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うさみち

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第7章 海中宮殿と新たな試練

7-16(幕間) 家族再会の日、再び

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「ちょっとバルディ、私のこと急に呼びつけたと思ったら、何回確認すれば気が済むのよ」

 ここは、人と人とが行き交うアザレアの街。

 今日は、俺、バルディ=アザレアにとって最も重要な日だ。俺は今、彼女(照)のローデを家に呼び、何度も何度も「身なりを確認してくれ」とお願いをしているところだ。

「ふふ。でもわかるわ。今日はバルディだけじゃなくて、アザレア家にとって、記念すべき日ですもんね」
「ああ、そうなんだ。恥ずかしいけれど、夜眠れなかったよ」
「コブシさんと一緒に行くんでしょ? コブシさんの日程が空いていてよかったわね」
「本当だよ。俺はまだ、1人で一角牛を倒せる自信がないから。それに、運のいいことに、ガウラさんも来てくれるらしいんだ」
「……心配、してくれているのね。もちろん、私も無事を願っているわ」

 俺は、「ありがとう」の代わりにそっとローデを抱きしめた。

 ◇

「おー! 来たなバルディ。今日はよろしくな。なんだお前、戦闘服じゃなくてスーツ着てるのかよ」
「すみません、緊張してしまって。晴れの日にはスーツかと」
「っかー! 真面目だな相変わらず」
「さぁ、くっちゃべってないで行くぞ」
「ハイ! ガウラさん」

 ◇

 道中、2度程一角牛に襲われた。
 でもさすがガウラさんとコブシさんだ。慌てることなく、危なげなく、最短で的確に倒していく。
 俺はミミリちゃんに作ってもらった【水魚の矢】でお2人をカバーするだけで済んだ。

 そして、毒耐性のあるコブシさんと俺がメインで、アンスリウム山中の麻痺蜘蛛を倒していく。

 俺もさすがに、何度もアザレアと川下の町を行き来しているからか、アンスリウム山の攻略には大分慣れた。

 最後は……蛇頭のメデューサと闘ったこのフロアの奥の道を進み、元廃墟の街である、ゼラの故郷、川上の街に出た。

「ここは、いつも思うけど花々が綺麗だな」
「ミミリちゃんですよ、花を植えたのは」
「嬢ちゃんはさすがだな。俺の目が黒いうちに、錬金術士に会えるとは思っていなかったぜ」

 俺たちは、川上の街に弔いを捧げ、先へ向かう。

 ーーカラカラ、サラサラ……という魅惑草たちの、後押しを背に浴びながら。

 ◇

「バルディお兄ちゃんだ! デュラン、トレニア! 来たよ~!」

 サラが呼ぶと、先に出て来たのはジン、シンの双子の男の子とユウリだった。
 その後ろに隠れるように、デュランとトレニアがおずおずと出てくる。トレニアは、デュランの服をキュッと掴みながら。

「あれ? ガウラさん? ガウレさん? ガウルさん? 今日はだあれ?」
「ガウラだ。悪いな」
「そっくりー! おもしろーい」

 バルディはヒヤヒヤする。
 ーー会うのは2回目とはいえ、ガウラさんになんて口の利き方をするんだ!

 怒るかと思えば、そんなことはなく。
 ガウラは膝を折ってデュランとトレニアを手招きした。デュランたちは、手を繋いでガウラの前にやってくる。

「改めて言わせてくれ。本当に、守って……やれなくてごめんな。辛かったろう」
「つらかった、つらかったよー」
「うっ、ううっ」

 ガウラもデュランもトレニアも、大泣きした。
そしてつられて、全員が泣く。
 その騒動に慌てて、シスターが教会から出て来た。

「あらあら、大丈夫ですか? 中にお入りになって?」
「せっかくですけど、このままアザレアに向かいます。なるべく早く、また両親に会わせてやりたいんで。な、バルディ?」

 コブシはバルディにウインクをする。

「デュラン、トレニア。お兄ちゃんたちと、来てくれるか」
「行く」
「……く……」

 トレニアの声を聞いて、デュランは微笑む。

 ーー失語症、少しずつ良くなっているんだな。

「では、しばしアザレア家でお預かりします。よろしくお願いします」

 「公」のバルディは、深々と頭を下げた。
 スーツ姿なものだから、教会に授業参観のためやって来たに見えなくもない。
 コブシはクスッと吹き出してしまった。

 ◇

「うおおおおおおおおおおー!」

 ガウラは大楯を持って、一角牛の敵対心ヘイトを集める。その隙に、コブシが背面または側面に回ってヒートナックルを。バルディは2人のサポートとして、他の一角牛の脳天に【水魚の矢】を打ち込む。

