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17. 将吾の知らない過去
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「ぐふっ⁉︎」
佐倉の言葉に、将吾が見事にむせた。
確かに、東堂と三ツ藤との様子を見ていて、東堂の過去に何があったのか将吾が知りたくなったのは事実だ。佐倉が昔の東堂の様子を知っているなら、そこから何かヒントになるものがわかりはしないかとも思っていた。しかし、ここまでピンポイントでその話が出てくるとは。
「えっ、違ったの? やべ、俺余計なこと言った。今の、忘れて!」
佐倉が将吾の顔の前でぶんぶんと手を振り回す。その手を掴んで下ろし、将吾は真っ直ぐ佐倉の目を見て言った。
「違ってねえ。その話だ。ただ言っとくけど、俺は下世話な好奇心からその話を知りたいんじゃない。俺が東堂と組んで仕事をする上で、東堂を理解するために知りたいんだ。話してくれないか」
将吾の真剣な態度に、佐倉もスッと真面目な顔に切り替わる。
小野のことだから心配はしてないけど、間違っても言いふらしたりするなよ、と前置きをして、佐倉は話し始めた。
「俺もさ、あの時東堂とずっと一緒に行動してたわけじゃないから、後から聞いた話も結構混ざってるよ。あれはね、ええと、三年前になるのか。だから小野がちょうど本社にくる直前くらいだったと思う」
現場の最前線は退いてもなお、元取材記者らしい簡潔な語り口で、佐倉は語ってくれた。
「……そう。で、その東堂が掴んだ情報筋ってのが、まあちょっとしがらみっていうか、個人的な知り合いだったっぽいんだよね。あ、これは社内でも公にはされてないから、オフレコね」
以前なら気にもとめなかったであろう東堂の選択、行動の中に、東堂を理解する鍵が隠れている気がして、佐倉の言葉を一つでも聞き逃すまいと将吾の脳細胞がフル回転する。
「で、東堂の記事が直接の原因ってわけじゃないけどさ、ほら、人が一人亡くなっちゃったわけじゃん」
三年前に佐倉が東堂と組んで追っていたのは、今回とよく似た内閣の汚職疑惑だった。当時マスコミの追及によって財務省の記録改ざんが発覚し、関わった職員の一人が責任を感じて命を絶つという痛ましい幕引きになった事件だ。
一連の経緯は将吾も知らないわけではなかったが、東堂がどのように関わっていたのか、その詳細は初めて聞く。
——東堂が書いた記事が、引き金になったのか……。
だとしたら、将吾が知る東堂ならば、相当にこたえたはずだ。
はたから見れば、記録改ざんの動かぬ証拠を挙げたのだから、記者冥利に尽きる話であり、社としても大スクープを取れて万々歳。社会的にも隠されていた真実を伝え、悪事を明るみに出すというマスメディアの正義を実行したのだから、賞賛されこそすれ、どこからも責められるいわれはない。
それでも、東堂は納得できなかったのだろう、と将吾は推測する。
自分が記事にしたことは正しかったのか。もっと他のやり方はなかったのか。責任を感じただろうことは、想像に難くなかった。
「それで、多分そのことを巡って情報筋の人と揉めたんじゃないかなと思うんだけど、とにかく、その人と揉み合いになって、東堂は暴力を振るわれた。それで今でも男にすぐそばに立たれたりとか、腕を掴まれたりとかがダメになったって、ここまでが一応俺が聞いた話」
そう締めくくったあと、「でもさ」と一段声を落として、佐倉が付け加える。
「ここからは俺の完全な想像というか、妄想に近いんだけど」
佐倉の言葉に、将吾が見事にむせた。
確かに、東堂と三ツ藤との様子を見ていて、東堂の過去に何があったのか将吾が知りたくなったのは事実だ。佐倉が昔の東堂の様子を知っているなら、そこから何かヒントになるものがわかりはしないかとも思っていた。しかし、ここまでピンポイントでその話が出てくるとは。
「えっ、違ったの? やべ、俺余計なこと言った。今の、忘れて!」
佐倉が将吾の顔の前でぶんぶんと手を振り回す。その手を掴んで下ろし、将吾は真っ直ぐ佐倉の目を見て言った。
「違ってねえ。その話だ。ただ言っとくけど、俺は下世話な好奇心からその話を知りたいんじゃない。俺が東堂と組んで仕事をする上で、東堂を理解するために知りたいんだ。話してくれないか」
将吾の真剣な態度に、佐倉もスッと真面目な顔に切り替わる。
小野のことだから心配はしてないけど、間違っても言いふらしたりするなよ、と前置きをして、佐倉は話し始めた。
「俺もさ、あの時東堂とずっと一緒に行動してたわけじゃないから、後から聞いた話も結構混ざってるよ。あれはね、ええと、三年前になるのか。だから小野がちょうど本社にくる直前くらいだったと思う」
現場の最前線は退いてもなお、元取材記者らしい簡潔な語り口で、佐倉は語ってくれた。
「……そう。で、その東堂が掴んだ情報筋ってのが、まあちょっとしがらみっていうか、個人的な知り合いだったっぽいんだよね。あ、これは社内でも公にはされてないから、オフレコね」
以前なら気にもとめなかったであろう東堂の選択、行動の中に、東堂を理解する鍵が隠れている気がして、佐倉の言葉を一つでも聞き逃すまいと将吾の脳細胞がフル回転する。
「で、東堂の記事が直接の原因ってわけじゃないけどさ、ほら、人が一人亡くなっちゃったわけじゃん」
三年前に佐倉が東堂と組んで追っていたのは、今回とよく似た内閣の汚職疑惑だった。当時マスコミの追及によって財務省の記録改ざんが発覚し、関わった職員の一人が責任を感じて命を絶つという痛ましい幕引きになった事件だ。
一連の経緯は将吾も知らないわけではなかったが、東堂がどのように関わっていたのか、その詳細は初めて聞く。
——東堂が書いた記事が、引き金になったのか……。
だとしたら、将吾が知る東堂ならば、相当にこたえたはずだ。
はたから見れば、記録改ざんの動かぬ証拠を挙げたのだから、記者冥利に尽きる話であり、社としても大スクープを取れて万々歳。社会的にも隠されていた真実を伝え、悪事を明るみに出すというマスメディアの正義を実行したのだから、賞賛されこそすれ、どこからも責められるいわれはない。
それでも、東堂は納得できなかったのだろう、と将吾は推測する。
自分が記事にしたことは正しかったのか。もっと他のやり方はなかったのか。責任を感じただろうことは、想像に難くなかった。
「それで、多分そのことを巡って情報筋の人と揉めたんじゃないかなと思うんだけど、とにかく、その人と揉み合いになって、東堂は暴力を振るわれた。それで今でも男にすぐそばに立たれたりとか、腕を掴まれたりとかがダメになったって、ここまでが一応俺が聞いた話」
そう締めくくったあと、「でもさ」と一段声を落として、佐倉が付け加える。
「ここからは俺の完全な想像というか、妄想に近いんだけど」
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