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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-0(序章)新たなる旅立ち
しおりを挟む蛇頭のメデューサとの闘いから、半月程経った。
バルディは早速川下の町と国交を結び、少しずつ人々が行き来するようになった頃。
ーー突然、事件は起こった。
それは、ゼラの絶品パンケーキを食べようと思った、ある早朝のこと。
やっとアザレアの門扉が開かれたくらいの人気の少ない時間帯。
コンコン、と工房の扉をノックする音が聞こえた。
「は~い」
ミミリが扉に向かおうとするや否や、手をグイッと引っ張って自分の身体にすっぽりとおさめたのは、ゼラだった。
「ミミリ! ……出るな。俺が行く」
「えっ」
ミミリを椅子へ座るよう促し、短剣片手にドアへ向かうゼラ。
「どゆこと? ゼラ?」
ミミリとうさみは、びっくりして顔を見合わせる。
「どうぞ……」
ゼラは短剣を構えながら扉を開ける。
――ダァン! キィン!
ゼラが言った瞬間と同時にゆっくりと開かれた扉。その刹那、交わる刃。
目の前には、アザレアの門番が着ていそうな兵服を纏った男が1人。顔立ちは整っているが目つきが鋭い。それに、服で隠れてはいるが身体を鍛え抜いている。ゼラは一度刃を交わしただけだが、相当な使い手だと悟った。
「敵襲なの⁉︎」
――まさか、シスターが言っていたように、魔法が使えるうさみを狙って?
ミミリはうさみを後ろに隠し、【絶縁の軍手】をはめて雷のロッドを手にした。手には【ぷる砲弾(ミニ)】を。雷属性をマスターしたゼラになら当たっても耐えられる算段だ。
その間もキィン、カキィンと交錯する刃。
相手はスラリと身長が高く、緑の長髪を後ろで結った男性。身のこなしも柔らかで、ゼラは若干押され気味だ。
「【ナイフ】!」
……いいネェ。血湧き肉躍る闘い。……使いな!
ゼラはナイフと名付けた【マジックバッグ】から蒼の刃広斧を出した。
その瞬間、緑髪の男は後ろに2、3歩飛び退いたため、すかさずゼラとミミリは広場へ出て追い討ちをかける。
「――霜柱!」 「えーいっ! 【ぷる砲弾(ミニ)】」
ーーガガガガガ!
とアザレアの広場の石畳が盛り上がりながら、地中から緑髪の男へ向かう無数の霜柱。加えてミミリが投げた【ぷる砲弾(ミニ)】も緑髪の男に的中する、見事な連携プレイだった。
男は足元を霜柱で固められ、身動きが取れないままミミリの錬成アイテムの電撃に耐えきった。避けれなかったとはいえ、かなりの手練れ。まさか、ミミリの錬成アイテムでも倒せないとは。
「なんだっ⁉︎」
「なにがあった? 大丈夫かっ?」
この騒動を聞きつけ、冒険者ギルドから慌ててバルディとコブシが駆けつけてきた。
「どうしたんだ、なんだ一体⁉︎」
戦闘体制を取ろうとしたコブシを静止し、深々と緑髪の男へ頭を下げるバルディ。
「御無礼を、失礼しました。特使様!」
「「「「え、特使~⁉︎」」」」
ミミリとゼラは絶句した。
そして顔を見合わせ心で会話する。
――これは正当防衛だよね、ゼラくん。
――大丈夫(多分)。だっていきなり攻撃されたからな。
こんな中、うさみだけは1人家の中。
しかも、静かに椅子に座ってコーヒーを嗜んでいる。
「うさみ、いつから気がついてたの?」
「ん? 途中から。だって(探索魔法から)敵意なかったもん。腕試しでしょ?」
「「言ってよ~」」
へにゃりとその場へ崩れ落ちるミミリとゼラ。
周りを見渡せば、霜柱で壊した石畳に、足元を固めて電撃攻撃をしてしまったどこぞの特使様の姿。
「どうやって直そう、これ……」
2人はとってもしょんぼりする。
「ハハハハハ!」
急に豪快に特使は笑い出し、「ハアッ!」という大声とともに覇気のようなもので霜柱を自ら解除した。霜柱は溶け、あたりは水たまりに。むわりと感じる蒸気と立ち昇る湯気から推測するに、炎属性の使い手かもしれない。
