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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-14 テールワット大量発生!
しおりを挟む「ミミリさーん!」
それぞれの作業が順調に進む中、川下の町の船乗りと思わしき人が大手を振って走ってきた。
「だっ大丈夫ですか?」
サラは急いでコップ一杯の水を差し出した。
「ありがとうお嬢ちゃん」
「なにがあったんですか?」
「パトロールしていたら、異常に成長の早い『不要の木』があって、テールワットが実を食いに集まってやがる! 手を貸してくれ! サザンカさんからの要請だ」
「テールワットってあれよね? ちゅー! みたいな」
うさみはネズミの真似をしながら言う。
「小型のネズミのようなモンスターだ。赤い瞳に、鋭い牙と鋭い鉤爪がある」
「はいっ!私たちも行きます!」
ミミリ、うさみ、ゼラ、バルディが声を上げる。
モンスターが忌避する小屋を出してあるとはいえ、油断は禁物だ。コブシ、ガウリ、ガウディ、他の子どもたちは小屋の中で待機することにした。
「ゼラお兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、必ず帰ってくるから心配無用だよ」
ユウリの頭を撫でて、ニッコリ微笑むゼラ。
その笑顔が、半信半疑な男が1人。
先程の船乗りだ。
「君たちは、ポイズンサハギンの時に活躍してくれたと聞いたけど、俺はたまたまその日いなくてね。本当に頼んでいいのかい? その……まだ子どもなのに」
「「大丈夫です」」
「大船に乗った気でいていいわよーん」
「わっ! ぬいぐるみが喋った!」
「んまっ! 失礼ねえ。プリティラビットは喋るのよ」
少しプリッと怒ってしまったうさみ。やはりフォローするのはミミリだ。
「大丈夫ですよ! 私たち見習い錬金術士と見習い冒険者、それにうさみは魔法使いです。B級冒険者ですよ」
「………………すご……すぎる。変なこと言って悪かったな。あまりに可愛いぬいぐるみが喋るもんだから」
「いいのよん。うふふ」
可愛いと言われて、すっかりご機嫌二重丸のうさみ。しっぽはふわりんふわりんと震えだした。
「さぁ、現場に行きましょう!」
◆ ◆ ◆ ◆
「こ、この木、モンスターなの?」
川下の町へと続く行きがけの道の、少し外れた脇道。
3メートル強はあろうかという木が枝をブルン、バチン、と我が手のように振るう様は、どうみても意志のあるモンスターにしか見えない。木が枝をばちんばちんと動かすたびに、枝に成る不要の実が鈴なりに揺れ、実は地面に落ちてゆく。
それを繰り返すたびに、落ちた実にテールワットが集まって来て、最悪なことにテールワットを狙いにポイズンサハギンまでもが集まりだしていた。
テールワットは人も襲ううえ、気をつけねばピギーウルフのように命を狙ってくる危険な小動物だ。
そのテールワットの大好物なのがこの不要の木の実。
しょっちゅう狙ってやってくるため、定期的に木を伐採しながらパトロールするのが川下の町の日課なのだが、木が異常な速さで成長していたため、見逃していたようだ。
そして、テールワットを食べようとポイズンサハギンまでが群がっている。毒を持っているからタチが悪い。現場は大混乱だ。
「来てくれたか!」
サザンカの声がする。
乱戦状態にあっても、一際良い動きをするのでどこにいるのか一目でわかった。
「俺たちがテールワットとポイズンサハギンを対処するから、君らは不要の木を伐採してくれ」
「「「了解」」」
「ミミリちゃん。俺はポイズンサハギンに専念するよ。俺の武器とじゃ相性が悪い」
「わかりました!」
バルディと一旦別れ、荒れ狂う木に専念するミミリたち。
ブルンブルンと枝葉を振り回し、全長で言えば何メートルになるのだろうか。
「ゼラくん、この木のこと知ってた?」
「ああ、有名な木だけど、パトロールから見逃されてここまで成長したのなんて見たことないよ」
ミミリたちは、どう戦おうか思案する。
「爆発……ならできるけど」
「やめよう、人を巻き込む」
「それじゃ、正攻法でいきますか! でも、自分自身の蔦で大人しくしてくれるかわからないけどね」
うさみは右手を木に向かって振り下ろし……
「――しがらみの楔!」
と唱えた。
すると不要の木の樹皮を突き破り、緑色の蔦が自身の枝葉を拘束する……が、力が強くブチブチブチと切られていく。
「まだまだいけるわよ! 周りの木も使って……! ……しがらみの呪縛!」
周りの木々から何本もの茨がある蔦が不要の木にまとわりつく。
ギシギシ……と嫌な音はしているが多勢に無勢。漸く近づけるまでに落ち着いた。
