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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-9 教会のピンチ
しおりを挟む「コブシさん、拳闘士の力で引き付けながら戦うことってできませんか? 俺は支援職なんで」
「無茶言うぜ。まぁ、やるっきゃないがな。うおおおおおおおおお!」
戦闘が始まった。
先手を打ったのはピギーウルフ。敵対心を集めたコブシに2体とも襲いかかってくる。
「さすがに……一角牛より早えな」
1体を避けざまにボディーブロー。相手のスピードが早すぎて、炎の力を少しだけ宿すことのできるヒートナックルを放つことができない。
ボディーブローを放たれたピギーウルフへ、バルディはすかさず一矢放つも脇腹をかすめただけで致命傷には至らない。
それを見たもう1体のピギーウルフは一旦間を取った。
ここで、ガウレが斧を持って戦闘に介入する。ガウレの職は、大工兼斧使い。ただ、ゼラが持つ蒼や紅の刃広斧と違って特殊効果はなく、自慢の筋力で攻めるパワータイプ。ピギーウルフ戦には分が悪い。
ガウディは、シスターたちの盾になっていた。当然、本物の盾は持っていない。身を挺す、という意味の盾だ。ガウディは、戦略家。知力が買われC級冒険者となっているのであって、戦闘職ではない。冒険者は、ガウディのようにいろいろな能力が買われて職に就くことができるのだ。
――そう。酒を呑んだ時にだけ力を発揮する酒拳闘士のデイジーのように。
「ガウディ、見立ては?」
ガウレが聞く。
「もって3分。俺は盾になる」
「こりゃあ、ちと……」
そんな中、バルディは諦めていなかった。背中には、守らねばならない愛しい弟妹がいる。自分が屈すれば、2人を含む全員が喰われてしまうのだ。
「俺も、盾でいい。――行けっ!」
――シュッ!
間合いをとってジリジリと様子を伺っているピギーウルフに【水魚の矢】を放った。
普通の矢よりも、スピードがあり、水属性を纏っているだけ威力もある。
――しかし、スピードはピギーウルフが上。サッと避けられ、後脚をかすめるだけに至った。
「もう一度だ……!」
「よせバルディ! お前に敵対心が向く!」
射られたピギーウルフは、バルディに向かう。間に割って入ったのはガウレだった。斧を盾がわりにして、首に食いつこうとした牙を捉える。
「ぐぅ……。もって3分。お前の意見は正しいよ……!」
ここでガウディは違和感を覚える。
明らかにピギーウルフよりも格下の自分達。
越えていこうと思えば、ピギーウルフはコブシもバルディもガウレも赤子の手をひねるようにして越えていけるに違いない。だが、一向に教会の中に入ってこようとしない。
ガウディはここで、ピン、と気がつく。
「シスター、ここに結界が張ってある可能性は?」
「いいえ、残念ながら。私の結界はピギーウルフを排せるほどの威力はありません」
「じゃあ、なんなんだ……?」
「――剣聖の逆鱗!」
うさみの声とともに、疾風のようにゼラが現れた。
ゼラはガウレに斧で抑えられているピギーウルフの背後から、【水魚の短剣】で一突きする。
「ガウレさん!」
「おうっ!」
ガウレが斧で一薙すると、ピギーウルフは真横へ飛んでいった。そこをバルディが、すかさず射って仕留める。
ガウレにその場を託し、避けつ避けられつつしているコブシの援護に向かう。
コブシとゼラの挟み撃ちだ。
コブシが避けてボディーブローを食らわそうも、耐久力が高いためか足を踏ん張り再び攻めるピギーウルフ。そこをゼラが横から、【水魚の短剣~雷ver.】で切り伏せた。
「ギャウウウウウ」
水属性と雷属性のコンボはピギーウルフの耐久力を凌駕する。一瞬にして、ピギーウルフはその場へ倒れ、戦闘は無事に終了した。
「はぁっ、はぁっ、みんなすごいですね」
うさみを肩に乗せ、遅れてミミリとサザンカがやってくる。一応、ミミリの護衛としてサザンカが付き添っていたのだ。
「みんなすごいねと言うが、ミミリが一番すごいと思うぞ。全部の木材を持ってきたんだからな」
「そうよミミリ。MVPよ! 教会へ小屋を出して行ったこともね」
「あ、役立ってくれたみたいでよかった。教会に入ってこなかったですよね? ピギーウルフ」
ここでガウディの謎は漸く解ける。
「もしかして、小屋に何か魔物除けの成分が含まれているのですか?」
「そうなんです。大賢者の涙っていう成分が。モンスターが忌避する成分なんですよ。ひとまず置いていって良かったです」
「……なんということだ……。世界は広い」
「おっ、ガウディの知識欲がくすぐられたか?」
からかうガウレにガウディは、
「ええ、存分に」
と答えるのだった。
◆ ◆ ◆ ◇
「とにかく、みんなが無事で良かったわ。シスター、守護神の庇護使えるのね」
うさみは目を輝かせてシスターに言う。同志を見つけた気持ちがして嬉しいのだ。
「いえ、私のは……。ピギーウルフを防げるほどの厚みもなければ、もろいのです。せめてテールワットくらいですわ」
「充分よ! すごいわ。私、初めて同じような魔法使える人にあったもの」
「これは、魔法ではなく、『加護』なのです。もっとうさみのように、威力や強度がなければ魔法とは呼べませんわ」
「そうなのね……」
「ところでお疲れ様! 嬢ちゃんたち、木材や酸素山菜採ってきたんだろ」
「はい、でももうクタクタで……。今日はこれ以上出し入れできそうにありません」
そこで目を光らせるガウディ。知識欲の塊といった様子だ。
「なんと、出し入れに代償を伴う、と」
「はい。私の魔力を対価にどんな大きさのものでも、重量のものでも出し入れしてるんですよ。今日は小屋も出して行ったし、申し訳ないけれど出せてアレくらいです」
「アレ?」
ミミリのニコニコ顔に、ゼラはククッと笑う。
うさみも笑いを隠せない。
「ミミリ、アレするのか?」
「もちろん! 今日はみんな頑張ったんだもん! パーティーですよ! パーティー!」
「「「「「パーティー?」」」」」
喜ぶ子どもたち。それ以上に喜ぶミミリ。
「そうなの。もうこれ以上【マジックバッグ】から出せないの。焼肉セットと、食材と……あとは屋外テーブルとか、椅子とか……なら出せるけど」
「ずいぶん出せるじゃねえか」
「興味深い」
「なんて快活な少女か」
ガウレもガウディも、そしてサザンカも。
みんなミミリの虜になった。
ミミリは人を惹きつける力がある。太陽のような眩しい心に、小花のような優しい笑顔。
ミミリは子どもたちもシスターも、みんなを幸せにする力がある。
「さぁ! パーティーの準備しよ~! 手伝ってくれる人手~挙げて」
「「「「はーい」」」」
大抵の大人はクスクスと笑っていたが、声を出して手を上げたディーテと、無言で手を上げたサザンカが周囲の笑いを誘ったのはここだけの話。
――ひとまず、一旦は休憩をして。
「パーティー楽しもー!」
「「「「「おー!」」」」」
勝利の宴とお疲れ様会は、大きな期待感とともに幕を開けた。
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