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14. 初めて知る感情

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 ——俺が、魔族だから? 男だから? 子供だから……?
 与えられた寝床がわりの毛皮にくるまりながら、メイリールは夜な夜な考えた。
 そのどれもが理由として十分に考えられる。魔族にとって、恋愛対象に性別は関係ない。メイリールは女よりも逞しくて美しい男に惹かれる性質だったし、別にそれ自体ごく普通のことだった。
 だが、ディートハルトは人間だ。魔界の常識など通用するはずもないことに、メイリールは今更のように思い至り、途方に暮れ、閉じた目には涙がにじんだ。
 最初のうちは、身体が訴える寂しさを埋めたくて、だった。全くなびかないディートハルトに、プライドが傷つけられたように感じて苛立っていたし、自分には価値がないのかと不安にもなった。とにかく、今まで出会ったことのない種類の男なのは間違いない。半ば意地になって、なんとかその瞳に自分を映そうと、躍起になった。
 嫌われているわけではない、と思う。少なくともディートハルトの目に、嫌悪の感情は読み取れなかった。だが、この一見穏やかで寡黙な男の心の周りには、透明な壁のような、それ以上踏み込ませてもらえない地点が確実にあることを、メイリールは感じ取っていた。

 ——ディートハルトは、何を考えているのだろう。どう思っているのだろう……
 二人の生活がひと月を数えるようになる頃には、メイリールはふと気がつくとそんなことを考えるようになっていた。
 もちろん、ディートハルトの形の良い顎の輪郭や、衣服からのぞく肩や腕の男らしい色気に鼓動が速くなるのは変わっていない。だが、それ以上に、ディートハルトの瞳には何が映っているのか、その胸のうちにはどんな思いが流れているのか、知りたくてたまらないのだ。こんなことを誰かに思うのは、初めてのことだった。
 意識しだしたら、途端にどう振舞えばいいかわからなくなった。いつもなら狙った獲物を攻略するように、打算的に動けていた自分が信じられない。側に寄ることさえ、ついこの前までなんのためらいもなくできていたのに、今はなぜか気恥ずかしくて、ぎこちなく距離をとるようになってしまった。
 そうしているうち、メイリールはとうとうディートハルトの瞳を直視することすらできなくなってしまったのだった。
 ——なん、だ、これ……
 経験したことのない奇妙な感情に、メイリールは振り回され、一日の終わりにはいつもぐったりとするようになってしまっていた。
 物心ついた頃から、欲しいものは欲しい、それを手に入れるために真っ直ぐ向かっていく、そんなやり方しかしたことがない。
 相手が何を見て、何を思っているのか、その世界を知りたくて、こんなにも焼けつくような気持ちになることがあるんだと、メイリールは初めて知った。打算では、ディートハルトの世界には入れてもらえない。
 どうしたら、と思いながら、一日、また一日が過ぎ、洞窟の外の森では、夏の終わりを告げる虫の声が聞こえ始めていた。
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