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第5章 宿敵討伐編
5-7 アンスリウム山の内部ダンジョン〜地下2階へと続く階段〜
しおりを挟む「あそこだよ、地下に続く階段を降りてみよう」
ミミリは、少し離れたその場所を指差して言う。
アンスリウム山の頂上から続いていたこの内部ダンジョンの地下一階。広さはおそらく30メートル四方くらい。雷電石の内部ダンジョンとは違って、地下全面が煌びやかに光ってはおらず、暗闇の中は先遣隊が所々に灯した松明だけが頼りだった。
「そうねぇ、その前に……」
と、先遣隊にうさみは言う。
「とりあえず応急処置はしたけれど、一緒に地下に潜るのは非常に危険だわ。悪いけど、貴方たちは先にアザレアへ帰って」
「いや、子どもたちとバルディだけに進ませるわけには……」
先遣隊の1人はおずおずと言葉を紡ぐ。先遣隊としてというよりは、大人のプライドがそうさせた。
「…………いや、でも……」
と、先遣隊は瞳を閉じてうさみの心を噛み締める。
――これはただの意地でしかないな……。足手まといだ。
先遣隊の一人、オーウェンは、少しくらいは名の馳せた冒険者だと自負していた。
アンスリウム山の一角牛を倒し、この内部ダンジョンに潜んでいた蜘蛛だって倒せると思っていた。
いわゆる、高を括っていたというヤツだ。後悔ばかりが去来する。
「大丈夫! 貴方たちの意思は継ぐわ。そのうち援護もくるでしょう。
それに……………………。
いるんでしょう? この先に、ヒナタが」
「「「「あ……」」」」
それぞれが、ヒナタを思い浮かべた。
ハングリーなうえにアングリーな大剣使い。
C級冒険者だと言うが、実質それ以上だろう。
「ハハッ、確かにヒナタがいれば大丈夫かもな。迷子になってなければ。しかしこのフロアから推察するに、下へと続く階段は一箇所のみ。迷いようがないだろ……」
と、苦笑いする。
そうなのだ。
――鬼神の大剣使いヒナタ。
別名、レアキャラの迷い子ヒナタ。
さすがに、降り口が一箇所だけなら迷いようがないとの推測だ。
ただし……。
闘えるかどうかは、ハングリーか否か。
鬼神のような強さを誇るヒナタなら、蛇頭メデューサとの闘いに勝率が上がるかもしれない。
しかし……、ハングリーだったら?
先遣隊と同じく倒れ、腹ペコゆえに瀕死かもしれない。
「だっ、大丈夫ですよ! 【マジックバッグ】の中にはご飯も入っていますし」
「そうか……すごいな」
と、先遣隊の面々は言う。
さらに……。
「だから、安心して、アザレアに帰ってくださいね。無事を祈っていてもらえると、嬉しいです。マールも、私たちも」
と、にこりとミミリが柔らかく微笑んだものだから、先遣隊は次々と顔を赤らめた。
――いっ、いけない! 相手は13、14の子どもだろ!
――なんだこのほんわかとした気持ちは……!
――これが錬金術か……!
忙しく取り繕うとする先遣隊の面々。
銭湯で尖っていた心が、まあるくなっていく。
「…………………………」
…………………………。
いい。この錬金術士、いい……………………。
「……」
……ゆらり。
…………ゆら~り。
ここに、先遣隊に向けてゆらりと揺れながら殺気を向ける男が1人。
「大丈夫です! ミミリは俺が守りますから」
ミミリの前に立ちはだかるゼラ。その顔は勇ましいこと極まりない。しかも若干、苛立っている。本来なら萎縮してしまいそうなこの殺気も――
「「「あははははは」」」
――あどけない嫉妬心が心をほぐし、周りの笑みを誘ったのだった。
「ありがとう、ゼラがいれば安心だな。バルディも頼むぞ。……悲願を、果たせ……!」
「「はいっ」」
先遣隊は肩を貸し合い、帰って行った。
頂上に残していた馬で駆けてゆけば、割と早めにアザレアに帰還できるだろう。
先だってコブシも帰途を目指して行ったし、更に先遣隊が麻痺蜘蛛モンスターの情報を持ち帰れれば更に作戦を練りやすくなる。
情報が揃えば、有能なローデの采配のもと、情報収集班から捜索専念班が再結成されるはずだ。その隊がアンスリウム山の内部ダンジョンへ来てくれるならば御の字。そうでなくても、道中のアザレアの森やアンスリウム山に跋扈する一角牛を減らしてもらえるのであればミミリたちの帰途も楽になるだろう。
「地下二階……次のモンスターは、どんなモンスターだろうね」
「そうね」
とミミリに相槌を打ちながら、うさみはゼラの霜焼けの手に回復魔法――癒しの春風をかけた。
「ありがとう、うさみ。
ははっ、俺はまだまだダメだな。今も撃てて2発だったよ。もう少し無理をしてでも、稼働時間を伸ばしていかないと」
「ゼラくん……」
「ホラ、師匠が言ってただろ?」
「「「『一段上へと成長を望むなら、常に努力と時に覚悟と。稀に荒療治も必要ですからね』」」」
ミミリたちの脳内に浮かぶ凛とした機械人形。普段の性格とは裏腹に、容赦ない指導。
「ふふふっ」
「あはははは」
「アルヒ……会いたいわね」
「俺も会ってみたいよ、アルヒさんに」
「そうよねバルディ。ごめんなさいね、わからない話ばかりして」
バルディはニコリと笑う。
「いいんだ、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。正直俺は、こういう話をしてもらったほうが、助かるよ。情けないけど、次の階に向けて手足が震えるんだ」
本当に、バルディの手も足も震えていた。
19歳とはいえ、ミミリたちに比べたら実践経験が少ないバルディ。つられてミミリたちも、ブルッと震える。
思い返せば、ここまで闘えるようになったのも、アルヒによる実践を想定した訓練の賜物。
それでも未知なるモンスターは、バルディ同様、恐ろしく感じる。
「ふう。じゃあ、緊張するけど、そろそろ向かおう?」
「みんな! 回復し足りないところはないわね?」
「「大丈夫」」
ゼラはギュッと短剣を握った。
「俺が、先に降りるから……」
暗闇というトラウマに打ち震えるゼラ。
階段も、地下も。
もしかしたら、狭く明かりがないかもしれない。
幼かったあの日。
父さん母さんが身を挺して守ってくれたあの日。
止まらない恐怖、自身の弱さを呪った日。
暗闇の世界ーー。
「ふう。ーーよし!」
ゼラは自身に、喝を入れる。
――けれど、前衛は俺の仕事だ! ミミリたちは、俺が守る。
「……灯し陽の灯り」
うさみは支援魔法の灯りを右手の上に灯した。
「「「「さあ、行こう」」」」
◆ ◆ ◆
地下へと続く……階段を降りた先――そこにあった地下2階の状況は……!
「うそ、でしょ……」
「いえ、夢だわ……」
「……大丈夫、みんな、俺の後ろへ!」
ゼラだけ短剣をスッと構え、面々に喝を入れた。
「総員、戦闘体制! 気をつけろ! ここは……
モンスターハウスだ!」
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