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11. 全てが新鮮

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 邪魔はするなという男の言いつけを殊勝らしく守り、メイリールは男の後をついて歩く。しばらく歩くと、やがて行く手にキラッと光る水面が見えてきた。
 近づくと、それは小さな泉だと分かった。新鮮な水がこんこんと湧いている。
 水が沸いているところなど直接目にするのは初めてだったメイリールはその様子が物珍しくて、泉のほとりに膝をつくと両手で水をすくい、口に含んでみた。
 ——甘い……
 成人した魔族の飲むものといえば、基本は酒。応用も酒。成人前の成長期でも、アルコールを飛ばした葡萄酒などが主で、あえて水を選んで飲むのは余程の変わり者か、病気になった時くらいのものだった。
 そんな、特段美味しいものという認識もなかった水だが、不思議とこの湧水は甘く美味に感じられて、メイリールは手にすくった分を綺麗に飲み切ってしまった。
 手に残った水分を舐めとっていると、ふと顔に男の視線を感じた気がした。思わず顔を上げた先では、男がちょうど身に纏った布を脱ぎ捨てようとしている。
 メイリールは慌てて目を逸らした。心臓がうるさく音を立てて、伏せた顔が熱い。
 それはほんの一瞬で、時間にすれば一秒あったかないかだ。なのに、メイリールの頭の中には、今しがた見てしまった男の身体が、まるで焼き付いたかのように離れなかった。
 一言で言うなら、理想的な体躯。がっしりとした骨格に均整のとれた筋肉が美しく、それでいて見た目の美しさのためだけに造られた身体ではないことが、そこかしこに残る傷跡から見てとれる。
 早まる鼓動を誤魔化すように、メイリールは頭を振って立ち上がった。
 のそのそと服を脱ぐメイリールの後ろでは、男が水を浴びるざぶざぶという音が聞こえる。ルークも肩から飛び降りて、水際でバサバサと水飛沫をあげている。
 男の視線を感じたのはあの一瞬だけで、もうこちらを見ている気配はない。ホッとするような、それでいてなぜか少しの寂しさも感じて、メイリールは振り回される自分に苛立った。
 男に背を向けたまま、泉の端でメイリールも水を浴びた。夏の早朝に浴びる冷たい水は思いの外心地よくて、メイリールはしばし時間を忘れて身体を洗った。
 ようやく気が済んで泉からあがると、メイリールは困ったことに気がついた。濡れた身体を拭くものを持ってきていなかったのだ。
 ——しまった、さっきは、あいつに置いていかれないようにって、慌ててて、忘れてた……
 このまま着替えを着てしまうしかないか、いやでも、と逡巡しているメイリールの前に、ぬっと男の手が伸びてきた。
「ぎゃっ!」
 およそ可愛らしくもない悲鳴をあげて、メイリールが飛び退く。
「こっち見んな!」
 咄嗟に拾い上げた着替えで身体を隠し、メイリールはギッと男を睨みつけた。
「誰がお前の身体なんか見るか。それより、拭くものがないんだろう」
 そっけなく言うと、男はメイリールの目の前に布を放って、また背を向けた。メイリールは恥ずかしいやら腹立たしいやらだったが、布はありがたく拝借した。
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