【完結】熱血くんと嫌味なアイツ【改稿版】

雫川サラ

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40. 仕切り直して

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「いらっしゃい」
 会社から最寄り駅までの間に位置する、創作和食料理屋の暖簾をくぐって、引き戸を開ける。混雑のピークにはまだ早い店内は、それでもちらほらとサラリーマンの姿が見られた。
 お互いを意識している二人が初めて食事をするにはいささか味気ない店のチョイスではあったが、それでも同僚がまず来ないだろうちょっと外れた場所を選んだ努力は評価してほしい。
 ここには報道部に異動したての頃、佐倉に連れられて何回か来たことがあった。洒落すぎず汚すぎず、いい具合に落ち着いている。早い・安い・うまいを重視する将吾の持ち札には絶対入らないタイプの店だ。将吾は心の中で佐倉に感謝した。
「はー、久々に来たけどやっぱいいな。旨かった~」
 将吾が普段行くようなところに比べれば少々値が張るが、その分奥行きのある繊細な味付けや旬の具材に、心が豊かになる感覚がある。東堂も気に入ってくれたようだった。
 将吾はあえて東堂にあれこれ聞いたりはせず、努めて当たり障りのない会話に終始した。一度受け入れてもらえた記憶がもたらす余裕なのかもしれない。駆け引きとまではいかないが、がっつくことなくこの絶妙な距離感を楽しめていることが我ながら新鮮で、将吾はそんな自分に少しばかり酔っていた。
 店を出てから駅までの道を、東堂と肩を並べて歩く。ちょうど時間は他の会社が昼食休憩に入るタイミングと重なり、近隣の企業の社員たちで静かなオフィス街が一瞬だけ活気付いていた。途中、数人の女性グループとすれ違ったが、全員東堂に目が釘付けだ。将吾は誇らしいような、面白くないような、複雑な気持ちになる。やがて、地下鉄の駅に降りる階段の入り口が見えてきた。
「じゃあ、今日は……」
 改札まで来たところで、今日はお疲れさん、と言うつもりで、将吾は違う路線に乗るであろう隣の東堂に、振り向いた。いや、正確には振り向こうとした。が。
「……おい」
 頭半分上の位置から、将吾の声に被せるようにして、ドスのきいた低音が降ってくる。
 ——えっ。
 振り向いた先には、はっきりと怒りを顔に浮かべた東堂の姿があった。予想もしない反応に、将吾はその場でカチンと体が固まる。
 ——俺、何かまずいことしたか……?
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