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うさみち

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第5章 宿敵討伐編

5-19 10年後のお墓参り

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 すっかり夜は明け、朝陽が差し込む川上の街。
 もう、廃墟の街なんて呼ばせない。それほど川上の街は美しかった。

 カラカラ、サラサラ、とテトラ型の鞘は揺れ、色とりどりの苗木は、まるで出発を後押ししてくれるように、地にしっかりと根を張って、針葉のような長い葉を左右に振って、「行ってらっしゃい」と言わんばかりに、動かしてくれている。

「ふふ。行ってきます」
「可愛いわね。行きましょう」
「そうだな」

 ゼラは空を見上げて、川上の街に一言。

「――うん、行こう。……みんな。俺、行ってきます!」

 ◇ ◇ ◇ ◆

「今まで生きた苗木が【マジックバッグ】に入ってたっていうことがすごいよな」

 錬金術に詳しくないバルディですら、川上の街から続く森の中へ入るや否や、疑問を口にした。

「そうなんです。【マジックバッグ】の特性は、形状や温度はそのままにできることです。でも、本来生き物は中に入れないんです。うさみも入れないもんね」
「そうね。だって私、ただのぬいぐるみじゃなくてスーパーラビットだから。ぬいぐるみを演じきれば入れると思うけどねん♡」
「あはは。そうだよな、スーパープリティーだよな。だけど、ますます、不思議だなぁ。まぁ、ゼラの【マジックバッグ】だって、武器専門だもんな。世の中は不思議でいっぱいってことか。……ゼラ?」

 先程から、ゼラの足の進みが遅い。
 胃のあたりを押さえて、前傾姿勢で、顔は真っ青、額から脂汗を吹き出している。

「ねぇ、ゼラくん。お墓参りしたいのはわかるよ。でも、無理しなくてもいいんじゃないかな。また今度にしてみるとか。それか、肩、私に預けて?」

 ミミリはゼラを心配して声を掛ける。
 普段ならば、うさみがここで「ミミリの肩じゃなくてバルディの肩にしなさい、このスケコマシ!」などと言うところだが、今日ばかりは何も言わない。

 それもそうだ。
 川上の街ですら、ゼラは嗚咽するほど泣いたのだ。両親を亡くした森では、尚のこと心が悲鳴を上げているに決まっている。
 
 こんな時はうさみの回復魔法! と言いたいところ。
 しかし、残念だがうさみの回復魔法は身体的回復のみで精神には及ばない。ゼラがなんとか、自力で乗り越えるしかないのだ。

「私の肩も、貸してあげたいくらいだわ」

 うさみはゼラの肩に乗りながら、ハンカチでゼラの額からとめどなく噴き出す汗を拭いている。

「ありがとう、うさみ。……今日はからかわないんだな」
「TPOをわきまえてるのよん」
「そうか」

 そうか、と言うだけで笑う余裕もないゼラ。

 ゼラは更に前傾姿勢になり、ついにゼラの【マジックバッグ】――【ナイフ】から、蒼の刃広斧を出して杖代わりに体重を預け始め……るも、まだ氷属性と親和性の弱いゼラの手はどんどんと霜焼けになっていく。

「肩、貸すぜ。無理するな、ゼラ」
「私の肩も。だから、斧、しまって」
「ありがとう……ごめん……」
「ゼラ……」

 ゼラは辛い記憶を辿りながら、川上の街からまで足を進める。

 ――あの時の俺――。
 俺はただただ、悔しかったんだ。

 俺は父さんに抱き抱えられながら、市場を抜けた先の森の中へ逃げ込んで。
 走り慣れていない母さんは、父さんに手を引かれながら時々足をもつれさせて必死に走って……。
 そんな母さんは、俺しかみていなかった。
 俺にもわかったんだ。母さんの気持ちが。
 俺の無事だけを祈ってくれていたんだ……。

 急に襲われてこわい、なんていう感情よりも。
 無力な自分が、ただただ悔しかった。
 俺にも力があれば。
 父さんと母さんを、守れたのにーー!
 

