見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

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第6章 川下の町と虹色の人魚

6-21 船を直そう!

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 海底宮殿での会合を終え、無事に川下の町に帰ってきたミミリたち。

 今後は会合で決めたそれぞれの任務を全うしていく必要がある。
 サザンカは早速、町民に話して納得を得た。町民からすれば、不要の木のパトロールは今までどおりで変わらないし、サハギンのご飯の買い上げの件もそれで町の平和が保たれるなら願ってもないことだと納得してくれた。


「さぁ、船を見せてやろう。と言っても、全く使われていない船なんだ。サハギンの件もあって、町の界隈で漁をするばかりだったからな……」

 サザンカに案内された海岸沿い。
 砂浜の上にずっしりと構える大きな船。船乗りが漁に使う船とは違い、本格的な航海をするための大きさの船だった。もしかしたら、昔は海を越えた国と国交があったのかもしれない。

「やることは教会の立て直しの時と一緒だな。木材の調達が必要になる。私は修繕を手伝ってくれる町民を探すから木は頼んだぞ」

 ◆ ◆ ◇

 ということで、再び場面は森の中。
 森で木を刈る前に、教会の立て直しで余った木材がないか聞いてみることにした。それに、バルディたちにも、会合の成果を伝えなければならない。

「ただいまです~」
「ただいまー」

「おっ、おかえり! 心配してたけれど、さすがだな! 無事に帰ってきたんだな」
「コブシは、大工姿がとってもしっくりきてるじゃない」
「だろ? まぁ、師匠がいいからな」

 師匠のガウレは嬉しそうに胸を張る。

「あれ? バルディは?」
「デュランとトレニアの護衛だとさ」 

「もうほぼ教会は完成だ。そっちはどうだったんだ?」

 ガウレは教会を見ながら誇らしげに言う。

「提案のとおり、うまくいきました!」
「さすが、絶対神……」

 ガウディのミミリへの崇拝がなかなかに加速しているが、そこはえて触れずに本題に入る。

「余った木材、あったりしませんか? 実は……」

 ミミリは、船を作り海を越えていくことを説明した。

「ちょうどよかったな。余りがあるぜ。どれ、今度は船作りに協力してやるか」
「いいんですか?」
「当然だ。いろいろ、世話になっているからな」
「ありがとうございます!」

 ◇

「おーい! 不要の実とテールワットだぞ~」

 旅立とうとしたところで、川下の町の船乗りが戦利品を持ってやってきた。
 早速教会から出てきたのはサラだ。

「ありがとうございます。あとこれ、完成品のほうです」
「お、3袋か。じゃあ3000エニーだな」
「ありがとうございます!」

 立ち上がりも上々なようで、さっそくサハギン用のご飯の買い上げもうまくいっている。テールワットの可食部は干し肉にして無駄もなく、これが定着すれば、教会も安定した暮らしが送れるだろう。

「ミミリ、うさみ、ゼラ、おかえりなさい」
「シスター!」

 教会から出てきたシスターも、いつもより一層穏やかそうな顔をしている。今までは経費を切り詰めてなんとか自転車操業していたが、それをすることもなくなったのだ。

 それに……。

「シスター、幸せそうですね」
「えっ! そうかしら……」

 シスターは照れて肩頬に手を当てる。公の場でのサザンカとの交際宣言。あれには驚いたが、シスターは一体サザンカのどこがよかったのだろうか。
 これを今聞くのは野暮というもの。今度催す焼肉パーティーのメインディッシュとしてとっておかねばならない。

 ◇

 教会を後にして、ガウレ、ガウディを連れて町へ戻ると、これから修繕しようと思っていた船の周りがざわついていた。

「どうしたんですか?」

 答えたのはサザンカだ。

「大昔から動かしていないが、材料さえあれば直せることは直せる。ただ、帆船のようだが帆布が破れているんだ。木材船自体の修繕はできるが、布は用意できそうにない。あと……舵輪だりんの中央に見たこともない水晶がある」
「布は、【ルフォニアの布】を作れるのでなんとかなります。でも、水晶?」
「見せてやろう」

