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第3章 邂逅
10話 できるだけ、遠くへ*
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できるだけ、遠くへ。
もう戻ってこられないかも知れない、とどこかで分かっていても、それを認めたくなくて、蘇芳は着の身着のままで走った。
町を抜け、田畑を過ぎ、里山も越えて、人の入らない奥山へ。
疲れは感じなかった。足はどこまでも軽く、蘇芳は風のように木々の間を抜けて走った。
そうして、もういいだろう、と思って足を止めた途端、蘇芳の最後の理性も無くなった。
「ひ、ぁ、ッん、」
脇腹を下にして身体を丸め、ぐちゅぐちゅと音が立つのも構わず、躊躇いなく後孔へと手をのばして指を突き入れてかき混ぜる。
拙い動きでも、内壁を擦る感覚はたまらない快感をもたらした。無我夢中で貪るように前を扱き立て、後ろを刺激する。
どろどろになった着物はまくれ上がり、目も当てられない格好になっていたが、どうせ誰に見られることもないと、蘇芳は構うこともしなかった。
未だかつて知らなかった激しい絶頂を何回も経験し、手の中に吐き出されるものももうほとんど色を失っているのに、体の熱は治らない。
何かが足りなくて、でもそれが何なのか分からなくて、止まらない疼きを必死に鎮めようと手を動かしながら、蘇芳は涙を流した。
その時、蘇芳の近くの空気がゆらりと揺らいで、見たことがないはずなのにどうしてかそれをよく知っている気がして、蘇芳は涙でぼんやりした目を凝らす。
やがてそこに、あるはずのない人影がすうっと現れた。
「え……」
白く輝く、長い髪。人間離れした白皙の美貌。美しい空の色を写し取ったような瞳には、見たことのないような熱がこもっている。
「蘇芳」
耳に心地よい低音が、それが幻覚ではないことを示していた。
混乱する蘇芳に、そっとその人影が手を伸ばしてくる。
汗で額に張り付いた髪をそっとよけるひんやりとした指は、あまりにも記憶のままだった。
「ミソラ、さま……」
あまりに現実と思えない事態に、なぜここに、とか、どうして、とか、そうした言葉は一つも出てこない。
それに、どこからか、花園に迷い込んだような芳しい香りがふわりと鼻をくすぐり、頭がぼうっとする。
蘇芳は束の間見惚れてしまったあと、自分の痴態をミソラの目の前に晒していることにハッと気づいて、泣きそうになりながら着物をかき合わせた。素肌に着物が擦れ、その刺激に散々熱を放ったはずの体の芯にまたぐずぐずとした場違いな疼きが走る。
今すぐにでもここから逃げ出してしまいたいが、きっとミソラには自分がどこへ逃げようが手のひらの上で走り回るようなものだと分かっているから、それもできない。
逃げ出したことをどう思っているのか、こうして自分のいどころが分かっていたなら連れ去ろうと思えばいつでもできたはずなのに、どうして今まで一度も姿を見せなかったのか。
混乱して半泣きの蘇芳に、ミソラが、にこりと笑って頭を撫でた。
「蘇芳、怖かったろう」
第一声は、育ててもらった恩を裏切って逃げたことを詰るものでも、はしたない姿を嫌悪するものでもなく、蘇芳を労るものだった。
思いがけない言葉に、火照る体もひと時忘れ、蘇芳の目から、堪えきれなくなった涙の粒が一つ溢れた。
堰を切ったように涙を流す蘇芳の頭を宥めるように撫でながら、ミソラはゆっくりと話し始めた。
「お前には、いずれ話そうと思っていたのだけれどね」
言外に、その「いずれ」が来る前に自分がいなくなってしまったことを仄めかすような言葉に、いまさらのように後ろめたさが込み上げる。
けれど、ミソラの目に蘇芳を咎める色はなかった。
「それが現れたということは、」
