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58. この先へ馳せる思い
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——そうなると、責任重大だなぁ。
思うこととは裏腹に、嬉しさで顔がにやけるのを止められなかった。自惚れるのは危険だが、多分、これまで東堂の体に触れたことはある連中も、心にまでは触れられなかったに違いない。三ツ藤も、東堂のことをよく理解していて、だからこその飴と鞭で東堂の心を手に入れようとしていた。それでも多分、ここまで無垢な寝顔を見たのは、自分だけだ。
将吾は胸がいっぱいになって、そっと東堂の頭を撫でた。
「……流星」
東堂に向かって、でも起こさないようにごく小さな声で、その名を呼ぶ。まだ、気恥ずかしくて面と向かっては呼べないが、いつかそう呼ばせてもらえる日が来ることを願って。
「……ん……」
東堂のまつ毛がわずかに上下して、ゆっくりと持ち上がった。
聞かれていたか、と内心冷や汗をかく。だがどうやら心配には及ばなかったようで、東堂はぼんやりとした表情で瞬きを二、三度すると、ようやく意識が戻ったようだった。
「今、何時だ」
ちょっと聞く方が罪悪感を覚えるほどの、見事な掠れ声。原因は自分にあるので、この後すぐ何か飲むものを持ってこよう、と思いながら将吾は自分のスマホを確認した。
「午前零時すぎ」
そうか、というようなことを口の中で呟いたまま、東堂はまた将吾の胸の上で目を伏せてしまった。その様子はまるで子供のようで、こんなに気の緩んだ東堂を知っているのは今世界中でも自分だけなのではないかとさえ思う。
——まあ、明日も休みだし、な。
明日起きたら仕事のメールくらいは確認しなければならないだろうが、今くらいこうしてちょっと爛れた生活をしたって、バチは当たらない。
「ほら、水」
目を閉じはしたもののもう一度眠る気はなかったらしい東堂が、やがて大きくあくびをして自分のスマホの方へ手を伸ばしたので、そのタイミングで将吾は水を取りに立ち上がった。横になっていた時はわからなかったが、立った途端にどう考えても原因は一つしかない筋肉痛に襲われ、笑うに笑えない。
うつ伏せになって東堂がチェックしているのは、今日のニュースだった。どこまでも仕事を忘れないやつだな、と思うが、自分だって似たようなものだ。
そういえば、ずっと聞きたかったことを将吾は思い出した。
「なあ、そういえばさ、前から聞きたかったんだけど」
東堂が飲み残した水を貰って、将吾も喉を潤す。当たり前のようにそれを許されることに、またにやけそうになる。東堂が画面から顔を上げた。
「お前、なんで記者になったの」
思うこととは裏腹に、嬉しさで顔がにやけるのを止められなかった。自惚れるのは危険だが、多分、これまで東堂の体に触れたことはある連中も、心にまでは触れられなかったに違いない。三ツ藤も、東堂のことをよく理解していて、だからこその飴と鞭で東堂の心を手に入れようとしていた。それでも多分、ここまで無垢な寝顔を見たのは、自分だけだ。
将吾は胸がいっぱいになって、そっと東堂の頭を撫でた。
「……流星」
東堂に向かって、でも起こさないようにごく小さな声で、その名を呼ぶ。まだ、気恥ずかしくて面と向かっては呼べないが、いつかそう呼ばせてもらえる日が来ることを願って。
「……ん……」
東堂のまつ毛がわずかに上下して、ゆっくりと持ち上がった。
聞かれていたか、と内心冷や汗をかく。だがどうやら心配には及ばなかったようで、東堂はぼんやりとした表情で瞬きを二、三度すると、ようやく意識が戻ったようだった。
「今、何時だ」
ちょっと聞く方が罪悪感を覚えるほどの、見事な掠れ声。原因は自分にあるので、この後すぐ何か飲むものを持ってこよう、と思いながら将吾は自分のスマホを確認した。
「午前零時すぎ」
そうか、というようなことを口の中で呟いたまま、東堂はまた将吾の胸の上で目を伏せてしまった。その様子はまるで子供のようで、こんなに気の緩んだ東堂を知っているのは今世界中でも自分だけなのではないかとさえ思う。
——まあ、明日も休みだし、な。
明日起きたら仕事のメールくらいは確認しなければならないだろうが、今くらいこうしてちょっと爛れた生活をしたって、バチは当たらない。
「ほら、水」
目を閉じはしたもののもう一度眠る気はなかったらしい東堂が、やがて大きくあくびをして自分のスマホの方へ手を伸ばしたので、そのタイミングで将吾は水を取りに立ち上がった。横になっていた時はわからなかったが、立った途端にどう考えても原因は一つしかない筋肉痛に襲われ、笑うに笑えない。
うつ伏せになって東堂がチェックしているのは、今日のニュースだった。どこまでも仕事を忘れないやつだな、と思うが、自分だって似たようなものだ。
そういえば、ずっと聞きたかったことを将吾は思い出した。
「なあ、そういえばさ、前から聞きたかったんだけど」
東堂が飲み残した水を貰って、将吾も喉を潤す。当たり前のようにそれを許されることに、またにやけそうになる。東堂が画面から顔を上げた。
「お前、なんで記者になったの」
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