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第7章 海中宮殿と新たな試練
7-5 雷竜の庇護、愛されし孫娘
しおりを挟む「こ、ここは……」
「何も見えないわね」
「ああ。でもみんな逸れてなくて良かったよ」
暗闇の中。
ミミリたちはお互いに相手の顔が見えないでいる。声だけが生存確認の手段だった。
「灯し陽!」
うさみは魔法で灯りをつけた。
「どうやら、意味がないみたいね」
ポウッと一瞬灯りがともったものの、すぐに闇にかき消されてしまった。
うさみの魔法がキッカケだったのだろうか。
それとも、ダンジョンに入るとこうなる仕様なのか。真相は定かではないが、どうやらミミリたちは囲まれたらしい。
唸り声とともにどこからともなく、ヤツらはやって来た。複数の足音、息遣い。部屋の湿度が急に上がった気がするのに、冷や汗をかきそうな、そんな感覚。
「グルグルグルルルルルルルル……」
「囲まれたみたいね」
暗闇を照らすのは、唸り声の主たちの紅い瞳。周りから、今にでも襲ってこよう、食ってやろうというような唸り声がする。
「とりあえずみんな、私のドームの中に! ーー守護雷神の庇護!」
ミミリたちの周りを、雷を纏ったドームが覆う。
ドームは雷のような光を浴び、周りが漸く鮮明になった。
「ピギーウルフみたいだけど、ちょっと違うね」
「ヤバいぞこれは。20体くらい……いるか? もしかして」
「ほんとね。それに相手の属性や特徴がわからない限り……やばいわね」
気づけばドームの周りを20体程度の黒い毛に紅い瞳をもったピギーウルフの亜種のようなモンスターである、ブラックウルフに取り囲まれていた。
今は互いに牽制状態。まさに一触即発だ。
「グルルルルルルルルウ!」
中でも一回り大きなブラックウルフが鳴き声を上げた。それに呼応するように、周りのウルフたちも鳴き声を上げる。
「「「グルルルルルルルル」」」
「あれが、ボスかな」
「多分ね」
ゼラの額から、汗が滴り落ちる。
「うさみ、一瞬だけ、このドームでなんとか守れるか? 俺が囮になって……」
「ーーダメッ」
珍しく大声を上げたのはミミリだった。
「約束したでしょ? 盾にはならないって」
「そうだけど、この状況じゃあ」
「そうよ、ゼラ。ここは私が、このドームでなんとかしてみるわ。ありったけの魔力を込めて……何かあったらミミリをよろし……」
「それもダメッ!」
「「ミミリ……」」
ミミリは勇ましい顔をして、うさみとゼラを見た。
「私がなんとかするから、みんな囮になろうとしないで。お願い。
うさみ、このドームにもう少し魔力込められる?」
「やってみるわ」
「ドームと同じ属性だから、大丈夫な、はず。多分!」
うさみとゼラは顔を見合わせた。
ミミリの言う「はず、多分」はヤバイ。
成功確率が未知な証拠だ。
「いっくよー! 【ライちゃんの雷】!」
「「は? 雷竜?」」
ミミリはポーンと錬成アイテムを投げた。それは雷竜の鱗のような、雷電石のような。煌びやかに眩しい、雷が落ちたような形を模した光るナニカ。
投げたと同時に、
ーーモコモコモコモコ……。
暗闇の中に、その名の如く、モコモコと暗雲が立ち込め……、
ーーズドオオオオオオオオオオン!
と、間髪入れずに雷が落ちた。
雷は止めどなく落ち続ける。
「それーっ!」
ミミリは構わず錬成アイテムを投げ続けた。
投げるたび、引火し合い、連鎖し合い、落ち続ける雷。
そう、まさに雷竜の一撃のようだった。
「やべえな、コレ」
ゼラにはわかった。
雷竜から雷をくらったことがある、ゼラだからこそ。
「雷竜の一撃と遜色ねえじゃん……」
ブラックウルフはバタバタと倒れていく。
それに、うさみも、かなり魔力を消耗しているようだ。
「ミミりん、すごいんだけど、これ、見境いないわ。私のドームは避雷針ではないから、同じ属性でも、食らうとかなり……クッ!」
「ごめんねうさみ、かなり強かったみたい……」
「全く相変わらずミミリはすごいな。……あとは、俺の番だ!」
気づけばブラックウルフのボス1体だけとなっていた。あとのウルフたちは、焦げるほど身体を焼かれて、事切れている。
「ゼラ! 気をつけて!」
「おうっ!」
ーーミミリには、負けてられないからな。
「頼む! 【ナイフ】」
……仕方ネェなぁ。使いなァ!
