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第7章 海中宮殿と新たな試練
7-10 睡眠蝶のしびれ粉
しおりを挟む「よーしっ! じゃあ作ったことのない【睡眠蝶のしびれ粉】から作っていくよ!
まずは本をもう一度読んで……っと。
【睡眠蝶のしびれ粉 最高品質 麻痺(大) 追加効果:対象の身体の自由をめまいや麻痺などで奪う。大量に摂取した場合深い眠りにつくことがあるが、生命を奪うには至らない】
これは雷竜を眠らせるために作ったんだが、人間が使うとこりゃ死ぬな。耐性がない限り。
間違っても使うんじゃないぞ? 俺の目算だと、おそらく雷竜でも100年は眠っているはず。100年間のうちに決着をつけて。戻るんだ俺は。アルヒの元へ!
・睡眠蝶の鱗粉 ×5
・ポイズンサハギンの毒←new!×1
・麻痺蜘蛛の成分←new!×2
・ポイズンサハギンのヒレ←new!×1
・睡眠蝶の針←new!×1/2」
new! って横に書いてあるのが、新たにわかったレシピの材料。一度ライちゃんが住む地下空洞で完成品自体を手に入れたことはあるから、出来上がりのイメージはできてはいたんだけど、材料は何かまではわからなかったから、作れなかった。
でも今は。
材料は運良く揃ってる。
だからあとは、落ち着いて錬成するだけ。
「中和剤の役割をする【ミール液】がないのがこわいけど……。材料同士がケンカしそう。
まずは、上に書いてあるものから順番に……」
ミミリは、本を読みブツブツ言いながら冷静に調合を始めた。うさみとゼラは、今回はミミリの背中を見ているだけとなる。手持ち無沙汰がこの上ない。
「よっし! 俺も運動がてら斧の練習するかな」
「ダメよ、ゼラはとにかく治療から」
「わかったよ、よろしく、うさみ」
ゼラもうさみも、本心を言えば錬成を手伝ってあげたい。できることならば。
自分たちの命運を一気に背負うには、ミミリの肩はあまりに小さすぎるから……。
「ホラ、手、出して」
ゼラはしぶりながらも手を出した。
水脹れに、割れた水疱。焼け焦げた肌に、動かすのがやっとのほどの手……。
「ゼラ! どうしてアンタこんなふうになるまで……」
うさみは泣きそうになった。
ゼラがあまりに気丈に振る舞うから。
ここまで重症だとは、思わなかったのだ。
「痛いわよ! 我慢ね。ーー癒しの大樹!」
ゼラの手を、優しい風とともにまるで葉が水面をせせらぐような音が響き渡る。それと、肩に受けていた切創も、じゅくじゅくと塞がっていく。傷が癒えるたびに痛みが走る。
「ぐっ、ぐううううう。さすがに、痛テェ」
「我慢よ! 我慢……。ごめんね、ゼラ。いつも盾になってくれて、ありがとう」
「それを言うならさ、ミミリだよ。今回、大蛇からうさみを身を挺して守ったのはミミリだ。人には『盾になっちゃダメーっ』って言うくせに、自分は盾になるんだもんな。……でもそのおかげでうさみが助かったんだ。俺は感謝してるんだよ」
うさみの目から、涙がポロポロ溢れてくる。
「私、怪我したってぬいぐるみだから平気なのに」
「でも痛みは感じるんだろ? それにうさみの『核』、生命のオーブが壊れたら、死んじゃうじゃないか。俺もミミリも、うさみが大事なんだよ。俺にとっては、ミミリも大事だけどな」
「ゼラ……」
「だから、2人が危ない時は、喜んで盾になる。誰に、なんと言われようと。だからなるべく、戦闘の時は安全圏にいてくれな? そしたら俺は、闘いに集中できるから」
ゼラは、うさみの涙をそっと指で掬い上げた。
「守るからな、うさみも、ミミリも」
「もっ、もうっ! ゼラってば。私はミミリのパンツのことで怒ろうと思ったたのに、パンツで怒れる雰囲気じゃなくなっちゃったじゃない!」
