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13. 越えられない壁
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将吾はこの数週間、自分がこれまで東堂という人間のごく一面しか見ていなかったことを痛感していた。東堂が一体何を見て、どんなことを感じているのか、東堂から見える世界を知りたいと思うようになった。将吾にとって、東堂はすでに大切な仲間だ。もしできるなら、もっと踏み込んで話がしてみたいと思う。そんな相手がいいように愚弄され、傷つけられることに、憤りが抑えられない。同性の恋人がいたというところにはもっと衝撃を受けるべきなのかもしれないし、東堂の私的な過去を将吾は何も知らない。けれど、今はそんなことより、目の前で東堂がこんな扱いを受けていることが許せなかった。
荻野がリスクを承知で、名乗り出て話してくれたこと。
東堂がこのヤマにかける思い。
自分たちがどれだけの時間と労力を割いて、この事件を追いかけてきたか。
三ツ藤にとっては単なる記事の一つに過ぎなくとも、その裏にはこれだけの人の思い、努力がある。それら全てが、この男の、東堂に対する私的な欲望のもとに踏みにじられるのを黙って見ていなければならないというのは、どんなことよりも耐えがたかった。
「まだお前は、そんなことを……! もう全て終わったはずだろう! 俺に構うなと言ったはずだ!」
東堂が声を荒げる。
怒り、だけではない。その声は、どこかひどく傷ついているように聞こえた。
気のせいかもしれない。それでも将吾の怒りはここで頂点に達した。
——お前に、東堂の気持ちが分かるか! こいつがどんな思いでここまでやってきたか……!
将吾の中で、何かがぷちんと切れた。
「おい……! あんた、こいつの元カレだかなんだか知らねえが、こっちが大人しく聞いてりゃ、何脅迫じみたことを言ってるんだ? 東堂がどんな思いで、どれだけの努力と犠牲を払ってこの仕事をしてるか、あんたわかってんのか⁉︎」
一息にまくしたてて、将吾は肩で息をした。東堂が驚いたようにこちらを見ている。
三ツ藤は一瞬虚を突かれたような顔をした後、顔を顰めて吐き捨てるように言った。
「俺がこいつの仕事を分かってるかって? ハッ、俺はな、ずっとこいつの側で、一番近くでこいつを見てきたんだ。笑わせんなよ、兄ちゃん。お前なんかよりはるかに、俺はこいつのことを知ってんだよ。分かったら部外者は黙ってろ」
冷え冷えとした怒気に、本能的に後退りをしたくなる。いやらしい余裕の笑みの消えた顔に、初めて一瞬だけ三ツ藤の本心が覗いたような気がした。
将吾は、何も返せなかった。素性のわからない相手を迂闊に刺激するリスクももちろん頭を掠めたが、それより、自分の知らないかつての東堂を、ハッタリでなくおそらく事実として三ツ藤が知っているということ、それが将吾の勢いを地面に叩き落とした。知らない自分は、こちら側で見ているしかできない。二人との間に立ちはだかる壁を前に、将吾を襲うのは大きな無力感だった。
荻野がリスクを承知で、名乗り出て話してくれたこと。
東堂がこのヤマにかける思い。
自分たちがどれだけの時間と労力を割いて、この事件を追いかけてきたか。
三ツ藤にとっては単なる記事の一つに過ぎなくとも、その裏にはこれだけの人の思い、努力がある。それら全てが、この男の、東堂に対する私的な欲望のもとに踏みにじられるのを黙って見ていなければならないというのは、どんなことよりも耐えがたかった。
「まだお前は、そんなことを……! もう全て終わったはずだろう! 俺に構うなと言ったはずだ!」
東堂が声を荒げる。
怒り、だけではない。その声は、どこかひどく傷ついているように聞こえた。
気のせいかもしれない。それでも将吾の怒りはここで頂点に達した。
——お前に、東堂の気持ちが分かるか! こいつがどんな思いでここまでやってきたか……!
将吾の中で、何かがぷちんと切れた。
「おい……! あんた、こいつの元カレだかなんだか知らねえが、こっちが大人しく聞いてりゃ、何脅迫じみたことを言ってるんだ? 東堂がどんな思いで、どれだけの努力と犠牲を払ってこの仕事をしてるか、あんたわかってんのか⁉︎」
一息にまくしたてて、将吾は肩で息をした。東堂が驚いたようにこちらを見ている。
三ツ藤は一瞬虚を突かれたような顔をした後、顔を顰めて吐き捨てるように言った。
「俺がこいつの仕事を分かってるかって? ハッ、俺はな、ずっとこいつの側で、一番近くでこいつを見てきたんだ。笑わせんなよ、兄ちゃん。お前なんかよりはるかに、俺はこいつのことを知ってんだよ。分かったら部外者は黙ってろ」
冷え冷えとした怒気に、本能的に後退りをしたくなる。いやらしい余裕の笑みの消えた顔に、初めて一瞬だけ三ツ藤の本心が覗いたような気がした。
将吾は、何も返せなかった。素性のわからない相手を迂闊に刺激するリスクももちろん頭を掠めたが、それより、自分の知らないかつての東堂を、ハッタリでなくおそらく事実として三ツ藤が知っているということ、それが将吾の勢いを地面に叩き落とした。知らない自分は、こちら側で見ているしかできない。二人との間に立ちはだかる壁を前に、将吾を襲うのは大きな無力感だった。
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