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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-16 招待状と森林火災
しおりを挟む「この度会合が開かれることになったわ。場所は人魚の宮殿で。もちろん、来てくれるわよね?」
と言いながら、招待状を渡すディーテ。
招待されたのは、見習い錬金術士一行のミミリ、うさみ、ゼラ。そして川下の町の町長サザンカだった。
『招待状
見習い錬金術式ミミリ御一行 殿
当宮殿で開かれる代表者会議に、錬金術士代表としてパーティーメンバーともども出席されたし。
なお、当宮殿内は酸素呼吸可能であるためご心配なきよう。
他、何か不明な点があったら人魚姫ディーテに確認されたし。
また、今回招待しているのは、川下の町の町長サザンカ殿、サハギン王将殿、こちら側の出席は海竜と人魚姫のディーテである。
本会議においては、決して武力に訴えることなく、互いに平静に話し合いができることを願っている。
――海竜――』
「招待状、初めてもらったんですけれど、私が行っていいんですか?」
「もちろん! 今回の功労者だし、それに錬金術士でもあるからね」
――ガタガタガタガタ……
招待状を見て、震えが止まらないうさみ。
ミミリの胸にピョンと飛び乗った。
「どうしたの? うさみ」
「いいいいいいいざ、海の中に入ると思うと緊張しちゃって、濡れたらどうしようとか、そういうのよ……。あの……そもそも私……、水嫌いじゃない? 泳いだことないのよね」
「大きなビニール袋に入ったらどうだ? そのうえで、守護神の庇護をかける、と」
ゼラの提案も耳に入ってこないうさみ。
「あっ!」
「えっ?」
そういえば、と、ミミリもなにやら思い出した。
「あっ! 私もないや! 泳いだことない」
ミミリもつられて、ガタガタ震えだした。
「溺れたらどうしよう……」
「それは心配しないで! 宮殿までの間の酸素さえなんとかしてもらえれば、送迎はこちらでするから」
「……送迎?」
「そう」
ディーテは人魚姫らしく堂々と微笑んだ。
「イルカくんたちに頼んで送迎してもらうわ。そこまで深い場所に宮殿があるわけでもないから圧力も大丈夫」
「わぁっ! イルカに乗れるんですね!」
「そうよ。他にもサメや電気ウナギとか、人に害をなす子たちもいるんだけどね。私と一緒なら悪さしないから。海の中ってとっても綺麗よ。煌びやかな海の世界も楽しんで」
「もももももももし、イルカさんごと守護神の庇護かけてだめそうになったら絶対助けてね、ディーテ」
「ふふ。大丈夫よ、うさみ。海の中でなら守ってあげられる。だって私は人魚姫ですもの」
「「素敵~!」」 「すて……き……」
サラやユウリ、トレニアまで目を輝かせている。女の子ならば、一度は憧れる人魚姫の世界。見られたらどんなに綺麗なことか、ついつい想像してしまう。
「ごめんなさいね、小さなレディーたち。平和的な会合にならなかったら戦闘になるかもしれないから。連れていけないわ」
「「はーい」」
「乱闘になる可能性があるんですか?」
「五分五分ね」
「結構な確率ね……」
「ミミリがいろいろ提案してくれたけれど、それを相手方が飲んでくれるか、というのが読めないのよね。持ちつ持たれつに同意できず、一方的な搾取を提案してくるかもしれないわ」
それに……、とディーテは言葉を続ける。
「招待状以外の護衛も何人か来るでしょう。まさか王将が敵陣に1人で来るとは思えないもの」
「連れてくてくるなら、手練れでしょうね」
「そうなのよ……」
真剣な話をしていると、なにやら小屋の中から異臭がし始めた。
犯人は、みんなに背を向けて一生懸命練金釜と向き合っている。
「あのー、ミミリ? なにやってるの?」
「ん? 錬成だよ! 爆弾作ろうと思って」
「「「「「ひー!」」」」」
一同はミミリから距離をとった。
先程まで話に参加していたはずが、いきなり錬成を始めていたなんて。
――だがしかし、ミミリを「絶対神」と崇めるガウディだけは側を離れず錬成に見入っていた。
