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第5章 宿敵討伐編
5-14 決戦の時 蛇頭のメデューサ 前編
しおりを挟む「殺されに来たのかい。ばかだネェ。このアタシがアンタらごときに敗けるワケないでショ」
ゼラの身体がビクンと動いたのをミミリは気がついた。
ゼラを思えば当然のこと。
幼き自分から両親を……全てを奪った仇がそこにいるのだから。しかも当然、宿敵は悪びれることもなく。
「ゼラくん……」
「ごめんミミリ、俺は、大丈夫だから……」
「アーハッハッハァ! 闘いにも集中できないほどの子鹿と見えるワァ」
「ーーぐっ!」
緊迫する空気が流れる中、フンッ! と鼻を鳴らして、胸を張ったのはうさみだった。
「不意をついて攻撃してやろうと思ったけれど、蛇頭のメデューサ意外と神経質なのね。自意識過剰なんじゃない?」
「――! うさ……」
「私からしたら蛇頭のメデューサの方が子鹿だわっ」
止めようとするミミリの言葉を遮って、敢えてうさみは蛇頭のメデューサを挑発する。しかも、ゼラに剣聖の逆鱗をかけもしない。
――ということは……!
「ーー!」
――うさみ、作戦と違う……! おとりになる気だ……!
「このクソうさぎがぁー!」
蛇頭のメデューサの敵対心《ヘイト》がうさみに向く。本人だけでなく、頭の蛇の敵対心も全てだ。
うさみに向かって頭から生えたロープのような太さの無数の蛇がぐにゃりうにゃりと動き、一斉に照準を定め――
「石礫!」
うさみに無数の石つぶてが放たれた。
うさみは全力で、守護神の庇護に力を注ぐ。それも、ミミリとバルディの前面に出て。
「あたし、みんなを守るって、決めたもの。保護者だからねんっ」
「バカうさみッ」
ゼラは思わずうさみに暴言を吐きながら、せっかく作ってくれたチャンスを無駄にすまいと青の刃広斧を蛇頭のメデューサに向かって振りかざす。
「――霜柱!」
――ザクッ、ガガガガ……!
振り下ろされたから、蛇頭のメデューサ目掛けて迫り行く何本もの霜柱。
しかし――!
「蛇の盾」
幾重にも重なった蛇の盾で霜柱は防がれてしまった。しかし、盾となった蛇は無惨にも地へ倒れてゆく。
「仲間を使い捨てる気かよ」
「それは異なること。これらはアタシの一部でもある。フンッ! 仲間を使い捨ててるのはアンタらでしょうガァ」
「クソッ! う、うさみは……!」
ゼラがうさみを見遣ると……
……………………。
…………………………………………!
――そんな――!
――うさみの力及ばず、守護神の庇護の保護ドームをバリンと砕いたのは、放たれた無数の石つぶて。
狙われたうさみは、なす術もなく……。
「……そんな……」
……いや、そうじゃなかった。
ゼラは腹の底から叫ぶ。
「バルディさぁぁん!」
――バルディは手を大きく広げ、2人の盾になっていた。
バルディの全身から溢れるように血が地面に滴り落ちる。
「言っただろ? 俺はみんなの……盾に、なるって……。ぐふっ」
ついにバルディは、膝をつき、吐血した。
「「バルディさんっ!」」 「バルディ!」
うさみの保護魔法――聖女の慈愛がなければ、即死だっただろう。それでも重症とも言えるべき打ち身がたくさんある。辛うじて幸いだったのは、身体に穴が開かなかったことだ。
「バカバルディ、なんでそんな……。私はね、ぬいぐるみだから、痛いのなんて、平気なのよ」
うさみはバルディの頬に触れ、ポタリと流した涙がバルディの頬を伝って落ちた。
「可愛い女の子に怪我、させられないだろ」
「バルディのスケコマシ……ありがとう。今治してあげるわ……癒しの春風!」
「うっううううう……!」
――シュウウウウウと、傷が塞がるたび、苦悶の表情を浮かべるバルディ。傷が塞がるというのは、痛みを伴うのだ。自然治癒に反して、無理やり縫い付けるようなものだから。
ミミリもバルディに【ひだまりの薬湯】を差し出した。
「私たちのために、ありがとうございます。バルディさん。そして、ごめんなさい。これ、飲んでください」
「ありがとう、ミミリちゃん」
「ゆっくり休んでてください。……あとは、私が」
蛇頭のメデューサを険しい表情で見たミミリ。片や、蛇頭のメデューサは愉しそうに不気味な笑みを浮かべている。
「私もう……許さない!」
