23 / 74
第3章 邂逅
5話 怖いほど真剣な顔
しおりを挟む
どん! と腹に響く破裂音。宵の群青がまだ薄ら残る夜空に、最初の花が打ち上げられる。
対岸では拍手や掛け声などが響き、賑やかそうだ。蘇芳は鉄郎に連れられて薮の間の少しひらけた場所に陣取ったはいいけれど、先程からもじもじと足の向きを変えたりしてみてもどうにも落ち着かない。
昼の間は、出店を冷やかしたり顔馴染みのおじさんおばさんと世間話をしたりと、いつもと変わらない様子だった。
それが日も暮れていよいよ、となった途端、急にスッと真面目な顔になって蘇芳の手を引いて歩き出した鉄郎に、蘇芳もなんだか怖くなってしまったのだ。
どん、どん、と大ぶりの花が次々と打ち上がる。
去年も鉄郎と二人で見た花火。今年は川のこちら側に、二人だけで並んで座っている。少し離れたところにはきっと他の人たちもいるのだろうが、お互いに邪魔しないように距離を置いている。
「わ、すごい……!」
考え事に耽りそうになった蘇芳の目と耳を、目の前に連続して打ち上げられる大輪の花が奪っていく。
昨年見たときは、たくさんの人の後ろから見上げるようにして見ていたので、ここまで目の前でたくさんの花が重なり合って大きく広がるのを見るのは初めてだ。
思わず声を上げてしまったことが恥ずかしくて首を竦める蘇芳に、鉄郎が笑いかける。その笑顔に蘇芳はまた不思議な落ち着かなさを覚えて、慌てて前を向いた。
小さくて色とりどりの花が乱れ咲いて藍色の夜空を埋め尽くした後、ひときわ大きな金色の花が視界いっぱいに広がり、枝垂れ柳のように長い尾を漆黒の空に引いた。
これで、今年の花火も終わりの合図だ。きらきらとした火花がまるで触れそうなほど近くに感じられて、束の間蘇芳は息をするのも忘れ、食い入るように空を見つめた。
どのくらいそうしていたのか、そっと手に何かが触れる感触で、ようやく我に返る。
「あ……」
振り向いた先には、蘇芳の手に自分の手を重ねるようにしてこちらを見つめる、鉄郎がいた。
その顔は、花火の始まる前に蘇芳の手を引いて歩いていた時と同じ、怖いほど真剣な表情だ。
まっすぐ射抜くような視線から、目を逸らすことができない。
かちこちに固まった蘇芳の手をぐ、と鉄郎が握り、身を乗り出してきた鉄郎の顔が目の前に迫って——唇に、温かくて柔らかい感触が触れた。
「……⁉︎」
それは、すぐ離れていった。
何が起こったのか分からなくて、蘇芳はゆっくり鉄郎の顔が離れていくのを惚けたように眺め、それからさざ波のように混乱が押し寄せてくる。
——い、今のって、今のって……!
口付け、だ。これは。
そのくらいは、蘇芳も知っている。
口付けをされた。鉄郎に。
え、それってその、想い合う男女がするものではなかったのか。
これには一体、どういう意味が……?
もしかして単なる親愛の気持ちを表すためとか、そんなことなのだろうか。
頭の中を入り乱れる思考に気を取られ、動くことができない蘇芳に、鉄郎が真剣な面持ちのまま、告げる。
「す、蘇芳、……好きだ」
対岸では拍手や掛け声などが響き、賑やかそうだ。蘇芳は鉄郎に連れられて薮の間の少しひらけた場所に陣取ったはいいけれど、先程からもじもじと足の向きを変えたりしてみてもどうにも落ち着かない。
昼の間は、出店を冷やかしたり顔馴染みのおじさんおばさんと世間話をしたりと、いつもと変わらない様子だった。
それが日も暮れていよいよ、となった途端、急にスッと真面目な顔になって蘇芳の手を引いて歩き出した鉄郎に、蘇芳もなんだか怖くなってしまったのだ。
どん、どん、と大ぶりの花が次々と打ち上がる。
去年も鉄郎と二人で見た花火。今年は川のこちら側に、二人だけで並んで座っている。少し離れたところにはきっと他の人たちもいるのだろうが、お互いに邪魔しないように距離を置いている。
「わ、すごい……!」
考え事に耽りそうになった蘇芳の目と耳を、目の前に連続して打ち上げられる大輪の花が奪っていく。
昨年見たときは、たくさんの人の後ろから見上げるようにして見ていたので、ここまで目の前でたくさんの花が重なり合って大きく広がるのを見るのは初めてだ。
思わず声を上げてしまったことが恥ずかしくて首を竦める蘇芳に、鉄郎が笑いかける。その笑顔に蘇芳はまた不思議な落ち着かなさを覚えて、慌てて前を向いた。
小さくて色とりどりの花が乱れ咲いて藍色の夜空を埋め尽くした後、ひときわ大きな金色の花が視界いっぱいに広がり、枝垂れ柳のように長い尾を漆黒の空に引いた。