 ――そうだ、たしか、このあたり――。

「ここだ……」

 着いたのは川上の街から一時間程歩いた森の中だった。
 ゼラが一生懸命弔ったのだろう。父母と串焼き屋のおじさんのお墓の上に、大きくていびつで、不揃いな石が3つ乗っかっていた。

 ゼラは、肩を貸してくれたみんなに感謝を述べた後……、静かに、それは静かに……お墓の眼前にひざまずいた。

 ゼラたちの上から、はらりはらりと、藤色の花弁が散っては落ちる。
 とても不思議な光景。
 緑覆い茂る森の中だというのに、まるで、儚い花吹雪の中にいるようだった。


 ――昔を思い出しては何度思ったことだろう。
 何事にも誰にも負けない力が欲し……って。
 あの時の俺に、強い、強い力があれば……、父さんと母さんは、死ぬことはなかった。死なせることはなかったんだ。
 
 ゼラはギュッと、拳を握った。
 謝罪、後悔、懺悔、哀愁、慕情……両親に向ける様々な想いが胸中を交錯するうちに、いつの間にか体調不良は治まり、目の前の墓標に釘付けになっていた。


「父さん、母さん。
 来るのが遅くなってごめん。
 俺、仇を討つことができたよ。俺だけの功績じゃなくて、ミミリやうさみ、バルディさんにヒナタさん。いろんな人に助けてもらったんだ。

 ……………………………………。

 この子はミミリ。見習い錬金術士なんだ。すごいんだよ。なんでも錬成しちゃうんだ。ちょっと爆弾娘だけどね」
「もー! ゼラくんてばっ。初めまして。ミミリです。いつもゼラくんにはお世話になっています。ゼラくんだって、すごいんですよ」

 ミミリはゼラの紹介の後、お墓に向かって淑やかにお辞儀をする。

「この可愛くて小さなうさぎのぬいぐるみは、うさみっていうんだ。勝ち気だけど、実は優しくていい子でしかも魔法使いなんだよ。こんな可愛い見た目なのに、コーヒーが好きなんだ。意外だよな」
「もうっ! ゼラ! 『実は』は余計よ! 『本当に』いい子なの。
 ゼラのご両親、初めまして。うさみです。ゼラのことは私が守りますから、ご安心くださいね」

 うさみは、ゼラの肩の上からぴょこりとお辞儀する。

「この人はバルディ=アザレアさん。アザレアで出会ったんだ。とても頼りになる人で俺たちのお兄さん的存在なんだけど、ちょっと泣き虫なんだ」
「こーら! ゼラ、バラすんじゃないぞ。
 ご紹介に預かりました、バルディ=アザレアと申します。実は俺の弟妹も蛇頭のメデューサに攫われまして……。あなた方のお気持ちは、察するに余りあります。
 ゼラには、本当にお世話になったんです。ゼラが困ったら俺が絶対助けますから、ご安心ください」

 「公」のバルディは、深々と腰を折った。

「すごいだろ? 俺にも、こんなに大切な仲間がたくさんできたんだ。
 そういえば、僕って自分のことを呼んでいたけれど、いつの間にか俺って呼ぶようになったんだ。
 あれから10年……。
 俺、もう、15歳になったよ。

 父さんと母さんのおかげで、俺、生きてるよ……」

 「人情屋」のバルディをはじめ、全員が涙で顔を歪めていた。

 この森の中、木のウロに隠れて、幼きゼラはどれほど悲しかったろうか。たった1人になって、どれほど苦しかったろうか。

「俺、父さんからもらった短剣で今まで生き抜いてこられたんだ。これからも、この形見の短剣を大事にして、父さんと母さんの分まで……分まで……。

 俺……生きていくから……。

 だから……安心して……眠ってください。

 あの時、助けてくれて、本当にありがとう。

 だいすき……だよ……」

 ――その瞬間、地に落ちていた藤色の花弁が、ブワッと舞い上がった。

「わぁっ、綺麗……」
「ほんとね」
「なんだか……。ゼラ、俺、思うんだけど」
「はい。父さんたちに、届いた気がします」

 ――藤色の花弁は、ゼラたちを包み込むように、宙に舞う。

 まるでゼラたちのつつがなき幸せな門出を、両親が祝い願うかのように………………。
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