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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-8 酸素山菜と森林伐採
しおりを挟む「あったよ~!」
遠くから、デュランがトレニアに手を振っている。酸素山菜は、地面からTの字に生えている。抜いてみると、地面に接していた根の部分は空洞になっており、地表に出ている部分は口が閉じている。少し洗って根を口に含めば、根から酸素が出でくるという仕様だ。サザンカの話によれば、1分くらいなら海の中で呼吸していられるという。
今日の教会の散策メンバーは、デュランとトレニアだけだ。おそらく、バルディと過ごして欲しいという、みんなの配慮かと思われる。
そんなバルディは、「見つけてすごいな」「えらいな」などと言いつつ、護衛のためつかず離れず接している。一緒の散策とはいえ護衛メインだとこれくらいの距離感が適切かもしれない。大袈裟な話、テールワットやポイズンサハギンがいつ出現するかわからないのだ。うさみの探索魔法があるとはいえ、警戒を怠らないことは大切だ。
山菜部隊はデュランたちにまかせるとして、ミミリたちは森林伐採だ。なるべく太く、ずっしりしていて、それでいて加工しやすい木を切っていく。
切る担当はゼラ、サザンカ。コブシは拳闘士ゆえ、獲物がないので、危険な方向へ倒れることがないように注意をする役だ。
人魚姫のディーテは、シスターと女神フロレンスの話がしたいと言ってお留守番をしている。
そういえば、人魚姫の父、海竜と女神フロレンスは親交があるのだろうか。だとするならば、雷竜も親交がありそうなものだが、あの雷竜が親交を持つなど、あまり想像はできないが……。
「わっ、倒れるっ倒れる~!」
「任せてくれ!」
サザンカが切った木が、大仰に倒れようとしている。方向的に開けた地ではないので、コブシが軌道を変えるため一突きすると、大きな音を立ててうまいこと落としたかった場所に大きな音を立てて倒れた。
「コブシさんすごーい! サザンカさんもっ!」
――ここまでは、よかったのだ。
そう。ここまでは。
よくなかったのは、ミミリとうさみの会話。
それが、男3人の競争心に闘志を燃やしてしまう結果となった。
「アルヒはこのあと、ミミリが【マジックバッグ】にしまいやすいようにサックリサックリ切ってくれたわよねぇ」
「そうだったね! しまいやすかったなぁ。それにすっごく、かっこよかったよね」
「「「――――――――――!」」」
これを受けてうさみが後ほど名言を発するのだが、それはもう少し後の話……。
「ミミリッ! 俺、蒼の刃広斧でしまいやすいように切ってみるよ」
「た、助かるけど、手は大丈夫?」
「ああ、これも属性習得のための修行のうちってな、な、【ナイフ】」
……やるとなったら、他のヤツらに敗んじゃねぇゾォ!
「もちろん!」
そして、コブシまで。
「あ、あのー、ミミリちゃん、俺拳しかないからさ、しまいやすいように、枝葉を折っておくよ」
「いいんですか! 助かります……!」
……その手があったか……(ゼラの胸中)
そしてまさかの、サザンカまで。
「――コホン。たしかに、切り落としたばかりの大きすぎる木だとしまうのに難儀だろう。微力ながら尽力しよう。――なに、この愛刀、光来刃があれば、光の如く切れるはずだ」
「ありがとうございます! サザンカさん!」
……光来刃、だと……(ゼラと【ナイフ】の胸中)
「敗けるわけにはいかないな、相棒」
……敗けたら承知しないゼェ。
そこから始まったのだ。
『伐採レースが』。
伐採してはカット、枝葉を折る。
伐採してはカット、枝葉を折る。
……の、繰り返し。
しかも互いに競い合いながら。
あまりのスピードゆえに、ミミリが【マジックバッグ】にしまう頻度も多くなって、魔力の使用量過多により、若干目眩をおこしていた。
それでもやめない、ダメンズたち。
あまり文句の言わないミミリが、ポソリと
「あっちの山菜採り、ほがらかでいいなぁ……」
と、呟くほど。
そこでうさみの言葉である。
「人間の男って、しょーもないところあるわよね」
競い合う3人にはその言葉は聞こえず、まだ争い続けているのだ。
「うさみ、私……もう……魔力が……」
「こーら、あんたたち、そろそ……
――――――――――!
モンスターよ! 危険度パープル
戦闘体制へ移行して!」
「「「「「――――――――――――!」」」」」
震えるデュランとトレニア。
寄り添うバルディ。
「うさみちゃん、距離は?」
「まだ距離はあるけど、速度が早い! ピギーウルフかもしれないわっ! バルディとコブシはデュランとトレニアを連れて教会へ」
「了解!」
うさみは、クタクタのミミリを気遣った。
「……癒しの春風」
「ありがとう、うさみ」
「教会のほうはコブシたちに任せるとして……、でも少し心配よね」
「私たちも警戒しながら教会へもどりましょう」
「「了解」」
うさみの判断に、首を捻るのはサザンカ。
「なぁにサザンカ。言いたいことでも?」
「いや、うさみの作戦に不満はない。むしろ素晴らしい。問題なのは、ピギーウルフが森に出るということだ。昨今のポイズンサハギンといい、何か嫌な予感がするんだ」
「……そう。じゃあなおさら早く行きましょう! 2体いるわ!」
◆ ◆ ◆ ◆
うさみの読みどおり、教会についたバルディたちは全員の安否を確認して安心した。
ホッと胸を撫で下ろすバルディ。だがしかし、ここにはアザレアのような堅牢な城壁もなければ、門番もいない。自分達で守るしかない。
「グルルルルルルルルゥ」
「キャアアアアアアア」
ピギーウルフの一体が、教会にたどり着いてしまった。だが今は、ガウレとガルディもいる。しかも2人はC級冒険者だ。油断しなければ大丈夫だろう。
「うさみちゃんによると、全部で2体らしいです。もう1体もきっとどこかから……」
子どもたちはシスターに寄り添い一箇所に集まった。シスターは、天を仰ぎ呪文を唱える。
「女神フロレンス様、どうか子どもたちにご加護を賜りますよう……」
すると、うさみの守護魔法――守護神の庇護のような半円のドームが現れた。
しかし、ドームはうさみの魔法のような分厚さもなければ、背後に石像も出てこない。
これが女神フロレンスの加護の差だということだろうか。
「グルルルルルルルルゥ」
ミミリたちよりも先に、もう1体教会へ辿り着いてしまった。この広大な森の中、敢えて教会を狙うのは偶然だろうか。ピギーウルフは、教会の中を……というよりは、ディーテを睨んでいるような気がする。
「すみません。皆さま。狙いは私のようですわ。ですが、海の中でなければ私は力を発揮できません」
「グルルルルルルルルゥ」
「グルルルルルルルルゥ」
ピギーウルフは明らかにディーテを狙っている。
ここにいる男性冒険者は、みんなC級だ。バルディ、コブシ、ガウレ、ガウディ。
しかし、ガウラのようなタンクがいないので厳しい戦いになるだろう。
「やばいな……これは……」
コブシは汗をたらりと垂らしながら、ボソリと呟いた。
そんな中、バルディは……
「でも俺は、守りますよ! 今度こそ、デュランもトレニアも……みんなも……!」
「バルディお兄ちゃん……」
「バ……おにち……ゃ……」
バルディたちの決死の闘いが、今――幕を開けた。
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