これで、今年の花火も終わりの合図だ。きらきらとした火花がまるで触れそうなほど近くに感じられて、束の間蘇芳は息をするのも忘れ、食い入るように空を見つめた。
どのくらいそうしていたのか、そっと手に何かが触れる感触で、ようやく我に返る。
「あ……」
振り向いた先には、蘇芳の手に自分の手を重ねるようにしてこちらを見つめる、鉄郎がいた。
その顔は、花火の始まる前に蘇芳の手を引いて歩いていた時と同じ、怖いほど真剣な表情だ。
まっすぐ射抜くような視線から、目を逸らすことができない。
かちこちに固まった蘇芳の手をぐ、と鉄郎が握り、身を乗り出してきた鉄郎の顔が目の前に迫って——唇に、温かくて柔らかい感触が触れた。
「……⁉︎」
それは、すぐ離れていった。
何が起こったのか分からなくて、蘇芳はゆっくり鉄郎の顔が離れていくのを惚けたように眺め、それからさざ波のように混乱が押し寄せてくる。
——い、今のって、今のって……!
口付け、だ。これは。
そのくらいは、蘇芳も知っている。
口付けをされた。鉄郎に。
え、それってその、想い合う男女がするものではなかったのか。
これには一体、どういう意味が……?
もしかして単なる親愛の気持ちを表すためとか、そんなことなのだろうか。
頭の中を入り乱れる思考に気を取られ、動くことができない蘇芳に、鉄郎が真剣な面持ちのまま、告げる。
「す、蘇芳、……好きだ」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【R18】番解消された傷物Ωの愛し方【完結】
海林檎
BL
強姦により無理やりうなじを噛まれ番にされたにもかかわらず勝手に解消されたΩは地獄の苦しみを一生味わうようになる。
誰かと番になる事はできず、フェロモンを出す事も叶わず、発情期も一人で過ごさなければならない。
唯一、番になれるのは運命の番となるαのみだが、見つけられる確率なんてゼロに近い。
それでもその夢物語を信じる者は多いだろう。
そうでなければ
「死んだ方がマシだ····」
そんな事を考えながら歩いていたら突然ある男に話しかけられ····
「これを運命って思ってもいいんじゃない?」
そんな都合のいい事があっていいのだろうかと、少年は男の言葉を素直に受け入れられないでいた。
※すみません長さ的に短編ではなく中編です
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
きょうもオメガはワンオぺです
トノサキミツル
BL
ツガイになっても、子育てはべつ。
アルファである夫こと、東雲 雅也(しののめ まさや)が交通事故で急死し、ワンオペ育児に奮闘しながらオメガ、こと東雲 裕(しののめ ゆう)が運命の番い(年収そこそこ)と出会います。
お前らの相手は俺じゃない!
くろさき
BL
大学2年生の鳳 京谷(おおとり きょうや)は、母・父・妹・自分の4人家族の長男。
しかし…ある日子供を庇ってトラック事故で死んでしまう……
暫くして目が覚めると、どうやら自分は赤ん坊で…妹が愛してやまない乙女ゲーム(🌹永遠の愛をキスで誓う)の世界に転生していた!?
※R18展開は『お前らの相手は俺じゃない!』と言う章からになっております。
短編エロ
黒弧 追兎
BL
ハードでもうらめぇ、ってなってる受けが大好きです。基本愛ゆえの鬼畜です。痛いのはしません。
前立腺責め、乳首責め、玩具責め、放置、耐久、触手、スライム、研究 治験、溺愛、機械姦、などなど気分に合わせて色々書いてます。リバは無いです。
挿入ありは.が付きます
よろしければどうぞ。
リクエスト募集中!
最愛の夫に、運命の番が現れた!
竜也りく
BL
物心ついた頃からの大親友、かつ現夫。ただそこに突っ立ってるだけでもサマになるラルフは、もちろん仕事だってバリバリにできる、しかも優しいと三拍子揃った、オレの最愛の旦那様だ。
二人で楽しく行きつけの定食屋で昼食をとった帰り際、突然黙り込んだラルフの視線の先を追って……オレは息を呑んだ。
『運命』だ。
一目でそれと分かった。
オレの最愛の夫に、『運命の番』が現れたんだ。
★1000字くらいの更新です。
★他サイトでも掲載しております。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる