【完結】熱血くんと嫌味なアイツ【改稿版】

雫川サラ

文字の大きさ
上 下
27 / 60

27. いざ、本丸へ-2

しおりを挟む
「……わかりました」
 二十二時五分、学校法人A学園応接室には、重苦しい空気が満ちていた。
 理事長の趣味であろう、いささか派手なしつらえのソファに張られた革が、身じろいだ将吾の尻の下でギュッと音を立てる。
 通されてすぐに、録音と撮影の禁止、取材時間は十五分と秘書を名乗る女性から言い渡された。人形のように整った華やかなその顔にはビジネススマイルこそ浮かんでいたが、目は笑っていない。
 あまりに一方的な条件に将吾が不服を申し立てようと口を開きかけたが、有無を言わさぬ鋭い目つきで見据えられ、諾と言うほかなかった。隣の東堂はといえば、この程度は予想をしていたのか、ため息をつくと用意しかけていたレコーダーをを再びカバンの中へ放り込んで、代わりにメモとペンを取り出そうとしている。
 ——引き受けたのは本当に形だけで、こりゃ全く話す気ねえな……。
 そもそも指定してきた時間を考えれば、こちらを下に見ているのが明らかだった。どういう風の吹き回しで会見と取材をすることになったのかは不明だが、少なくとも理事長の心境の変化というわけではなさそうだ。
 それでも、今まで一度も接触できなかった本丸に攻め込むことができたのは大きい。十五分をフルに使って、なんとしても記事にできる情報を引き出さなくてはならない。将吾もメモを取り出し、用意していた質問に頭の中で優先順位をつける。
 この仕事に就いてから、おそらく最も大きなヤマに今、自分はいる、と将吾は思った。
 取材前に何か軽く腹に入れておこうと思いはしたのだが、結局、緊張で何も食べる気になれなかった。今感じている胃の違和感が、緊張からなのか空腹からなのか分からない。喉もカラカラだが、出された茶には手をつけることが許されないような気がして、何度も唾を飲み込んだ。
 約束の二十二時から時計の長針がゆうに半周した頃、ガチャリ、と音を立てて応接室のドアが開いた。
「英京新聞報道部、東堂です」
「同じく小野です」
 将吾は東堂と共に立ち上がって名乗り、名刺を差し出す。それをちらりと一瞥しただけで、理事長はどかっと向かいのソファに腰を下ろした。
 狡猾、という言葉がこれほど似合う風貌もない、というのが理事長と直接対面した将吾の第一印象だった。
 どれだけ上等なものを身につけ雰囲気をつくろうことはできても、内面は顔に、特に目に現れる。こちらを値踏みするような鋭い視線には、目的のためなら他人を陥れ、踏みにじろうが心を痛めない残忍さと、相手の心を見抜き、自分に有利になるように計算高く動くことができるずる賢さが見てとれた。己の腕一つでのし上がってきた人間に一定数見られる、一筋縄ではいかないタイプだ。
「今日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。十五分厳守とのことですので、早速始めさせていただきます」
 慇懃無礼すれすれのトーンで東堂が口上を述べ、インタビューが始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ブライダル・ラプソディー

葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。 しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが── エブリスタにも投稿しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

処理中です...