見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

文字の大きさ
上 下
186 / 207
第6章 川下の町と虹色の人魚

6-27 人間とは奇怪で面妖である。

しおりを挟む

 夕暮れ時。
 これから夜へと傾いていこうとしている頃。

 ――ある1人を除いて、来たる実験への準備は整えられた。

 念のため、再確認をしよう。

 会場設営、OK。
 長机あり、椅子あり。

 小物確認、OK。
 ツマミ(テールワットの干し肉、メシュメルの実の塩漬け)、グラス準備万端。

 現物確認、OK。
 蛇酒、ポイズンサハギンの毒、スタンバイ。

 実験台コブシ確認、OK。
「今日はパーティーか?」などと言っている。警戒心ゼロ、パーフェクト。

 仕掛け人確認、OK。
 デイジーと鬼畜うさみとゆかいな仲間たち、準備OK。

 万が一の備え、OK。
 【解毒剤】、準備完了。

 ――舞台は整った。あとは、実行に移すだけだ。

 ◆

「兄さ~ん、ちょっとー!」
「ん? なんだ?」

 実験台のコブシは、仕掛け人デイジーにチョロく捕まった。

「今から蛇酒飲もうと思って」
「はっ? お前禁酒してるだろ?」

「私が勧めたんです、コブシさん。せっかく遠方に来ていますし、海の音を聞きつつ、夕陽が海に沈むのを見ながら、一杯いかがですかー? って」

 若干棒読みのミミリ。
 まぁ、要点は伝えられたので及第点だろう。

 ちなみに、このやりとりは錚々そうそうたるメンツに見守られている。

 ミミリ、鬼畜うさみ、ゼラ。
 憐れみを隠せないバルディ、ローデ。
 なんだかんだ楽しんでいるガウリ3兄弟。
 サザンカ、サハギンの王将。

 これだけの人数に取り囲まれながらセッティングされた会場に普通なら違和感を抱くはずだが、人が良いコブシは考えに及ばない。

 ミミリはだんだん申し訳ない気分になってきて、「やっぱり私が……」と言おうとしたところ、ストーリーテラー鬼畜うさみに静止された。


 ――既に、舞台は幕を開けたのだ。

「まぁ、みんながいいって言うなら一杯だけ呑んだらいいんじゃないか? 皆さんすみません、本当にいつも」

 今日も妹のために頭を下げるコブシに、グッとくるものがあり、目頭が熱くなるバルディは、ローデからスッと渡されたハンカチで目を覆った。

 ――トクッ、トクン……

 グラスに注がれる蛇酒。
 みんなに見守られながら、仕掛け人デイジーはグイッと一気に呑みほした。

「なんと面妖な……」

 あまりの呑みっぷりに、デイジーを形容する言葉が思わず王将の口をついて出てしまった。

「ぷはぁ~! さいっこー! あぁ、なんだか酔ってきたかも……。視界がくるくるしてきたかも……。ガウラさんが3人いる。こんにちは~」

 ――準備は整った。あとはストーリーテラーうさみの出番だ。

「美味しそうで何よりだわ、デイジー。それに、こんなに優しいコブシっていうお兄さんがいて……本当に恵まれてるわよね」

 ――これから実験台を地獄へ突き落とそうとしている者の発言とは思えない鬼の所業。鬼に突かれ、デイジーの毒舌スイッチはカチリと入ってしまった。

「ちょっと兄さんこっち来て」
「うん、どうした?」

 デイジーは気持ちも体温も高まって、男性だらけだと言うのにサマーニットを脱いでタンクトップ一枚になってしまう。

「コラ! お行儀悪いぞ! すみません、皆さん本当にもう」

 デイジーは、頭を下げ続けるコブシに座るよう要求して、足と腕を組んだ。

「兄さんてさぁ、前々から思ってたんだけど、無頓着すぎない? 自分に! もっと自分の幸せ考えたらどう? 謝ってばかりいないで」
「あはは、お前が心配なんだよ」

 褒め言葉なのか謝罪なのか? まったく意図しない毒づきを始めたかと思えば……ついに本題に触れた。

「洗濯物……」
「え?」
「何回言っても直らない洗濯物! いっつもひっくり返ってるのよね。あれはなに? 私にひっくり返して干せってそういうメッセージかなにか?」
「あ、ごめん迷惑かけて」
「本当よ! 何回言ってもわからない兄さんは洗濯物すら満足に出せないFMよ! ふ・ま・ん・ぞ・く!」
「うっ……」

 だいぶジャブが効いたパンチを次々と繰り出すデイジー。コブシはぐうの音も出ない。

「もし奥さんが出来ても同じことするわけ? 捨てられるわよ! 野良犬のようにね。Nよ! の・ら・い・ぬ!」
「「「「「「うううう」」」」」」

 ――妙なことになってきた。

 実験台はコブシだけだったはずが、男性陣には思い当たる節があるようで、意図せず全員毒づかれてゆく。

 ――そういえばゼラも最近ミミリに、袖だけ中にくるんとひっくり返ってて直して欲しいと言われていた……。

「うううう……」

 苦しむゼラ。
 これは更なる毒耐性が期待できるかもしれない。

「ミミリ、うさみ、俺、舐めてみるよ。ポイズンサハギンの毒」
「エッ」

 自ら進んで実験台になったゼラ。疑惑の信憑性を確かめるつもりだ。

 小皿の上に乗せられた、紫色のポイズンサハギンの毒。人差し指をちょんとつけ、ゼラはペロリと舐めてみた。

 ――ゴクリ。
 高まる場の緊張感。
 果たして……。

「なんとも……ない!」
「「「「――――――――――!」」」」

 ――なんということだろうか。
 ゼラには確かに耐性がついている。

 次いでバルディ、ガウリ3兄弟、サザンカが試すも……変化なし。
 1人だけわけのわからないコブシも流れに身を任せてひと舐めするも……変化なし。

 ――検証結果。
 蛇酒を呑んだデイジーに毒づかれると、毒耐性が付く。

「んなアホな」

 ストーリーテラーだったはずのうさみは実は半信半疑だったので、ありえない検証結果に思わずツッコミを入れてしまう。

「私のことも毒づいてくださいますか?」

 意外にも申し出たのはローデだった。

「ええっ」

 そこは酔っていても怯むデイジー。さすがに、完璧主義のローデに毒づくことなど、誰ができようか。

 デイジーの酔いは、一瞬にして醒めてしまった。

「ローデさんに毒づけるわけありませんよ」
「そう……残念だわ。欲しかったのだけれど。毒耐性が」

 ローデは非常に残念がるが、その圧に後輩デイジーの冷や汗が止まらなくなってきた。

 ――まとめ。
 蛇酒を呑んだデイジーに毒づかれると毒耐性がつくので最強そうに見えるが、凛としたローデには誰も勝てない。

 そして。
 この場に居合わせたサハギンの王将は大いに勘違いをした。

「人間は……解せぬ」

 川下の町界隈のモンスターたちには、人間は奇怪であると噂が広まっていくのだった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

処理中です...