見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

文字の大きさ
上 下
144 / 207
第5章 宿敵討伐編

5-10 アンスリウム山の内部ダンジョン〜命からがら、からの小休止〜

しおりを挟む

「も、もう普通に話しかけて平気なわけ?」
「はい~! ミミリちゃんならわかってくださると思ってました。腹ペコだって。さすがですぅ」
「……俺、文句言わずにはいられないんですけど。死にかけたんですけど……」
「「こっ、コラ! ゼラ!」」

 うさみとバルディに身を案じられながらも、つい、物申してしまったゼラ。それもそのとおりだ。さっきまで、死にそう、ではなく、殺されそうだったのだから。
 その証拠に、ゼラの鬼畜な【マジックバッグ】もケタケタと脳内でしゃがれ声を響かせている。

 ……血湧き肉躍る闘い! 蛇女も楽しみだっが、このメンヘラ姉ちゃんも最高だったぜぇ。まぁ、だいぶ手加減されてたがなあ。ハッハァ!

「うるっさいな。黙ってくれよ」
「「え?」」
「あら~思春期?」

 ゼラの【マジックバッグ】の声はゼラにしか聞こえないので、いつもの如く独り言のような構図に。うさみとバルディはびっくり。対してヒナタはこの状況を楽しんでいそうだ。
 まぁ、そんなこんなは置いておいて、ゼラには聞きたいことがあった。

「あの……ヒナタさん」
「なぁに? ゼラくん?」
「……ヒナタさん、俺たち相手に手加減されてましたか?」
「そうねぇ。意識飛びそうだったけど、辛うじて理性がまだあったから。一応、手加減してたわ」

 ヒナタは、うふふ、と笑いながらおっとりと片頬に手を当てて目を閉じる。

「やっぱりかぁ。強いなぁ、ヒナタさんは」
「ありがとう~」
「そう……なのね。全力でガードしたつもりだったけれど。でもゼラ、どうしてわかったの?」

 うさみの問いかけに、ゼラは【マジックバッグ】を指し示す。

「コイツが言うからさ。俺が見抜いたワケじゃない」

 ゼラはハハッと笑いながら、腰につけた【マジックバッグ】を指差した。
 うさみたちもクスリと笑う。

「ああ、なるほどねぇ」

 ◇ ◇ ◇

 一息ついたところで、ダンジョン内に鼻をくすぐるいい匂いが漂ってきた。

「ヒナタさんどうぞ召し上がれ。うさみたちもね。美味しいパンに美味しいスープ、それにピギーウルフのステーキもありますよ! そうだ! 一角牛の焼肉も!」

「パン……、スープ……、ステーキ……。…………一角牛……?」

 ミミリの声に、ヒナタはスクリと姿勢を正した。青白かった顔がみるからうちに白くなり、綺麗ないつものヒナタに戻って顔から笑みがこぼれ始めた。
そして座位のまま垂れ目気味の目をつぶり、ありがたそうに胸の前に手を合わせた。

「パンに、スープ、ステーキ、焼肉……。ご相伴に預かります~」

 先程までの鬼神ヒナタはどこへやら。

「「「「ぷっ! あはははは」」」」

 いつもどおりのヒナタに、一同はついつい笑みをこぼしてしまうのだった。

 ◇ ◇ ◇

「どうぞ! 召し上がれ」

 ダンジョンの中に、モンスター避けの小屋を建ててから食事を摂ることになった。途中で新たなモンスターに襲われないための対策だ。

 ミミリが用意した豪勢な食事。ヒナタは、ゾンビモンスターのように、おどろおどろしくむしゃぶりつき始めた。いつものしとやかさ(平常時のヒナタ)は、どこへやら……。

「それで? どうしてあんな凄い豪華な玉座っぽいところに座ってたわけ?」

 うさみは、アップルパイを食べながらコーヒー片手にヒナタヘ問う。

「それがっ…………もぐもぐ……そのっ……」
「ああ、もう、いいわ。食べてから喋って」

 ミミリもゼラもバルディも、ヒナタの必死さにクスリと笑ってしまった。

 蛇頭のメデューサに立ち向かう前にヒナタに巡り逢ったのは、今となっては幸運だったかもしれない。
 もし、あのまま蛇頭のメデューサと戦闘になっていたら……蓄積した疲労により精彩を欠いて全滅していたかもしれないからだ。

