【完結】熱血くんと嫌味なアイツ【改稿版】

雫川サラ

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8. 一筋の光か、それとも罠か

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「小野、これを見ろ」
 自宅へ辿り着いた後、最後の気力を振り絞ってシャワーを浴び、泥のように数時間の仮眠を貪って昼過ぎに再集合した将吾に、東堂が社用携帯を差し出してきた。心なしか目に力が戻ってきているように見える。
 東堂が指し示したのは、東堂宛に届いたらしい一通のショートメールだった。将吾は言われるまま、表示されている文面を読み始める。一行目に目を落としてすぐ、驚いて東堂の顔を見上げる将吾に、東堂は「いいから最後まで読め」と目顔で促した。
 読み終わった将吾が、今見たものをどう捉えればいいか言葉に詰まっていると、将吾の戸惑いを見抜いたような顔で東堂が小さく笑う。
「吉と出るか、凶と出るか……ガセかもしれないし、現状打開の大きな一手になるかもしれない」
 メールの文章は、自分は「元職員」である、という書き出しで始まり、伝えたいことがある、東堂と直接会って話がしたい、と短い文で書き綴られていた。メールでは詳しいことはお伝えできません、とも。これだけで差出人の意図を推し量るのは困難だ。
 だが、あえて組織名には触れず、「元職員」とだけしか書いていないのを深読みすれば、差出人はそれだけで何のことかこちらが分かると踏んでいる。つまり、こちらが今どういう動きをしていて、どんな情報が欲しいか、水面化の動きをある程度知っている立場にいるということだ。さらには東堂の電話番号を何らかの形で知り得る人物。全くの部外者が悪戯で送ってきた、とは考えにくかった。
 好意的に考えれば、この人物は本当にA学園の元職員で、報道を見て、この問題をうやむやにしてはおいてはいけないという良心から接触してきたと解釈できる。元職員であればそれなりに学園関係者に知り合いもいるだろうし、東堂が接触したうちの誰かから、東堂の電話番号を入手したと考えれば不思議ではなかった。
 とはいえ、世の中そんなに善人ばかりではない。こちらの目を欺くため、ひいては世論を撹乱するために、不正疑惑の当事者側がガセネタを掴ませようとしているとも考えられた。不正の決定打が未だ出ていないこのタイミングならば、後者の可能性も十分にある。
「どうする」
 東堂の考えが聞きたくて、将吾が尋ねた。
「行く」
 短い即答。
「えっ」
「ここで考えていても分からない。そして俺たちには今、他に打つ手もない。それなら、行ってみるしかない。違うか?」
 小馬鹿にしているようにも聞こえる東堂の口調は、以前の将吾なら「そんな言い方しなくてもいいだろ!」と噛みついていたかもしれない。だが今は、相変わらず理詰めで来る男だな、とは思ったが、不思議と腹は立たなかった。
「そうだな」
 うん、と素直に頷く将吾に、東堂がまた珍獣でも見るような目つきになった。
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