋の天井を見つめていた。
足りない、とは思うけれど、それは悲観的なものではない。どこか、幼い頃に月が満ちるのを待っていた時のような、少しだけ静かに興奮していて、けれど待っているこの時間そのものも楽しい、そんな気持ちだ。
熱が、引いていく。発情が収まっていくのが分かる。髪や目も黒くなっているのは見なくても明らかだった。手拭いで身体を拭い、乾いた着物に着替える。窓を引き開け、気持ちを切り替えるように深呼吸して、順番が前後してしまったが持って帰ってきた荷物を広げることにした。
黙々と手を動かしながらも、考えるのはただ一人のこと。
あんな態度だったけれど、きっと遠くへは行っていない。もしこれまでの数少ない接触から感じ取った蘇芳の予想が当たれば、ああ言っていても、里へ降りてきて人を困らせるのを止めはしないだろう。あるいはその行動にもし何らかの変化があったなら、それは蘇芳の言葉の与えたものだということになる。いずれにしても、それを掴むことが全ての契機になるはずだった。
だから——蘇芳がその後耳にした話の中身も、それに続くことになる出来事も、蘇芳にとっては全く予期せぬものだったのだ。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる