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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-25 探索魔法により感知! 川下の町に現れたモンスター
しおりを挟むフロアボスのヒナタは一角牛の焼肉でお腹いっぱいになりダンジョンを後にした。なんでも、一度アザレアに帰りたいそう。一同は、アザレアに帰れるのは何年後だろうか、なんて思ったりする。
アンスリウム山の内部ダンジョンを抜けると、そこに広がるのは彩色美しい魅惑草の平原だった。
「きれいだねぇ、ゼラお兄ちゃん」
蛇頭のメデューサに攫われてきた子の1人が言う。
「前は、ここに川上の街っていう街があったんだよ……」
「へえぇ、そうなんだ」
時の流れとともに、様相を変える世界。
まだ、この場所を見ると落ち着かないゼラだが、次第に慣れていくものだろうかと、そう思う。
「本当に綺麗ですね。カラカラ、サラサラと、音色まで綺麗で」
「本当だなぁ」
デイジーや、ガウリ。口に出さないがローデも目を奪われているようだった。
廃墟の街と呼ばれていた頃が嘘のよう。これも全部、ミミリのおかげだ。
「ありがとう、ミミリ」
「? 私はなにもしてないよ。魅惑草たちが、ここを選んだの」
「選んでくれて、ありがとうな」
ミミリは、ゼラの心の傷が少しでも癒えてくれれば、と思いながら景色を眺めた。
◆ ◆ ◇ ◇
「ここが教会だよ」
ゼラに案内されるがまま教会に着いた一行。
特にこれからここに住むことになる3人は緊張の色が隠せない。
「あっ! おかえりなさーい! シスター! 来たよ~!」
洗濯物を干す手を止め、手を振ったのはサラだった。駆け寄ってきて、子どもたちを迎え入れる。
「いらっしゃい、私はサラ。あと5人子どもたちがいるよ。その中にはデュランとトレニアも入っているけどね」
「そんなにいるの? うまく馴染めるかなぁ」
「大丈夫! ここはね、攫われてきたり、教会に捨てられてしまったり……そういった境遇の子の集まりなんだよ。みんな一緒なの。仲良くしてね」
「「「うん!」」」
サラに手を引かれ、教会に入っていく子どもたち。
デュランとトレニアも、一緒に教会へ戻っていく。
「また来てね、バルディお兄ちゃん」
「ま……っ……てる……ね」
「ああ、もちろん、いっぱい遊びにくるよ」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、送ってくれてありがと~!」
「おー!」
思ったより元気そうで安心するも、これで終わりではない。
「見つけなきゃな。あの子たちの家族。これからはそれが俺の仕事だ」
とバルディは言う。
「及ばずながら、ご助力いたしますよ」
とローデ。
蛇頭のメデューサの遺恨は各地に未だ波及している。これを正すには、相当な時間がかかるだろう。
「私たちも、手伝いますよ」
「もちろん、わたしもよん」
「ありがとう、みんな……」
ミミリとうさみに、感謝するゼラ。
「――うっ、うっ、うおおおおおおお!」
ガウルは我慢できなくて漢泣きしていた。
「我慢できねえ! 抱っこさせてくれうさみちゃん!」
「いやよヘンタイ!」
「――ヘン……」
今やトップアイドルのうさみからの手痛い言葉には胸を抉るものがある。
ガウルは瀕死寸前。立っているのが精一杯だ。
「みなさん、ようこそいらっしゃいました。あら、そちら様、お具合でも悪いんですか?」
あわやガウルが倒れるところで、やってきたシスター。このタイミングでの淑やかな心配は、かえって恥ずかしいガウルなのであった。
「3人、お預かりしますね」
「よろしくお願いします。頼ってすみません」
とバルディは言う。
「いいえ、こちらは今ミミリたちのおかげで生活が安定しているのですよ。大賢者の涙、でしたね、あのおかげでモンスターはこのあたりに来ませんし、専売特許のサハギンのご飯のお陰で潤っていますわ。
……それに、同じ境遇の子どもたち同士、癒せる傷もあるでしょう」
「それは俺が身を持って断言できます。そのとおりです、と」
