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2. ああ言えばこう言う

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「……これがとりあえず公表されてる決算書。目を通しとけ。俺はこの後当たれそうな関係者のリストを作って、優先順位をつける」
「いやお前、それ全部一人でやる気か?」
 驚き半分、呆れ半分だ。東堂は当たり前のことを聞くなと言いたげな表情でじろりと視線を向ける。
「もともとお前に何か頼む気はない。さっきも言っただろう、俺の足を引っ張らないでいてくれればそれでいい」
 高山がいないところに来たらもう、この有様だ。「とりつく島もない」が服を着て座っている。じゃあ好きにしろ、と言い捨ててしまいたいが、まだ始まってもいないのに投げ出すのは将吾の信条に反する。ため息を飲み込んで、東堂に食い下がった。
「いやいやいや、じゃあ俺高山さんに何を報告すればいいのよ」
「自分で考えて動け。それとも一人じゃ何もできないお子ちゃまか?」
 ——ああもう! 本当にああ言えばこう言う!
「お前ね……」
 あくまで自分と協力する気のない東堂に、将吾は今度こそ飲み込めなかったため息をついた。

 今回、将吾と東堂が取材を命じられたのは、ある教育施設の認可をめぐる政治家の汚職疑惑である。
 学校を作るには認可を受ける必要があるが、そのためには法に定められた一連の要件を満たさなくてはならない。だがこの学校法人A学園は要件を一部満たしていないにもかかわらず認可を受けた可能性があった。そこになんらかの不正がなかったか、真相を突き止めるのが二人に課せられた仕事だ。
 今回、東堂と組まされた将吾だが、この件で動いているのは二人だけではなく、高山の口ぶりでは別働隊がいるようであった。そのくらいのヤマになるということだ。
「とにかく、組んでやれって高山さんが言うんだから、協力しあうべきだろ」
 高山は無駄な仕事をわざわざ言いつけたりはしない。東堂が一人でやれると踏めば、一人で行かせたはずだと将吾は思っていた。「二人で」と言ったからには、高山なりの意図がそこに必ずある。
 一向に引き下がりそうにない将吾に根負けしたか、東堂は面倒だと思っているのを隠しもしない表情で、だが渋々取材計画を話し出した。
 東堂によれば、公表されている決算書は、あくまで表向きのものである。東堂は、学園の間係者に接触し、内部資料の存在が確認できないか、またその中に認可をめぐってあやしい動きをしたものがいないかどうかを探るつもりでいるようだった。
「ま、しばらくは帰れないぞ」
 その程度のことは将吾も経験してきたし、覚悟もある。
 問題は、報道部四年目にして初めて組むこの男と一日の大半を共に行動することになるわけで、「協力し合うべきだろ」と言っておいて、やや先行きに不安があることだった。
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