 ◇ ◇ ◇

「これは……」

 舵輪だりんの中央に、見覚えのある丸い水晶が埋め込まれている。それはまるで、瞑想の湖の結晶のようなものだった。
 
 ――なんだか、不思議……。

 ミミリは、不思議な感覚に陥っていた。帆船に見覚えはないが、知っていそうな……。懐かしい友人に会った、そんなような感覚がある。

 ミミリは水のように揺蕩う水色の水晶に手を伸ばしてみる……そして吸い込まれるように、魔力MPを流してみた。

 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

 突然、足場が揺れる。
 帆船だというのに、船は宙に浮かび上がった。

「きゃあっ! どういうこと」
「これ、ミミリの力で動かしているんだよな、多分」
「ま、魔力が吸われていくの! でも、しずく草を扱うようにゆっくりと扱えば……」

 魔力操作に気をつけながらそっと手を離すと、不思議と船は元の位置に戻った。

「魔力船ですね」
「ガウディさん、知ってるんですか?」
「書物で読んだことがあります。魔法使いや、錬金術士など、限られた者だけが操縦できる船があると。……実在したんだ……! しかもこんな場所で、廃船のように……!」

 それを聞いて、サザンカが言う。

「サハギンやらポイズンサハギンの襲撃などもあって、漁は縮小していたんだ。大昔は、大航海時代もあったと聞くが。おそらく、その頃のものだと思う。少なくとも、俺が物心ついた時から一度も動かしてはいない」
「私は運がいいですね。ミミリさんのおかげで、錬金術士も、魔力船も目の当たりにすることができて……」

 ガウディの目は、若干潤んでいた。

「そんな、たまたまですよ」

「たまたま……なのかしら……」

 うさみは言う。

「全て私たちの思うがままに進んできたわ。だけれど、導かれている気もする。そんな感じもなきにしもあらずなのよね」

 ミミリは、うさみの言葉でクスリと笑う。

「でもそれだと、くまゴロー先生のお導きっていうか、忖度だね」
「そ、そうね」

 うさみは顔を真っ赤に染め上げ、可愛らしい乙女のようだ。

 その姿を見て何人かは(もちろんゼラを筆頭に)、――鬼神もぬいぐるみらしい一面を持ち合わせていたのか、と無意識に思った。 


「私は、【ルフォニアの布】を工房で作ります」
「うさみとゼラくんはどうする?」

「俺は冷やかしに行ってこようかな。デュランとトレニアのバイト先――元俺のバイト先でもある、パンケーキ屋さんへ」
「私も行くわ」

 ◇

「お疲れさまです、バルディさん」

 パンケーキ屋さんから少し離れた木の木陰に立っていたのは、バルディだった。バルディは離れた位置から、可愛い弟妹の働く姿を護衛がてら目に焼き付けていた。
 デュランはキッチンを担当し、トレニアは接客を担当するという。

「すごいですね、でも、トレニアは……」
「見てくれよ。頑張っているんだ」

 メイド服姿のトレニア。
 黒のふわりとした裾の短いワンピースに、黒い飾り花がついたカチューシャを身につけたトレニア。とても可愛らしい装いだ。
 トレイにはパンケーキとドリンクを乗せている。

「お待たせ……いたし……ました。ごゆっくり……お召し……上がりください」

 たどたどしいながらも、失語症は徐々に良くなっているようだ。というよりかは、治せるように、自ら一歩踏み出してるのかもしれない。

「幸せね。バルディ」
「あぁ。ゼラたちのおかげだよ」
「トレニアの頑張りですよ」
「そうだな……」

 「人情屋」でなくても、これは泣ける。
 うさみは、バルディにそっとハンカチを差し出すのだった。

「ありがとう、うさみ」

 バルディにニコリと微笑んで、うさみは気がついてしまったことをゼラに告げる。

「ねぇ、ゼラ?」
「ん?」
「ゆったりしてるけど、あっちはいいの?」
「え?」

 うさみが指し示す方を見れば、ミミリがタライに水を張ってルフォニアの綿花を洗っていた。
 ――それも、複数人の男の子に手伝ってもらいながら。

「ミミリちゃん、これ、よーく洗えばいいの?」
「そうなんです! 不純物を取り除くためによく洗わなきゃいけなくて……。でもいいんですか? 手伝ってもらっちゃって」
「いいんだよ! 今度また釣り一緒にしようぜ」
「楽しみです」

 ――ズザザザザッ!
「ちょおっと待ったぁ! 俺もやる」
「ゼラくん、パンケーキ屋さんはいいの?」
「いいんだ。しっかり見てきたから」

 サザンカとシスターといい、ゼラといい。

喧騒けんそうが落ち着いた、幸せな証拠ね」
「まったくだな」

 バルディは頭の後ろで両腕を組んで、木にもたれかかってため息をついた。



 ――俺もそのうち……。もう、いいかげんにしないとな……。


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