「それについては、ゴメン、としか。男のサガってヤツでさ」
「まぁ、ミミりん、パンツの上に見せパン(見られても大丈夫なスパッツのようなもの)履いてるから平気なんだけどね」
「ーー! 心配して、損した」
「何を損したの?」
ーーゼラはビクンッとする。本人に聞かれてしまったからだ。しかし運良く、そのまま話は進んでゆく。
「「ミミリ! 錬成は?」」
「終わったよ。私大分早く錬成できるようになったみたいで。見て?」
【睡眠蝶のしびれ粉 最高品質 麻痺(大) 追加効果:対象の身体の自由をめまいや麻痺などで奪う。大量に摂取した場合深い眠りにつくことがあるが、生命を奪うには至らない】
「今回は新鮮な材料に救われたって感じかな? サハギンの王、王将さんから、新鮮な材料たくさんもらったたでしょ? 鮮度がいいものほど、品質にかなり影響するから。……でも私が、『最高品質』のものを作れるなんて、思ってもみなかったよ」
「成長したのね、ミミリ」
「うん。そうみたい、うさみ」
ゼラはこのやり取りを微笑ましく見る。
そして自然とアルヒのことを思い出した。
ーーまた、3人揃う時が早くくるといいな。そのためには、俺も頑張らないと。
「で、ミミリ、【ライちゃんの一撃】もとい、【天翔る竜の雷豪】は? 作れたのか?」
「うん、それも。大丈夫。一度作って要領は得てたから。あとね……『治療薬の作りかた~錬金術士版~』に載っている回復薬も作ったよ。これからのステージのために」
ーーポロン!
『圧巻でした。ミミリ、さすがです。
貴方はやはり、もう『見習い』は卒業ですね。
立派な錬金術士です』
ポロンがポップアップに綴った文字を見て、うっすら涙を浮かべるミミリ。
爆弾作りに失敗して家を壊しそうになったり。
爆弾作りに失敗して爆弾パイを作ったり。
思い返せば、爆弾との思い出ばかり。
ーー私本当に、爆弾娘だったみたい。
でもこれからも爆弾の道は極めていくつもり。スズツリー=ソウタさんが雷電石の地下空洞を見つけた時に使った爆弾の威力まで、程遠いもの。私の爆弾は。
もっと上手く錬成できるようになれば、きっと……! ゼラくんは前衛で苦戦しなくなると思うから。
ーーポロン!
『どうしますか?
▶︎休みますか?
休みませんか?』
ミミリは2人に問う。
「思ったより疲れちゃったから、休んでもいいかな?」
「ええ、そうしましょう」
「俺も助かるよ」
「じゃあ、休ませてもらうね、ポロンちゃん」
『2.5ステージには、モンスターは出ません。安心してお休みください』
「ありがとう。うーーん。あった! ヨイショっとぉ!」
ミミリは力一杯小屋を出した。
ここのステージには工房はあるものの、一階を模して作ってあるだけで、2階という概念がないからだ。
『ミミリ、小屋で休むのですか? 私はてっきり、寝袋など使用するのかと』
「小屋で寝るよ。起きた時のスッキリ感が違うから! じゃあ、みんな。おやすみ」
「「おやすみ~」」
『よい夢を……』
『ソウタ様、お喜びください。貴方が待っていらした未来の錬金術士は、想像の一歩上を行く、素晴らしい錬金術士でしたよ。
アルヒ姉さんとも繋がりがある方です。
どうか、ご心配せず。
1日も早いご帰還とご無事を願っています』
ポロンは、物思いに耽る。
ーーソウタ様……いいえ、ご主人様。貴方は今どこで、何をしていらっしゃるのですか? 私は貴方が、心配です。
ポロンも知らないスズツリー=ソウタの居場所。
旅を続けて足跡を辿れば、きっと巡り合えるだろう。ここから動くことができないポロンは、できないけれど。
ミミリ、うさみ、ゼラ。
どうかご主人様をよろしくお願いします。
私の思いを、貴方がたに、託します。
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