それ、とミソラが蘇芳の隠した下半身を指差す。
「お前のあやかしの血が〝第二性〟を示したということだ」
もう戻ってこられないかも知れない、とどこかで分かっていても、それを認めたくなくて、蘇芳は着の身着のままで走った。
町を抜け、田畑を過ぎ、里山も越えて、人の入らない奥山へ。
疲れは感じなかった。足はどこまでも軽く、蘇芳は風のように木々の間を抜けて走った。
そうして、もういいだろう、と思って足を止めた途端、蘇芳の最後の理性も無くなった。
「ひ、ぁ、ッん、」
脇腹を下にして身体を丸め、ぐちゅぐちゅと音が立つのも構わず、躊躇いなく後孔へと手をのばして指を突き入れてかき混ぜる。
拙い動きでも、内壁を擦る感覚はたまらない快感をもたらした。無我夢中で貪るように前を扱き立て、後ろを刺激する。
どろどろになった着物はまくれ上がり、目も当てられない格好になっていたが、どうせ誰に見られることもないと、蘇芳は構うこともしなかった。
未だかつて知らなかった激しい絶頂を何回も経験し、手の中に吐き出されるものももうほとんど色を失っているのに、体の熱は治らない。
何かが足りなくて、でもそれが何なのか分からなくて、止まらない疼きを必死に鎮めようと手を動かしながら、蘇芳は涙を流した。
その時、蘇芳の近くの空気がゆらりと揺らいで、見たことがないはずなのにどうしてかそれをよく知っている気がして、蘇芳は涙でぼんやりした目を凝らす。
やがてそこに、あるはずのない人影がすうっと現れた。
「え……」
白く輝く、長い髪。人間離れした白皙の美貌。美しい空の色を写し取ったような瞳には、見たことのないような熱がこもっている。
「蘇芳」
耳に心地よい低音が、それが幻覚ではないことを示していた。
混乱する蘇芳に、そっとその人影が手を伸ばしてくる。
汗で額に張り付いた髪をそっとよけるひんやりとした指は、あまりにも記憶のままだった。
「ミソラ、さま……」
あまりに現実と思えない事態に、なぜここに、とか、どうして、とか、そうした言葉は一つも出てこない。
それに、どこからか、花園に迷い込んだような芳しい香りがふわりと鼻をくすぐり、頭がぼうっとする。
蘇芳は束の間見惚れてしまったあと、自分の痴態をミソラの目の前に晒していることにハッと気づいて、泣きそうになりながら着物をかき合わせた。素肌に着物が擦れ、その刺激に散々熱を放ったはずの体の芯にまたぐずぐずとした場違いな疼きが走る。
今すぐにでもここから逃げ出してしまいたいが、きっとミソラには自分がどこへ逃げようが手のひらの上で走り回るようなものだと分かっているから、それもできない。
逃げ出したことをどう思っているのか、こうして自分のいどころが分かっていたなら連れ去ろうと思えばいつでもできたはずなのに、どうして今まで一度も姿を見せなかったのか。
混乱して半泣きの蘇芳に、ミソラが、にこりと笑って頭を撫でた。
「蘇芳、怖かったろう」
第一声は、育ててもらった恩を裏切って逃げたことを詰るものでも、はしたない姿を嫌悪するものでもなく、蘇芳を労るものだった。
思いがけない言葉に、火照る体もひと時忘れ、蘇芳の目から、堪えきれなくなった涙の粒が一つ溢れた。
堰を切ったように涙を流す蘇芳の頭を宥めるように撫でながら、ミソラはゆっくりと話し始めた。
「お前には、いずれ話そうと思っていたのだけれどね」
言外に、その「いずれ」が来る前に自分がいなくなってしまったことを仄めかすような言葉に、いまさらのように後ろめたさが込み上げる。
けれど、ミソラの目に蘇芳を咎める色はなかった。
「それが現れたということは、」
それ、とミソラが蘇芳の隠した下半身を指差す。
「お前のあやかしの血が〝第二性〟を示したということだ」
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