【完結】熱血くんと嫌味なアイツ【改稿版】

雫川サラ

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51. やましい想像しないとか無理です

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 ——焦るな。ようやくここまで来られたんだ……ゆっくり、追いつけばいいだろう。
 そんな殊勝な思いを抱く一方で、今まさに東堂が風呂場でしているであろうことを想像すると、不埒な下半身は否応なしに反応した。他の男なら絶対無理だと思うのに、想像の中の東堂の痴態はどんなAVよりも将吾を煽り立てる。カッコ悪いところは見せたくないけれど、抑えるのは困難に思えた。さし当たり、深呼吸を試みる。
 そんなことをしているうちに、浴室の方からペタペタと足音がした。
「出たぞ。……ってお前、なんだそんな険しい顔をして」
 無地のTシャツにハーフパンツというラフな格好をした東堂が、将吾のいるリビングに戻ってきた。先ほどドラッグストアで買っていたのはこれだったか、と納得しつつ、しっとりと濡れた髪の毛と上気してつややかに輝く肌に目を奪われる。普段はきっちりと上までボタンが留められたシャツの襟で見えない、なめらかな鎖骨の陰影が艶かしい。
「いや……ちょっと心頭滅却の練習を」
 何を言っているんだこいつは、という冷ややかな目線を背中に受け止めつつ、将吾もいそいそと風呂場へ向かった。
 ——だめだ、全然だめだ!
 三十を過ぎて彼女も久しくいない日々、もう早くも己のそっち方面の欲求は枯れ始めていたのかと思っていた。見ているだけで無性にムラムラするなんて何年ぶりに味わう感覚だろう。心頭滅却なんて到底無理な話だった。
 カラスも顔負けの手早さでシャワーを浴び、一瞬迷ったが上はTシャツ、下は下着だけで浴室を後にする。リビングの電気が消えていることに気づき、将吾の体温が上がった。
 ——うわ、なんか、どうしよう。すげえドキドキしてきた……。
 童貞じゃあるまいし、と自分に言いかけて、まあ今の自分はある意味では童貞みたいなものか、と居直る。そのまま将吾は、ほのかに明かりの灯る寝室へと足を踏み入れた。
 ぼんやりとしたオレンジの光の中、ベッドに腰掛けた東堂は自分のスマホに目を落としている。控えめに言っても、心臓が口から出そうだ。ただ、一人の男が部屋着でベッドに腰掛けているだけ、それだけなのに、クラクラしそうに色っぽい。
 体毛薄いんだな、色白いな、肌綺麗だな……、将吾の頭の中で勝手にいろんな言葉が飛び交う。それら全ての上に、「触りたい」がドドンと鎮座した。
 欲求のままに、手を伸ばす。
 そっとスマホを取り上げて、ベッドサイドに置いた。隣に腰掛けて、体を傾け、東堂の顔から眼鏡を外す。それもスマホの隣に置き、同時にもう片方の手を東堂の頭の後ろに回して引き寄せて、唇を塞いだ。二人分の体重を受けて微かに軋むベッドの音さえ、どこか淫靡な響きに聞こえる。
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