 見惚れるデュランとトレニア。
 自分の兄が、これほど強いと何故か誇らしく感じる。それに、この間見た時よりも、もっともっと強くなっている気がする。まだ、形式的にしかお兄ちゃんと呼ぶことができず、兄という実感はないけれど。

「デュラン、トレニア、俺から離れるなよ!」

 ーーシュッ!
「行けッ!」

 また1体一角牛を仕留めた。

「これだけあったら、教会でお腹いっぱい食べられるのにね」
「……ね……」

「後で街からギルドへお願いして一角牛の回収クエストを依頼するから。その時に教会へも寄ってもらうよ。でも、俺たちも今少し持って帰ろうな」

 優しく、バルディが2人を撫でる。

 ーーこれがお兄ちゃん。これが、家族……。

 デュランとトレニアの警戒心は、次第に薄れていった。

 ◇

「うわぁ、すごい。何度見ても、たっかーい!」

 デュランもトレニアも、アザレアの堅牢で高い外構に釘付けになった。アザレアに来るのは2度目とはいえ、いつも住んでいる教会と比較してしまうとさすがに驚きたくもなる。

「あ……門の前に誰かいる」
「ああ、門番だよ。身分証の確認をするんだ。2人の分はこの間作ったのを持って来たから」
「そうじゃなくて、あそこ……」

 アザレアの門扉の前、広場に初老の夫婦が2人立っていた。
 この街の町長、ペラルゴ=アザレアとその妻、ユリール=アザレアだ。

「父さん、母さん」
「やっぱり……」

 バルディの声にデュランがピクリとする。そして、トレニアも。

「お……さん、……かあ……?」

「デュラン、トレニア!」

 ユリールは、躊躇うことなく、2人の元へ駆け寄った。

「ああ、フロレンスの女神様、今日という日に感謝いたします! 子どもたちに再び逢わせてくださり、ありがとうございます!」

 ユリールは2人を抱きしめて大泣きしつつ、質問を重ねる。

「お腹空いてない? 大変だったでしょう? さみしかったでしょう? 悪いお母さんで、ごめんなさいね……。ああ、また会えて良かったわ。愛してるわ」

「愛、してる……?」
「ええもちろんよ、愛してるわ」

 ペラルゴは、バルディの肩を叩き、「ありがとう」と言ってから3人の元へ向かった。
 そして固く固く、3人を抱きしめた。

「苦しいよ……」
「すまなかった。また来てくれて、ありがとう」

 バルディも、涙が止まらなかった。念願を再び叶えることができたのだから。
 いつの間にかそばに居たローデは、そっとハンカチを手渡す。

「良かったわねバルディ。今夜は祝賀会かしら」
「気がつけばこんなに街の人が集まってくれていたんだな。ありがたいことだよ」

 ローデはニコリと笑う。

「だって、アザレアたっての悲願じゃない」
「ああ、そうだな。みんな、本当にありがとう。感謝の気持ちで、胸がいっぱいだよ」

 嗚咽ともいえる泣き方をするペラルゴ夫婦。
 対して、デュランとトレニアはまだ会うのが2回目ということもあり、実感がわかないようだ。でも顔を赤らめ、嬉しそうである。

 ーー今日の夜は、アザレアの祝賀会。
 たくさんの夜店に、たくさんの観客。
 街は大いに盛り上がるだろう。


 ただ1人、コブシにたった今釘を刺された、三冠王(酒乱、泣き上戸、毒舌)のデイジーを除いて。

「デイジー、今日だけは一滴たりとも呑ませないからな」
「兄さんのケチ。……でも私、呑まなくても今日は、雰囲気に酔えそうだよ」
「エッ?」

 デイジーの新たな特性が開花しそうな今日。
 ーーアザレアの街の悲願であった、ある家族の再会の日は、再び訪れた。
 
 その最大の功労者たちは、今や海の上。
 きっと風の噂、いや、ドラゴンの郵便屋さんで知ることになるだろう。
 今日という、晴れ日のことを……。
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