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第5章 宿敵討伐編
5-6 アンスリウム山の内部ダンジョン〜先遣隊の救出〜
しおりを挟む「ほんぎゃああああ~! 節足動物うぅぅ~!」
うさみは、バルディの肩に飛び乗り、バルディの顔面半分を塞いでしまっている。
「うわああああああ! うさみちゃん、我慢我慢! それより治療だろ!」
「そ、そうだったわ……」
ずりずりとバルディの肩から降りながら、うさみはゼラとバルディに指示を出す。
「ゼラとバルディ、2人でなんとか持ち堪えて……3分! 3分ちょうだい!」
「ミミリ、怪我人を一箇所に集めるわよ!」
「「「――了解!」」」
――3分。蜘蛛も3体か……。
ゼラはメリーさんと戦った時のことを記憶から呼び起こしていた。
あの日……メリーさんと戦ったあの日ーー。
――思い出せ……! アルヒさんに指導してもらった時の、あの言葉を……!
『気を抜いてどうするのです! 保護魔法がなかったら、左頬は溶け落ち、鳩尾には穴があいているところですよ。モンスターは3体! 全てのモンスターの軽微な動きから、照準と弾道を見極めるのです!』
蜘蛛なのだから、メリーさんか酸弾を吐いたように糸を吐いてくるだろう。
軽微な動きから、照準と弾道を見極める。
――アルヒさんの指導を、思い出せッ……!
「――うさみ、支援を!」
「了解よゼラ! 剣聖の逆鱗! 聖女の慈愛!」
うさみはゼラだけに剣聖の逆鱗で敵対心を、保護魔法である聖女の慈愛は、このフロアにいる全員にかけた。更には……
「守護神の庇護!」
守護神の庇護は、ミミリとうさみによって一箇所に集められた怪我人――先遣隊たち3人へ。重症人はいないものの、そこかしこに傷がある。苦しみようから推察するに、目に見えない部分も怪我をしているかもしれない。
「ううう……から……だが、動か……」
もしかしたら蜘蛛は、睡眠蝶のように毒針、若しくは麻痺成分を含んだ糸を吐くのかもしれない。
「大丈夫ですか? これ、飲んでください」
ミミリは順番に【ひだまりの薬湯】を飲ませ治療していく。
――シュウゥゥ、と音を立てながら徐々に塞がっていく傷口。顔色もだんだんと赤みがさしてきて、効果は充分のようだ。
「みなさん、このドームの中にいてくださいね! 私は蜘蛛と戦いますから……!」
「や、やめるんだお嬢ちゃん……君みたいな子に敵う相手じゃ」
先遣隊の1人は言う。
でもミミリは譲らないばかりか、笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ! こう見えても私、見習い錬金術士ですからッ」
「え……」
◇ ◇ ◇
その頃ゼラは、というと。
脳内で【マジックバッグ】と協議中。
ーーつまりは。
周囲には、ゼラの声のみ丸聞こえ。
「どう戦うか……。相手は遠近両方タイプだろう。でも俺は近接戦タイプだし」
……短剣じゃあ分が悪いだろうナァ。
ゼラはゴクリと、生唾を飲む。
――今しかない。
「なあ相棒、肩慣らしってことで頼むよ……!」
……仕方ねぇナァ、血湧き肉躍る闘いの約束は守れヨォ! 相棒(仮)!
「……必ず!」
――パチン!
ゼラの【マジックバッグ】の留め具が外される。ゼラはバッグに手を突っ込み、斧のうちの一本を取った。
「うおおおおお~! 霜柱!」
ゼラは右手の蒼斧を勢いよく地面に振り下した。
――ザクッ、ガガガガ……!
振り下ろされた斧から、蜘蛛目掛けて迫り行く何本もの霜柱が地中から勢いよく湧き上がる。1メートルくらいの高さの太い霜柱は、巻き上げた土埃と大きな音ともに疾風の如く蜘蛛へ向かった。
「嘘……だろ……」
驚きの声を上げたのは、バルディだった。
3体の蜘蛛のうち、1体は既に氷結。
ピシピシ、と音を立てて、完全に戦線離脱だ。
――シュッ!