「どんなレシピなのですか?」
「えっとですね、メシュメルの実よりも不要の実の殻のほうが固いので、もっと威力が増すかな~と思って。こんな感じです!」
【不要の爆弾 火力(???)】
・不要の実の殻 ×5
・火薬草 ×5
・小麦粉 ×1
・【ミール液】 ×1
【弾けたがりの爆弾】よりは火力が上がるだろうけれど、試し投げしてみないとわからないなぁ……、などと言いながら、ミミリはゼラをチラッと見た。
「えっ⁉︎ 俺? 俺に投げるの?」
「ち、違うよゼラくん! たまたま見ちゃっただけで、ちょっと試し投げについてきて欲しいなって思っただけだよ~」
「――マジで俺に投げるのかと思った」
「――ミミリならえーいっ! って突然投げそうだものね」
「もー! ゼラくんもうさみもひどーい!」
話に割って入ったのは、意外にもジンとシン、デュランだった。
「試し投げするなら、僕たちがついていくよ!」
「ゼラお兄ちゃんより頼りになるかもしれないよ!」
「テールワットくらいなら僕でも狩れる」
うさみは、このやりとりを見てニタリと笑う。
――ゼラ、ライバルがいっぱいで大変ね。
うさみの視線を感じながらも、ゼラもすかさず発言する。
「いや、大丈夫、俺が行くよ。みんなは教会の立て直しっていう任務があるだろ。俺も斧の練習したいし……」
と言うものの、内心ヒヤヒヤのゼラ。
それはもちろん、二つの意味で。
ミミリがやはり人気があること……これが1つ目。もう1つは、あの爆弾がなんだか嫌な予感がしてならないことだ。
練金釜の近くに行って覗くと、突けば弾けそうな見た目をしている。うちに秘めた火力の凄まじさを、実験台になってきたゼラは嗅ぎ取ってしまうのだ。
「あのさミミリ、これ、どこに向かって投げるつもり?」
「んー。森のなるべく開けたところがいいなって思うんだけど、もし森林火災になると大変だからゼラくんの斧で凍らせてほしくて」
「待った待った! そんな火力をイメージしてるわけ? 私もいくわよ!」
うさみは慌てて名乗りを上げた。
これから大事な会合だというのに、森林を燃やし尽くした者として名を馳せるわけにはいかない。
「あの魔法……使う時がくるかもしれないわね……」
うさみはボソリと呟いた。
◆ ◆ ◆
場所は川上の街と川下の町のちょうど中間くらいの開けた地。うさみの探索魔法にも、モンスターの影はなし。絶好の環境といえば環境だが……。ゼラもうさみも、嫌な予感が拭い切れない。
「じゃあっ、いっくよー! えーい!」
――ボテッ
「あれ? 不発?」
爆弾は地面に落ちたが、弾けることなく落ちたまま……とも思いきや……!
燃えるマグマのような亀裂が入り、
――ドオオオオオオオオオオオオン!
と爆発しただけでなく、不要の実の固い殻が四方八方に飛び散った。飛び散ったところから火の手が上がり、あわや本当に森林火災が起きそうである。
「――守護神の庇護!」
「――霜柱ァ!」
ゼラの斧の力でもまだ火の手は収まらない。
うさみは大きく右手を上げて……
「――水神の恵み!」
とすかさず呪文を唱え、局地的に雨を降らせた。
――ジュウゥゥ……と音を立てて灰色の煙が辺り一面に立ち昇る。
「はぁ……呪文、練習しといてよかったわ……」
辺り一面、漸く鎮火できたのはよかったものの……最悪なことが1つだけ。いや、最悪ではない。最恐若しくは最凶か……。
ゼラは思った。
――これは――やばい、と。
「ごめ、ごめ、ごめんなさああああい。
ーーひっ!」
ミミリはすかさずゼラの後ろに隠れた。
――鬼神が――
うさぎの皮を被った鬼神が――
びしょ濡れになっている……!
「ミミリ~‼︎」
「ご、ごめんなさあああぁぁい」
◆ ◇ ◇
結局、けたたましい爆発音は教会まで響き渡り、行かなくて良かった……と思う男子が3人。
「ミミリちゃんって」
「爆弾娘だな」
「うん」
図らずも、ゼラのライバルは減った。
――しかし、ガウディの絶対神ミミリへの信仰心は極限まで増したのだった。
「ミミリ……様……!」
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