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うさみち

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第4章 ゼラの過去

4-12 女神様からゼラへ 大事な頼み事

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 僕も川下の町へ向かった。
 蛇頭のメデューサには近づかないという約束であったから、約束を破ったことにはならないだろう。

 川下の町は、既に大混乱を極めていた。
 一体、蛇頭のメデューサは何匹の蛇を頭に飼っていたんだろう。町中は、蛇で溢れかえっていた。

 子どもを守りつつナタを振り回したり、松明たいまつかざして追い払う町民たち。その間を縫うように、護衛騎士さんが蛇を掃討していく。

 女神様は、噛まれてしまった人々を一箇所に集め、回復魔法をかけていた。何度見ても、魔法は圧巻の一言だ。

 僕も微力ながら掃討戦に加わった。身に纏った、【忍者村の黒マント】の特性を活かして、気配を絶って蛇を狩っていく。最近お世話になっている川下の町の役に立てた気がして、護衛騎士さんに稽古をつけてもらって本当に良かったと心から思った。

 ――そうして、蛇の掃討戦は重症者が出ることなく、無事に終えることができた。

 ◇ ◇ ◇

 僕と女神様たちは、教会へ帰った。
 今回はシスターだけでなく、サラやジンやシン、デュランやトレニアまでも外に出て帰りを待っていてくれた。
 赤ちゃんのユウリだけは、シスターの腕の中ですやすやと眠って心地よさそうで……尖った僕の心が、優しくまぁるくなっていくのを感じた。

「お疲れ様でした。女神フロレンス様、護衛騎士様、ゼラ。敵は……」

 シスターは聞く。

「致命傷は与えることができましたが、逃げられてしまいました。川下の町を人質に取られたのです。事なきを得ましたが……お役に立てず、申し訳ありません」
「そんな……! 女神様たちがいなかったら、どのようなことになっていたか……。本当にありがとうございました」

 女神様は瞳を閉じて軽く首を振り、そして護衛騎士さんを見つめ、頷き合った。

「実は私たち、明日にでもここを発とうと思います」
「エッ」

 僕は思わず、声を上げてしまった。
 守られてばかりだったけれど、お世話になったばかりだったけれど、せっかく、親しくなれた気がするのに……。
 他の子どもたちも同じだった。口々に名残惜しそうな声を上げている。

「ゼラ……皆……ありがとう。私たち、前も言ったけれど大事な旅の途中なの。蛇頭のメデューサのことだったら、しばらくは大丈夫だと思うわ。致命傷を与えたから、10年程度は回復までに時間がかかるでしょう」

「それもっ、そう……だけど、せっかく……」

 僕はここで声が詰まってしまった。これ以上喋ると、涙が出てしまいそうで、これ以上、喋れなかったんだ。

「ゼラ……ありがとう。ねぇ、ゼラ。貴方にお願いをしたいのだけど、いいかしら?」
「お願い……?」

 女神様は護衛騎士さんを見た後、コクンと頷き合う。女神様は、優しく微笑んで話を続けた。

「私ね、恩人のところへ私たちの大事なモノを託してきたの。私のこの右耳のイヤリングを分かち合い、片割れ身をにつけている大事な恩人よ」
「エメラルドグリーンの、イヤリング……」

 女神様の右耳のイヤリングの金のフレームが、キラリと光る。

「ゼラがもっと大きくなって村を出たいと思う日が来た時。もし、それまでにゼラのところへもう一度、私たちが訪れなかった場合は、代わりに恩人のところへ行ってほしいの」
「恩人の元へ……?」

 女神様は、少しだけ哀しそうにコクンと頷く。

「辺りも暗くなってきたし、中へ入りましょう」

 人一倍人の心の機微を感じ取るシスターは、俯きがちな女神様の背をそうっと押して教会の中へと誘った。

 ◆ ◆ ◆

 護衛騎士さんは、肩から提げた革の袋から、リビングの木製テーブルへ、たくさんのアイテムを広げて出した。その中には、僕が譲り受けて先程返したばかりの【忍者村の黒マント】も混ざっていた。


 ・【再会のチケット 普通 破いて使用すること 使用条件あり:使用者が、目的地の座標や対象者の詳細情報を認識していない場合は到着地点に誤差がでる】
 ・【忍者村の黒マント 普通 特殊効果:モンスターや探索魔法で認識されにくくなる】
 ・『楽しい錬金術~戦闘入門編~』
 ・【生命のオーブ 神秘なる力 割れた】


「これは……」
「これが、恩人から預かったもの。そして旅の途中で見つけた、恩人に渡したいものよ」

 僕にはこれがなんだかさっぱりわからなかった。
 でも、女神様が大事なものというのだから、そうなのだろう。

 ――でも……。

「――僕で、いいんですか?」

 女神様も護衛騎士さんも、ニコリと微笑んだ。

いいのよ」

 僕は胸がじんわり熱くなった。
 恩人のような女神様たちの役に立てるなんて、これ以上の幸福があるだろうか。

「あと……これを……」

 女神様は、ワンピースのポケットから、小さな紙を取り出した。
 僕のの手のひらで小さく収まるくらいの、折り畳まれた紙。広げてみると片手くらいの大きさになるが、何も書いていないただの紙に見える。

「これも……大事な大事なものなの。私の恩人に、渡してくれるかしら」

 女神様の目からすうっと涙がこぼれ落ちた。
 優しく肩を抱く護衛騎士さん。

 僕は、小さな紙と一緒に、女神様の手もぎゅうっと握って想いに応えた。

「必ず……必ず届けます。もっと大きくなって、そして、もっと……強くなって……!」
「頼んだよ、ゼラ」
「お願いね、ゼラ」
「……ハイッ!」

 ◇ ◇ ◇

 翌日、女神様たちは旅立って行った。

 女神様たちは、最後まで名前を明かせなくてごめんなさい、と言っていた。
 女神様たちは特別な意味もなく名を伏せたりしない人たちだと、僕たちはもうわかっている。
 きっと名を明かさないことが、僕たちを守るために、必要なことだったんだ。

 僕たちは、小さくなる女神様たちの背を、いつまでもいつまでも、見送った……。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 あれから10年の時が経ち、僕は15歳になった。

 すがすがしく晴れた朝、【忍者村の黒マント】を身に纏い、女神様たちの預かり物を皮の袋へ詰め、父さんの形見の、騎士の短剣を腰に据える。

「さぁ、みんな、行ってくるよ! サラ、ジン、シン、ユウリ、デュラン、トレニア……。そして、シスター。行ってきます」
「ゼラお兄ちゃん……気をつけてね」
「あぁ、ありがとう」

 シスターは瞳を潤ませ、両手を組んで祈りを捧げてくれた。

「ゼラ、貴方に、女神フロレンス様のご加護があらんことを。輝かしい旅路となること、願っております」
「ありがとうございます。シスター、今までお世話になりました」

「――行ってきます!」


 ――ビリッ!


 こうして僕は【再会のチケット】を破いて、冒険に出た――ミミリたちが住む、あの地へと。

 シスターが祈ってくれたように、輝かしい冒険となるように、自分で道を切り開いていくんだ、という、固い決意を胸に抱いて……。


 ――まさかいきなり、ピギーウルフとポチに襲われるなんて、思わなかったけどさ。


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