「じゃあ、俺たちの番だな! 【ナイフ】!」
……仕方ねえなぁ。紅のほう、持ってきなァ。
「サンキュ!」
ゼラは【ナイフ】――【マジックバッグ】に手を突っ込む。握るだけで、火傷しそうなほどに柄が熱い。――でも、ゼラは柄をさらにギュッと握る。
「ぐうっ……! ――紅柱ァ!」
――斧の勢いと炎を纏った火力でザンッと不要の木は切られた。
――ズウウウゥンと大きな音ともに、周りの葉と擦れ合いながら大仰に不要の木は倒れる。
「あっ! やべ!」
切った部分から、早速発火し始めている。この分だと、森林火災を招きかねない。
「私の出番だね! そーれっ! バケツリレーだよ!」
ミミリは【マジックバッグ】の中から、バケツに入った水を出し、ゼラに渡しては一緒にやって来た船乗りへと託され、せっせと鎮火に励む。
「私も手伝うわ! ――水神の恵み」
うさみが呪文を唱えると、局地的に雨が降り注いだ。うさみの補助もあり、なんとか鎮火に成功した。
周りのテールワット、ポイズンサハギンも掃討され、無事に今回の騒ぎは収束したのだった。
「すごいな……相変わらず」
バルディは半ば呆れ顔でミミリたちを称賛したが、川下の町の住民は呆気にとられてなにも喋ることができなかった。
――たった1人を、除いては。
「なんて興味深いんだ……。素晴らしい」
サザンカは、その場に立ちすくんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「さぁ、どうしましょう、サザンカさん。この大量の実と、テールワット、ポイズンサハギンは……」
「そうだな。テールワットは食用にもなるが、この量だと鮮度を保てず腐ってしまいそうだ。それに、新たなポイズンサハギンを招いてしまう」
腕を組み思案するサザンカ。
その悩みを、ミミリは見逃さなかった。
「もしよければ、貰えませんか? 不要の実と不要な分のテールワット」
「それは願ってもない提案だが、不要の実はとてもじゃないが食べられない。煮ても焼いても炒めても……とても食べられないぞ」
「いいんです!」
ミミリの【白猫のセットアップワンピース】はピーンと伸びる。
「今回のように、ポイズンサハギンは不要の実と、テールワットを食べたくて集まってきたんじゃないかって思うんです。あ、先日の件のことですが」
「どうしてだ?」
「ポイズンサハギンは鼻がいいのかも。先日のポイズンサハギンの掃討戦は、たまたま見逃されていた成長中の不要の木と、群がりつつあるテールワットに気がついたのかも」
ミミリは、倒れたポイズンサハギンを見ながら、腕組をして、自信たっぷりにコクンと頷く。
「だって、これだけ1箇所に集まるんですもの。関連性がないとは思えません。――例えば……人魚さんは海藻を食べますよね? でもポイズンサハギンは肉食。人魚さんたちとの境界線を超えたのも、陸に上がったのも……食用難なのかも」
「一理あるわね……」
と、うさみは頷く。
「偶然的に大量発生の時期が被るなんて、起こり得ない事象だと思えるわ。これは必然だったのよ。
それにミミリ……もしかしていい錬成アイテムを思いついて『ください』って言っているんでしょう?」
ミミリはびっくりした顔をしてうさみを抱きしめた。
「さすがうさみ! 私のことわかってる」
「だって大好きだもの」
ぎゅうううううう~!
抱きつき合うミミリたちの輪に入りたがりそうなゼラがうずうずとしていることに気が付いたバルディは、そっとゼラの背中を押してやろうと思ったが、鬼畜に何かされようと思って何もできなかった。
――すまん! ゼラ! 後で俺が抱きしめてやるからな……!
と、バルディは申し訳なさそうに熱い視線をゼラに送った。
「うう……さむっ」
なぜかゼラは突如悪寒がした。
客観的に見ていた【ナイフ】は、ゼラの脳内でケタケタと笑っている。
「なんだよ、【ナイフ】」
……なんでもないサァ。あひゃひゃひゃ。
「それでミミリ、作戦名は?」
ミミリはゼラの質問に両手を上げてにこやかに答えた。
「名付けて『お腹一杯もう食べられない! 全員ハッピー!』だよ!」
――ミミリのネーミングセンスに、一同沈黙。
前々からネーミングセンスにもともと長けていた(?)うさみとゼラは賞賛の嵐だった。
「さすがミミリ!」
「いやぁ、素晴らしすぎて腰抜かすかと思ったよ」
――――――――――一同、更に沈黙。
もし今ここに審判の関所のピロンがいたら、「ピーッピッピ」と笑っていたに違いない。
だがしかし、もう1人。
「非の打ち所がないネーミングだ」
と、褒め称えるサザンカ。
サザンカはどうやら、こちら側の人だった。
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