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11. 愛しい人を探して

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 もし、この置き手紙の内容に嘘が含まれているならば、どれが嘘なんだろうか。
 ラングレンはまずそこを考えることから始めた。
 呪術師によって自分は呪いをかけられ、それを解く代償にアルーシャが命を差し出したと、手紙には書いてあった。

 もし、呪術師が噛んでいるのが本当なのであれば、下手に騒がない方がいいだろう。
 考えた末、ラングレンは、アルーシャをよく知る得意先に、アルーシャが姿を消してしまった、ただし書き置きがあって、どうか大ごとにしないでほしいと書かれていた、と伝えた。そして、薬の仕入れ先を新たに開拓しなければならないことを詫びつつ、そのついでで構わないので、アルーシャらしき人物を見かけたらそっと教えてほしいと頼んで回った。

 ラングレンが頼んで回ったことは、それなりに成果をあげた。
 金髪で長身、整った顔に眼鏡、という条件に当てはまる人物を見かけたという報告は定期的にラングレンの元へ入ってきた。
 その度に、ラングレンは期待と不安とで張り裂けそうになる心を抑えながら、詳しい調査を依頼し、持ち帰られた結果にうなだれた。

 そうして、毎日今日こそはと期待をし、1ヶ月がたった。

 呪術師のことも、多少は調べた。
 だが、魔術師でさえ実際に会ったことのないラングレンが首を突っ込むには、あまりに途方もなく危険な世界であった。
 ほうぼうでそれとなく聞いて回ったが、酒場で本当か嘘かわからないような怪談めいた噂話を仕入れることができたのが、関の山だった。

 一番確からしい話として聞かされたのは、ちょうど自分が倒れていた間に、首都で呪術使用の疑いがかけられていた魔術師が殺されたらしいという噂だった。
 だが、残された痕跡から、魔術師を襲ったのは人間ではなく、大型の獣のような生き物と見られるという。
 結局、アルーシャが関係していそうな話は何ひとつ得られなかった。

 進展がないまま、1日、また1日が過ぎ、アルーシャを探すことだけに時間を費やすのも限界に近づいていた。
 もともと、2人で生活していた頃はアルーシャの調合する薬の販売が主たる収入源であり、それ以外にも細々とした請負の仕事を持っていたとは言っても、それでラングレンが得られる金額はたかが知れている。
 自分1人で生計を立てていくには、本腰を入れて安定した収入を得られる仕事を探さなければならなかった。

 ——できるだけ、いろんな街に行ける仕事を探そう。

 アルーシャを絶対に見つけ出す。その思いだけで、今のラングレンは毎日を生きていた。
 アルーシャに似ている人物を見た、という報告は継続して受けられるよう、家は引き払わずにそのままにして張り紙をし、ラングレンは行商人のところへ見習いに入った。
 方々の街へ小間物を売り歩く傍ら、ラングレンの目と耳は、ひたすらたった1人の人を探して、わずかな気配でも逃すまいと休むことなく働き続けた。

 そうして、10日がすぎ、ひと月が経った。
 だが、いつまでたっても、アルーシャに近づいていると思える手がかりは、ひとつも見つからなかった。
 やがて季節は厳しい寒さの到来を告げ、そしてゆっくりとまた新しい命の芽生えを予感させ、ただ時間だけが、非情に過ぎていった。

 ——本当に、アルーシャは生きているのか。

 この問いが幾度となく胸を灼き、ラングレンはその度に、必死にそのどす黒い疑念を打ち消してきた。

 ついこの前まで、家に帰ればいつもアルーシャがいた。
 柔らかい金の髪を揺らして、仕方がないと笑う顔。
 外の話をして聞かせる時の、少しだけやきもちを焼いた顔。
 安心させるように甘やかして抱きしめた時の、嬉しそうに照れる顔。

 思い出が、胸に溢れる。
 全てがもう、遠い昔のように感じられて、そう感じていること自体にまた、心が痛みを訴えた。

 諦めれば、全ての可能性を手放すことになる。
 そうして希望を捨てた先に、自分がなお生きていかなければならないという、その事実を受け止めることは、ラングレンにはもうできなかった。

 ——もう、全て捨てて、楽になりたい……

 そんな思いが、心をよぎった。
 もしかしたら、あの手紙にあったことは全部本当で、今はもう、アルーシャはこの世のどこにもいないのかもしれない。
 もし、それが真実なら。
 いっそのこと、自分もアルーシャのいるところへ行けたらと、そう願った。

 ラングレンはもう、疲れ果てていた。
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