「もぐもぐっ、はあああああ~! 落ち着きましたぁ」

 膨らんだお腹をポンポンと撫でるヒナタに、ミミリは食後のホットミンティーを差し出した。

「まぁ、ご丁寧に~」
「いえ、こちらこそ~」

 ヒナタは手を合わせて深々とお礼する。
 それにつられて、ミミリも深々とお礼する。

「それで、どうしてあんなところに座っていたわけ?」
「ええ~と、アンスリウム山の頂上で、誰がアザレアに戻って状況報告しに行くか話し合っていたんです。なぜか私を除いてみんながメンバー決めしてて。まったくもう、仲間外れでしたよ。まぁ、結局コブシくんが行くことになって。不満とかはないんですけれど」
「でしょうね(迷子キャラだし)……」
「え?」
「ななななんでもないわっ(何がキッカケで鬼神化するかわからないわ)」

 うさみは慌てて誤魔化した。『ヒナタじゃアザレアに帰れないもんね』なぁんて素直に話して、鬼神化でもされたらひとたまりもない。
 脳内にそのイメージが浮かぶ。うさみの身体の綿は凄惨にも引きちぎられていただろう。

「ひいぃぃ~」

 うさみはブルブルッと身震いした。考えただけでもむごたらしい。
 ヒナタはうさみの様子に首を傾げながらも、話を続けた。

「……それで、先に地下に潜っていったんです。最初は蜘蛛、次はモンスターハウス。私が全部倒したんですが、他のメンバーはそこで重傷を負ってしまい、お前は先に行けと言ってもらって、進むとまたモンスターハウスで……。あ、先遣隊のみんなは大丈夫でしたか?」
「ええ、治療したから平気よ。……なるほど。そういう経緯で一人でここにいたってことね」
「そうなんです~! でもどのモンスターも相手にならなくて。退屈でした。ちょっと集中しすぎて、みんなを守れませんでしたけれど」
「でも、すごい……」
「ふむぅ。ヒナタがさっき全部倒したはずのさっきのフロアが再度モンスターハウスになっていた、ということは、一度フロアモンスターを全滅させても、また自然と湧き出すってことよね。モンスターが」
「そうなるねぇ」

 ヒナタから発せられる驚愕の話を聞いては驚くミミリたち。

 ヒナタはあのモンスターたちが「退屈だった」という。でも、だとするならば――新たな強敵を求め先に進まなかったのだろうか。

「じゃあどうして先に進まず、ここの玉座に座っていたの?」
「あ、おほほほほ~」

 口元に手を当て、しとやかに微笑むヒナタ。
 なにか気まずい話になるようだ。

「モンスターを全部倒したあと、空腹で倒れちゃって……。ほ、ホラ、モンスターを倒すと下への階段が開くじゃないですか! それで下へ行こうとした前に、……空腹で倒れて……そうこうしているうちに、閉じちゃったんです。下への階段」
「もしかしてヒナタさん、それでそのまま、このフロアのボスモンスターになったんですか?」
「そうみたいなんですよねぇ~。なんかよくわからないけど、『フロアボスモンスター就任』ってどこからともなく声が聞こえたんですよ」

 ヒナタは困った風に片頬に手を当てて小首を傾げた。

「「「え――――――!」」」

 ということは、ボスモンスターのヒナタを倒さない限り、下への階段は開かない⁉︎ ミミリたちは、顔面蒼白になる。

 ミミリはボソリと、小さく呟く。

「このまま、戦闘するの……?」


 ――――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

「「「――?」」」

 闘ってもいないのになぜか下へ続く隠し階段が開かれた。

「へ?」
 
 と、驚くミミリに、ヒナタは一言。

「ミミリちゃんの美味しいご飯に、感謝感激完敗です~! ということで、私の敗けです。さっ! 休めたし先に行きましょう」

 意気揚々と歩き始めるヒナタ。
 ミミリたちは苦笑いしながら、ヒナタの後をついていった。

(はぁ、よかった……)

ヒナタ以外の全員が、ホッと胸を撫で下ろしながら……。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

処理中です...