「バルディさん!」
蜘蛛の糸が、バルディへ放たれる。
野生の本能、というものなのだろう。
いくら剣聖の逆鱗で敵対心がゼラに向いているとはいえ、圧倒的強者に敵対心の赴くまま闘いを挑むほど、敵も無能ではないということだ。まずは弱いヤツからツブそうという算段だろう。
バルディに向けられた蜘蛛の糸。
ゼラは咄嗟に、自慢の脚力と剣聖の逆鱗で加算されたスピードを持って糸とバルディの間に割って入る。
――シュパッ!
ゼラは勢いよく、バルディに放たれた蜘蛛の糸を断ち切った。
「集中だ! バルディさん!」
「すまない……」
「バルディさん、これをッ」
ゼラはバサリと、【忍者村の黒マント】をバルディに託す。
「それを着て、気配を絶って……隙があれば、射抜いてください」
「お、おうっ」
ゼラはギュウっと右手を握る。
まだ完全に氷属性を習得できていないため、手の霜焼けが悲鳴を訴えている。
――撃ててあと一発……。隙さえあれば……!
「ゼラくん!」
後ろから飛び出してきたのは、ミミリだった。
「ミミリ、なにやってるんだ! 早く後ろに!」
ゼラは咄嗟に、ミミリの前に立ちはだかろうとするも、ミミリが一歩早かった。
「大丈夫! 新しい錬成アイテム試してみたいの! 逃げなくて大丈夫だよ。……たぶん」
「……えーと。成功確率、何割くらい?」
「9割くらい!」
「じゃ、大丈夫だ!」
ミミリに放たれる蜘蛛の糸は、ゼラがシュパッと切っていく。そのうちに、ミミリは【マジックバッグ】から出した【絶縁の軍手】をはめ、【水魚のロッド】とあるモノを取り出した。
「いっくよー! え~い! シャボンシャワー!」
ミミリがバッグから取り出したのは、ふやかした【シャボン石鹸】だった。それを蜘蛛に向かって投げ――なんと【水魚のロッド】の先端から、シャワーのように水が飛び出し……、蜘蛛たちは一瞬のうちに泡に包まれ水浸しになった。
「「キエエエエエエエエエ」」
蜘蛛の悲鳴と、
「おんぎゃああああああ」
蜘蛛が苦手なうさみの悲鳴。
両者の奇妙なハーモニーがフロアを覆う。
混迷を極めるこのフロアだが、ミミリのシャボンシャワーによって、蜘蛛の身体周りはぬるぬるのビシャビシャになり行動の自由は阻害された。
バルディは、この隙を逃さない……!
「――行け!」
立て続けに、蜘蛛の赤く丸い目に向かって矢を放つ。継いで動いたのは、ゼラだった。
「いっけえええええ! 霜柱雷電バージョン!」
――ザクッ、ガガガガ……!
振り下ろされた斧から、残る2体の蜘蛛目掛けて迫り行く何本もの霜柱は、雷属性を帯びている。地中から勢いよく湧き上がった太い霜柱に、迸るる電撃。
「「ギエエエエエエエエエエ」」
最初の1体の蜘蛛も含めて、3体の蜘蛛はミミリたちの華麗な完璧なまでの連携プレーによって倒された。
ミミリたちは
・麻痺蜘蛛の糸
・麻痺蜘蛛の脚
を手に入れた。
「「「やったー!」」」
ハイタッチする、ミミリ、ゼラ、バルディ。
ここで漸くうさみの肩の荷も降り、全ての魔法を解除した。
「アンタたち、やるじゃない……!」
……と言いつつも、よせばいいのに蜘蛛を見ては「オエエエ」と吐き気を催している。
先遣隊の面々は、上体を起こし、口々に言う。
「「「君たちは、一体……。それに、バルディまで」」」
「ええっと、そうか……! 第一印象……!」
ミミリはハッとなり、突然慌てだす。
ーー第一印象⁉︎ ミミリ、まさか!
ミミリの呟きがゼラに聞こえたため、止めようにも一歩遅く……。
「えぇと、うーん。私、ミミリと申します。見習い錬金術士ですわ。おほほほ~」
ゼラはハァッと深いため息を吐き、
うさみは誇らしそうに、
バルディは吹き出しそうに。
そして先遣隊の面々は、
「…………ご丁寧に……どうも……」
と、可愛い錬金術士の奇妙かつ丁寧な挨拶に、少しだけ引き気味に、お礼を言うのであった。
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