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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-28(終話)新たなる旅立ち
しおりを挟む――冷たい潮風を肌に浴びながら、朝日が顔を出そうとしている頃。
ミミリたちの、出発の日がやってきた。
「こんなに立派な船にしてくださってありがとうございます、ガウレさん!」
「ただの修繕だからな、そんなに時間は食ってねぇよ」
――新たなる旅立ち。
ミミリたちは新大陸に向けて船に乗った。
会合の時は操舵手を町からお借りしようと思ったが、動力源は、舵輪についている揺蕩う水色の水晶玉にミミリが手をかざすだけだったので問題なかった。
右も左もわからない新大陸へは、海竜が連れて行ってくれると約束してくれている。
「ゼラお兄ちゃん、行っちゃうの、さみしいね」
「うん……」
サザンカ護衛のもと、教会のみんなが見送りに来てくれていた。それに、ミミリを絶対神と崇めるガウディも。
ミミリより一つ年上のサラ。
ミミリと同い年のデュラン、トレニア、ジン、シン。
一番年下のユウリ。
新しく住むことになった子どもたち。
そして、優しいシスター。
ゼラのもう1つの家族全員が見送りに来てくれた。
「ゼラくん、本当にいいの? 一緒に旅を続けてくれて」
「あぁ、いいんだ。ミミリたちの目標は、俺の目標でもある。2人の側に、俺はいたい」
「泣かせること言うじゃない、ゼラ」
「私、動かしてくるね!」
ミミリだけ船室に行き、舵輪の中央、水晶玉に手をかざす。
――ブワッ!
船は砂浜から砂塵を巻き上げながら宙へ浮く。
「綺麗……」
デイジーは、コブシの横でさみしさを感じながら宙を見上げるも、船の美しさに思わず言葉が口をついて出た。サハギンの鱗で強度を増した船底は、装飾品のように煌めいて美しい。
――ザパァン!
無事、海へ入水したのちに、ミミリが船室から出てきた。
「うまく動いたねぇ、良かった」
「上手だな、ミミリ」
なかなか、出発できないミミリたち。
忘れずに、工房は【マジックバッグ】にしまった。食糧も補充できた。ここでは新しい本も手に入れ、素晴らしい出会いがあった。
……名残惜しさが、ミミリたちを引き留めている。
ミミリは、ダメ押しで最後の勧誘をしてみる。
「バルディさん、一緒に行きませんか? コブシさんも」
コブシは眩しい空に手をかざしながら、残念そうに答えた。
「手のかかる妹が冒険者ギルドにいるからな。ついていないと」
「もー! 兄さんてばっ! 禁酒してるから大丈夫なのに」
「俺は心配なんだよ」
そう言いながら、コブシはデイジーの頭をくしゃくしゃっと撫でる。
「もー! やめて」
髪を直しながら抗議するデイジー。
「ミミリちゃんたちの帰りを待ってるからな! 俺はアザレアと川下の町を行き来してると思うから!」
「バルディがいないとからかう相手が減って困るわん」
船の減りに腰掛けて足を投げ出すうさみは残念そうに言ってみるも、バルディの決意は固かった。
◇
「準備はできたかしら。私も人魚の海域まで一緒に行くわ」
海の中で虹色のヒレが透けて美しいディーテは、船の先導に付き合ってくれるという。
「すぐそこでお父様も待っているわ」
「じゃあ、あんまり待たせたらいけないね」
「そうね」
「さみしいけど……行こう……!」
「みんな! たくさんたくさん、お世話になりました。新しい冒険を終えたら帰ってくるので、その時は仲良くしてください」
「次会うときにはまた新しい魔法を見せてあげるわ、ちびっ子たち!」
「シスター、みんな、行ってきます……!」
「「「「行ってらっしゃい」」」」
たくさんの声援を浴びながら、手を振って応えた。泣きそうな涙を押しとどめて、船室に入って舵輪に手を添える。
ディーテの背を負いながら、朝日が登り始めた水平線へ向かって、脳内で船を進ませる想像をする。船は想像に応え、ディーテの背を追っていく。
ミミリは、
「ちょっとだけ自分で進んでてね。その分の、魔力は込めていくから」
と船に言い、うさみとゼラの手を引いて、船尾へと再び向かった。
「行ってきま~す!」
ミミリたちの声に応えるように大きく手を振りかえしてくれる町の人たち。アザレアでの冒険に続き、川下の町でもたくさんの人と出会い、たくさんのことを学び……お墓参りもできた。
そして人々が小さくなる頃、船室に戻って、ガラス越しにディーテの背を確認する。無事に自動運転できていたようだ。
「次はどんな冒険が待ってるかな」
「ミミリの両親に会えたらいいな」
「そうね。スズツリー=ソウタにもね」
――新たなる旅立ち。
ミミリたちは、新しい冒険へと、大海原に乗り出した。
……町での出会いと冒険を、胸に抱きながら……。
◇ ◇ ◇
「行かなくて、良かったの?」
ローデは、髪を耳にかけながら横目でバルディを見た。バルディは視線に気がつくも、視線は返さず前を向いて大きく伸びをする。
「攫われてきた子どもたちを無事に返してやること。それが俺のこれからの仕事だ。バルディ=アザレアとしての、責務がある。デュランや、トレニアもいるしな。離れられない」
「……そう……」
それに……、とバルディはローデを見る。
「俺は、ローデの側に、いたいんだ。俺は、ローデが、好きだから」
凛としたローデは面をくらって、珍しく両手で顔を隠した。
「それは、不意打ちは……反則よ、バルディ」
「それで返事は、聞かせてもらえるのか?」
バルディは、顔を隠すローデの手を片手ずつ握って、ローデに向き合った。朝日を浴びるローデの頬は、朝日の色をしている。
凛としていないローデも可愛いと思うバルディ。できれば、答えが欲しい。
ローデは、目を逸らしながら、小さく頷いた。
……ただそれだけでも、バルディにはわかる。
「ありがとうローデ。絶対幸せにするよ!」
と、力強く抱きしめた。
――キャアアアァァ! パチパチパチパチ!
途端に浴びる、黄色い声援。
なんと、バルディたちは見られていたのだ。
抱きしめながら、バルディはローデの耳元でそっと囁く。
「これでますます逃げられないな、ローデ」
「――!」
バルディはローデの腰に手を当てて、持ち上げながら砂浜をくるりと一回転し、再び抱きとめた。
「まぁ、逃す気はないけどな」
新しいカップルの誕生に、鳴り止まぬ声援。
――バルディたちもまた、新たなる旅立ちが始まった。
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