ミミリは、すくっと立ち上がる。
「……………………ミミリちゃん? なにを?」
バルディが驚くのも当然。ミミリは、うさみとバルディの前に立ちはだかったのだ。まさにそう。先程のバルディの如く、2人の盾になるかのように。
「ミミリ、やめなさい! 無理よ、アンタじゃ」
ミミリは当然、うさみの言うことなど聞く気もなく。
「もうっ、もうっ、許さないんだから!」
そんな怒れるミミリを、蛇頭のメデューサはこれでもかと嘲笑う。
「お前みたいな小娘に何ができるって言うのサァ、興が覚めちまうヨォ。……そうだねぇ、とっておきの余興でも見せてもらおうかネェ」
蛇頭のメデューサは、バルディとゼラを視界に捕らえ、左目に手をかざし――
「魅力!」
――と唱えた。
2人は【七色のメガネ】を装備しているので魅了は防げるはず……だったのだが……。
「「ああああああああああああああああ」」
「ゼラくんっ! バルディさんっ!」
2人は目を押さえて苦しそうに悶えて地を転がった。ゴロゴロと苦しそうに、まるで身体の内側からねっとりと語りかける指示と闘うように……。
「「嘘………………! メガネが、効かない⁉︎」」
「キャハハ! いい気味じゃ。何か対策してきたようだが意味がなかったネェ。
アタシはねぇ、仲違いさせるのが大好物なんダヨォ。夫婦モノならさらに興が乗るのサァ。アンタらみたいな、仲良しを絵に描いたようなパーティーもネェ!」
ケタケタと笑い狂う蛇頭のメデューサ。ゼラとバルディは、未だ地に転がって苦しんでいる。
「意外と洗脳まで時間がかかるなんて頑固じゃあないカィ。でも我が手に落ちるのも時間の問題。それまで、アンタらの相手をしてやろうかねぇ……」
「「――!」」
「うさみ、頑張ろう」
「ええ。貴方は私が守るから。命に代えても」
「それは私のセリフだよ」
「あーっはっはっはっはっ。傑作ダネェ。これだからこの遊びはやめられない」
蛇頭のメデューサは笑ったのちに、頭の蛇の照準をこちらへ合わせた。
「――石礫!」
ミミリは思わず、うさみの前で両手を広げる。うさみの盾になるつもりだ。
「ミミリ! そんなことはさせないわ! ……いいわ。やって……やってやろうじゃない!」
無数の石つぶてがぶつかろうとした瞬間、うさみはドームを解き、新たな魔法を展開した。
「――守護神の大楯!」
うさみは両手を掲げ、来たる石つぶてに対し大楯を全員の前に召喚した。
「――! そ、その魔法は……!」
うさみは、ニヤリと笑う。
「それだけじゃないのよねん。ただのスーパープリティラビットだって、甘く見てもらっちゃあ困るのよ!」
「おっ、お前は……一体! あの時の! ……あの時の……魔法使いの女の……!」
蛇頭のメデューサの理解が追いつく前に、うさみは更に力を込め――
「ナメられちゃあ困るのよ! ――水魚の反照!」
――蛇頭のメデューサから撃たれた石つぶては魚の形をした水で覆われ、さらに光を纏って蛇頭メデューサに撃ち返された。
「うさみ、すごいよ! いつの間にそんな技を」
「ふふん。ゼラから概要は聞いたからねん。魔法っていうのは要はイメージなのよ」
「ギャアアアアアアア! このアマ……」
撃ち返された水の石つぶてをかぶり、明らかに不快そうな声を上げる蛇頭のメデューサ。
――しかし――
致命傷には至らなかった蛇頭のメデューサは、ゼラとバルディを見て不敵に笑う。
「――どうやら、洗脳は完了したようじゃノォ」
「「――――――!」」
ミミリとうさみの、背筋に一筋の汗が滴る。
ゆらり……
ゆらり……と
ゼラとバルディが立ち上がった。
「クソッ……逃げ……闘わなくちゃならないんダアアアア」
「うわあああああ! 逃げてクレェ!」
内なる狂気と闘うゼラとバルディ。
「2人とも……しっかりしてェ!」
ミミリの呼び声も虚しく、2人には届かない。
「準備は整ったようだねえ。さあ、存分に仲間割れしなァ、クハハハハ」
蛇頭のメデューサの不気味な笑い声。
不気味な笑い声が、アンスリウムの内部ダンジョンの壁に反響して大きく響くのだった……。
それでも、ミミリは諦めない。
「ゼラくん、バルディさん……待ってて。私が絶対、なんとかするから……!」
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