デイジーは、ゼラの言葉が心に沁みた。身分証を作成する際、ミミリたちに隠すように提出に来たゼラ。もう、出身地など隠さずに打ち明けることができたのだなぁ、と安心する。
「――うおおおおおお! 泣けるぜゼラァ! もうゼラでいいっ! 抱っこさせてくれてええ」
「いっ、嫌ですよガウルさん! バルディさんなら「人情屋」同志で通ずるものがあるんじゃないですかっ⁉︎」
「ゼラ……」
冷ややかなバルディ。
「俺も嫌だ」
「――うおおおおおおお! なんでだぁぁ!」
ガウルの騒々しさに、子どもたちが集まってきた。筋骨隆々な身体をペタペタと触る子どもも現れる。
「筋肉~! すごーい」
「力持ちなの~?」
「またくまさんたちきた~!」
「おおおお、慰めてくれてありがとうなぁ。……ん? くまさん?」
熱い漢武器屋の職人ガウル。
子どもたちには人気のようだ。
居酒屋食堂ねこまるのガウリはガウルに比べたら大人しく歳上らしさが垣間見える。
「まったくうるせぇ兄貴たちだ。というか主にガウルか」
奥からやってきたのは、双子の弟のガウレとガウディ。並んでみると壮観だ。少し違いがあるくらいで、ガウディ以外は見分けがつかない。筋骨隆々な三兄弟と、線が細いガウディ。もう、ガウディ以外誰が誰かわからなかった。
「ところで今日は泊まって行かれますの?」
「いえ、このまま川下の町を目指そうと思います。出来上がってるサハギンのご飯があれば預かりますよ」
「ではこちらを。お願いしますね」
「代金は後でサザンカさんに届けてもらいますね、シスター」
「ま、まぁ。なんだか気恥ずかしいわ」
心身ともに麗しいシスター。
恥じらい方もお上品だった。
「俺も行くぜ、一緒に船を見てほしいからな。教会の方はガウディだけであとはなんとかなるさ」
ということで、川下の町には、居酒屋食堂ねこまるガウリ、武器屋虎の威ガウル、大工兼冒険者ガウレが行くことになった。
そっくりな3人が町へ行くとなると、住民たちが騒然としそうだがそれもまた楽しみだ。
◇ ◇ ◆ ◆
「大変! 川下の町、探索魔法により感知! 色はパープル。ピギーウルフ並ね。1体よ!」
うさみは言ってゼラの方に跳び乗った。
「大変! 急ごう!」
今やサハギンや人魚とも同盟が組まれ、二者とは争う必要がない中、新たなモンスターとは。
非戦闘員のガウリ、ガウルとローデを中間に挟み、殿は目のいいバルディとガウレが務める。
前衛はゼラ、うさみ。次いでミミリ、デイジーだ。
「わわわわ私も、お酒を呑めば戦えますからね!」
デイジーは震えながらもC級冒険者の意地を見せようと試みる。
「デイジーさんが闘うところを見たいですけれど、ちょっとドキドキしますね、色んな意味で」
「ミミリちゃん、それ、どういう意味……」
と言いかけたところで、前衛兼斥候のゼラが右手を広げてパーティーを静止させる。
そして無防備にも振り返った。
探索魔法、パープル。
ピギーウルフ並のモンスター。
やらなければ、町が危ない。
先手を打たなければならない場面での、意外な静止の合図。
――そこにいたのは、さっき別れたはずの、フロアボスだったのだ。
「ご飯を……ください……。暴徒化しそうです」
サザンカたちはヒナタの言う意味がわからず手をこまねていているところだった。サザンカだけではない。本物のモンスターの、サハギンの王将もだ。
「かなりの手練れ。多分闘ったら俺はやられてしまうだろう。だが、闘いもせずに乞食するとは、人間なのに意味がわからん」
サハギンすらも唸らせるヒナタ。
「ヒナタさん、テールワットのミートパイがあるんですが食べますか?」
「ご相伴に預かります~」
「爆発しませんから安心してくださいね」
「「「「「え?」」」」」
ゼラたちを除く誰もが耳を疑った。ローデまでも。爆発するミートパイとは、一体……。
とにもかくにも、一行は無事に川下の町までたどり着いた。
そしてわかったことは、最強のヒナタを黙らせられるミミリはやっぱり最強だということだ。
「さ、ミートパイ、召し上がれ」
ひとしきり食べたヒナタは、またアザレアを目指して1人旅立って行った。今度はどこで会えるだろうか。
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