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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-10 酸素山菜ボンベの錬成
しおりを挟む「うう~ん、うう~ん」
もう心の中だけではなく、声に出して腕を組み唸ってしまっているミミリ。その横で同じく唸るガウディ。笑
実は、ガウディの熱意に負けて川下の町に設置してきたミミリの錬成工房ではなく、協会の敷地内に練金釜を置いて新アイテムを錬成しているところ。
ガウディは、設計士としてガウリの仕事をサポートしなければならないため、教会から移動できないが、どうしても錬成が見たい! ということでミミリが折れた格好になった。
でも、ミミリはそれが原因で悩んでいるわけではない。もともと、加工しなければ1分しか持たない酸素山菜の酸素供給をせめて1時間持たせるにはどうしたらいいのか考えているところなのだ。
「うーん、酸素山菜を捌くと、中に小さな粒々の酸素の実が入ってるんですね。でも、それを寄せ集めただけでは、ただ容量を大きくするだけなので、海中での動きに支障が出ると思うんです」
「なるほど、ただモノを大きくすればいいと思ったが、海中で戦闘になる場合も想定しなければならないということか……。そうすると、可動域にも支障が出てうまくない、と……」
「そうなんですよ」
ミミリがガウディとともに練金釜の前でうーんと悩んでいるうちに、デュランとトレニアは川下の町へパンケーキ屋さんのバイトに行った。そしてバルデは護衛として付き添いに。
サラとユウリはシスターと一緒に洗濯や炊事を。
ゼラとジン、シン、サザンカはガウレの建築に付き合っていた。
そんな様子を、尾びれを乾かし二本足になったディーテは、自分になにかできないことはないかを考えている。横にはマスコットと化した、うさみを添えて。
一応、海の王、海竜の娘であり、人魚姫のという身分のディーテ。身の回りのことは実は侍女がやっているため、自発的に動いた……というか釣られたのは今回が初めてだったのだ。
「私にもなにかできないかしら」
「本来は二本足でないんですもの。動きづらいのはみんなわかってるわよ。それより、海の中に入ったらサポートお願いね! 特に私。私ってぬいぐるみなんだけど、濡れるのが大の苦手なのよ」
「一応、身を守る魔法はあるんでしょう?」
「あるけれど、海の中で使ったことはないから不安だわ」
「そう……それは心配ね……」
ディーテは考えた。
せめて、私にできること。役立つアイテム……。
「そうだわ! 泣けばいいのよ」
「泣く?」
「『人魚姫の涙』といってね。人間たちの童話にもなっているはずよ」
「童話って……ディーテ貴方何歳なの?」
「人魚はエルフと同じで年をとるのがゆっくりだから、今は150歳くらいね。……そうだわ! なんで忘れていたのかしら。昔、ミミリと同じような錬金術士に会ったことがあるわ。たしか……スズ……うーん……」
「スズツリー=ソウタ⁉︎」
「そう! よく知ってるわね!」
「「ええっ⁉︎」」
さすがにその単語には、ミミリもゼラも耳聡くなってしまう。喉から手が出るほど欲しい、スズツリー=ソウタの情報。それがこんなところで、ディーテから聞くことができるとは。
そう思うと、やはり名声を上げることに意味はあったんだな、とミミリは思う。冒険者として、錬金術士として、有名になったからこそ、今ここにいるのだから。
「スズツリー=ソウタさんはなにをしに海底に⁉︎ その時どんな錬成アイテムを使っていましたか?」
「ええと……そうね……。見た目は酸素山菜のまんまのようだった気がするわ。中で何か加工していたのかもしれないわね。スズツリー=ソウタは、海底にいる私に会いに来たのよ」
「ディーテに会いに⁉︎」
「そう。『人魚姫の涙』を求めてね」
ミミリたちは、顔を見合わせる。
スズツリー=ソウタが求めた、ということは、【アンティーク・オイル】の錬成アイテムである可能性も否定できないからだ。
「それでディーテ、酸素山菜を完成させるために『泣けばいい』っていうのはどういうこと?」
「それは……」
ディーテが言おうと思ったところ、サラが一冊の絵本を持ってきた。『人魚姫の涙』という絵本だ。
この絵本に、その秘密が隠されているに違いない。
ミミリはサラに、絵本を読んでもらうようお願いした。
サラは恥ずかしがりながらも、絵本の朗読を始める。
――『人魚姫の涙』、はじまり、はじまり……。
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