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12. 違和感の正体

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 動揺する将吾とは対照的に、東堂は表情を崩さない。
「……そういうことか」
 一瞬の間があって、東堂がため息とともにそう吐き出した。
「お前がただの偶然であそこに居合わせるわけがないとは思っていた。……お前は、そんなことにまで手を出していたのか」
 最後の言葉に、わずかに感情の揺れを感じて、将吾は思わず東堂の方を見る。東堂は、哀れみとも落胆ともつかない表情で、目の前の男を見つめていた。三ツ藤がそんな東堂を鼻で笑う。
「いやいや、勘違いしてもらっちゃ困るな。俺はあの件についちゃ何も噛んでねえよ。ただ、あのババアは、俺のとこの社員でね」
 まさかの事実だった。東堂も同じ心境だったと見え、固まったまま話の続きを待っている。
「お前があの件を追ってるのは記事で分かってたし、あのババアの性格からしていずれお前に接触するだろうとは思ってたからな」
「……それなら」
 東堂が口を開いた。
「お前の狙いは何だ。俺たちに何をさせようとしてる」
 東堂の目が、剣呑な光を帯びる。
 この言葉で、ようやく将吾にも東堂の考えていることがわかってきた。
 三ツ藤は、A学園の不正疑惑には関与していない。だから荻野が話したことが記事になろうがなるまいが、三ツ藤自身に直接の利害はない。けれど三ツ藤は、この情報の重みを知っている。自分たちが、喉から手が出るほど欲しかった、記事にしたかった情報であることを。この男は、それを材料に自分たちを強請ろうとしているのだ。
「俺〝たち〟、ってえのは若干語弊があるな。さっきお前はこいつは巻き込むな、って言ったじゃねえか。お望み通り、こいつは巻き込まないでおいてやるよ。元カレのよしみとして、な」
 ——元カレ? 今、元カレって言ったか⁇
 聞いていれば、話の雲行きは急速に怪しくなってきている。
 ——この男が、東堂の元恋人……ってことか……?
 言葉通りに解釈していいのか、はたまた単に東堂を煽るためだけの出まかせなのか、将吾には判断できなかった。
「お前の個人的な事情を挟むな。今の話には無関係だ」
 東堂が吐き捨てるように言う。
 そんな東堂の反応は想定内だったのか、三ツ藤はニヤついた顔のまま、こう口にした。
「それはどうかな? その元カレの〝元〟を外す気になったら、ババアの話したことを記事にしてもいい、と言ったら?」
「な……っ!」
 東堂が、言葉を無くした。
 怒り、戸惑い、蔑み、さまざまな感情がその目を、口元を駆け抜ける。
 初めて見る、東堂の人間らしく、生々しい反応。将吾は何か、見てはいけないものを見たような、奇妙な後ろめたさを覚えた。三ツ藤の言う「元カレ」が、からかっているのではなく事実なのだろうことも、東堂の反応から確信に変わる。
 ——おいおい、こりゃとんだことになってきたぞ……。
 仕事に私的な事柄を持ち込むのは、東堂が一番嫌っていることのはずだった。
 激昂するあまり顔面蒼白になっている東堂を見て、将吾も怒りで腹の底がカッと熱くなる。
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