特使は、満足気な笑みを浮かべながら、こちらへ近づいてきた。
「さすが、いい腕をお持ちで。直接ご依頼に伺ってよかった。試すような真似をして申し訳ありません。錬金術士殿たち」
「――?」
ミミリたちはわけがわからない。加えてコブシも。バルディだけが頭を下げている。
「直接ご依頼を申し上げたくて参りました。サザンカと申します。以後お見知り置きを」
「――依頼、ですか?」
ミミリとゼラは、顔を見合わせる。
「そうです。貴殿たちに、我が川下の町を救っていただきたい……!」
「ええっ⁉︎」
事件と依頼は突然に……。
この展開、前にもあったような……。
本当に、依頼はいつ舞い込んでくるかわからないものだ。
でもそれだけ、ミミリたちの名声が上がったということなのかもしれない。
◆ ◆ ◆ ◆
「モンスターの大量発生ですか⁉︎」
「ええ、そうなんです。しかも、昨日の昼、突然に……。今街の方は一旦落ち着いているのですが、闘いは止んでいません。
それで、最近国交を結ばせていただいたバルディさんへ救助を願うために一番馬を速く駆れる私が参ったというわけなのですが、私としては、噂の錬金術士殿にもご助力賜りたくてお会いした次第です」
ミミリはうろたえて、手をブンブンと振る。
「そんなすごい人じゃないですよ、私」
「いや、ミミリちゃんたちはすごいよ。蛇頭のメデューサをやっつけたし、俺たちの兄妹も救ってくれただろ」
とバルディは真剣に言う。
「えぇと、わかり……ました。できるかわからないけれど。それで、どんなモンスターなんですか?」
「川下の町の河口付近に、急にポイズンリザードがわいたのです。今、戦えるものは全力で掃討していますが、なんせ追いつかない。差し支えなければ今すぐにでもお越しいただきたい」
「俺だけでも先に行っていいかな。教会も心配だ」
ゼラは既に冒険着に着替えていた。
「うん、行こう! ね、うさみ? ……うさみ?」
「両生類……ね。節足動物よりはマシだわ」
「うん、私も」
「2人とも基準はソコかよッ」
というコブシのツッコミはさて置き。
「「「行こう!」」」
「ありがとうございます。ついては、急ぎゆえ馬に乗っていただきたい。この中で馬を駆れるのは……」
手を上げたのは、バルディとコブシだけだった。
では、お二人のどちらかに乗って着いてきてください。
「ミミリは、バルディさんな! 絶対にな!」
「えっ、うん、よろしくお願いします」
ゼラの男の勘が告げている。
コブシは危ない、と。
ゼラは考えた。バルディが好きなのはローデだというのだから、特段ミミリに手は出さないだろう。
「うさみちゃんも俺の方に乗るか?」
「私はミミリとセットよん」
うさみはパチリとウインクする。
「仕方ない、俺はゼラを乗せるか。じゃあ行くか」
「よろしくお願いします、コブシさん」
なんとなく屈辱的な気分のゼラ。
――俺も馬の練習しよう。ミミリを乗せて馬を駆りたい。
と、固く誓うのであった。
「時に……」
話がまとまったところで、サザンカは疑問を口にする。
「そちらの、うさぎのぬいぐるみは、何故喋って動くので? それも錬金術士殿の力ですか?」
うさみは、キメッキメのプリティポーズでアピールする。胸とふわふわのしっぽを突き出し、片耳を曲げて。
「それは私が、プリティな魔法使いだからよん」
「……………………………………奥深い。あとで検分させてください」
「嫌よなにする気このサムライ! とんだエッチね。ゼラよりHよ」
「え、エッチ? ……失礼しました!」
「おい、巻き込むなよ! それに俺のHはヘタレの……いや、なんでもない。言ってて悲しくなってきた」
「へ、ヘタレ?」
「いや……聞き捨ててください。サザンカさん」
はぁ、とため息をついたゼラ。
解せない様子のサザンカ。
――今回の冒険、今まで以上に波乱が巻き起こりそうだ。
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