ゼラは【ナイフ】から紅の刃広斧をゼラに託した。
「いくぞ! 紅柱ッ!」
ゼラの振り翳した斧から、火柱が立ち昇る。
ミミリの雷でダメージを負ったボスウルフは、足元がおぼつかず、避けること叶わない。
「ギャアアアアアアアオオオオオオン!」
ボスウルフは力を発揮することなく、立ち昇る火柱によって、その身を焼かれ、バタンと倒れた。
ミミリたちは、
・ブラックウルフの毛
・ブラックウルフの牙
・ブラックウルフの肉
を手に入れた。
暗闇だった空間が、淡く光り始めた。
お互いの顔も、漸くぼんやり見えるように。
「やったぁ! やったね! うさみ、ゼラくん」
「まぁ、殆どミミリとうさみのおかげだけどな」
「ところでミミリん」
うさみは展開したドームを解きながら言う。
「その錬成アイテム、どうしたの? 素材はもしかして……と思うんだけど、まさか」
ミミリは顔を紅潮させて答える。
「そうっ、そうなのー! ライちゃんがアザレアを出発する日にね、鱗や爪をたくさんくれたんだよッ。雷電石の地下空洞に捨てるくらい落ちてたからって。……言ってはいたんだけど……」
「「だけど?」」
ミミリは申し訳なさそうに肩を落とした。
ーーまさか!
と、ゼラとうさみは思う。
「ライちゃんの身体ね、ところどころ鱗が禿げてたの。まさか、自分で剥いで用意してくれたんじゃないといいけど……」
ーーうさみとゼラ、絶句。
うさみとゼラはこういう時だけ、目で語れる特技がある。2人は互いに、目で語り合った。
ーー絶対自分で鱗を毟ったと思わない? ゼラ。本当に地下空洞に落ちていたのもあったでしょうけど、足りない分は自分で足したと思うのよ。
ーー俺も同感。さすが雷竜に愛された子だよな、ミミリは。最強だよ。
ーー同意するわ。
「「はぁ……」」
「やだっ、どうしたの? ため息なんかついて、2人とも。まさか、やりすぎたから?」
「そうかもね。でもそういえば、成功確率は何%だったわけ?」
「えへへー、それがね」
ミミリは少し照れている。
「まさか100%か?」
「ううん」
ミミリは驚くゼラに照れて、少しだけ鼻の頭をこすりながら言う。
「成功確率は、120%かな?」
「「えっ?」」
「私たちみんな、耐えられるか心配だったの。でも、さすがうさみだよねぇ! うさみのドームがなかったら、私たち丸焦げだったよ。……あ、雷耐性のあるゼラくんなら生き残っただろうけど!」
あっけらかんと話すミミリに、うさみもゼラも精神力が奪われていくような気がした。
ーー脱力。肩の力がダラァンと抜け落ちる。
「うさみ」
「俺たち、頑張ろうな」
「ええ」
「私も頑張るよッ! えいえいおー!」
「「おー……(私たち、頑張りましょう)(おう、協力しような)」」
元気いっぱいなミミリと、意気消沈気味のうさみたち。ここで、ポロンという音とともにポップアップが光った。
ーーポロン!
『第一関門、『ブラックウルフの群れ』突破おめでとうございます。
次は第二関門です。
回復してから進むことをオススメ致します。
準備ができましたら、光が差し示す方へ向かってください。
ひとまず、お疲れ様でした。』
ポロンの言葉とともに、淡く光るだけだったこの空間の奥に、眩く光る何かが現れた。おそらくあそこが、第二関門への入り口だろう。
「ポロンちゃん、ありがとう」
ーーポロン!
『ーーいいえ。礼には及びません。
ーーご武運を』
「さっさと次に、と言いたいところだけれど、どうやら連戦バトルのダンジョンのようね。やはり審判の関所とは難易度が違いそうだわ。休んでいきましょう」
「そうだな。ミミリ、回復アイテムを……」
と、ゼラが言いかけると、ミミリもうここにはいなかった。
「…………ククッ、さすがミミリだよ」
ミミリはせっせとドロップアイテムを集め、【マジックバッグ】の中から、屋外用のダイニングテーブルセットを出して、料理を並べ、準備万端だった。
「ミミりんって、豪胆よね」
「俺もそう思うよ。なんせ……」
「「雷竜の孫娘だからな」」
ミミリは2人の思うことなど気にも留めず、元気いっぱいに手招きする。
「2人ともはーやーくーっ! ご飯食べよぉ!」
「「…………」」
ゼラは無言でうさみを抱き上げ、肩に乗せてテーブルへ向かった。
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