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第4章 ゼラの過去
4-11 ゼラの過去 決戦! 蛇頭のメデューサ
しおりを挟む僕は、辛うじて目視できる距離を保って後をついていった。護衛騎士さんから譲り受けたこの【忍者村の黒マント】は本当にすごかった。
森で遭遇しやすいあのテールワットすら、至近距離を通過していく。よっぽど嗅覚が優れている、それこそ犬みたいなモンスターでない限り僕は気づかれないんじゃないだろうか。
――ガサガサ……!
女神様たちのほうで草木をかき分ける音がする。
「――――!」
やはり女神様の探索魔法はすごい。
女神様たちは――蛇頭のメデューサと遭遇した。
◇ ◇ ◆ ◆
「不意をついて攻撃してやろうと思ったけれど、蛇頭のメデューサ意外と神経質なのね。この距離で気づかれるとは」
遭遇したのは、恐れていたとおり川下の町付近。どうやら蛇頭のメデューサは、川上の街だけでなく川下の町まで籠絡しようとしていたようだ。
全身石色をした、着衣までが石でできていそうな胸のはだけたドレスを纏っている。女神様の問いかけに答える前に、頭から生えたロープのような太さの無数の蛇がぐにゃりうにゃりと動いている。
「アンタ、このアタシに挑もうってことかァイ。見上げた根性じゃないカァ。それに見たところ、夫婦モノだねぇ。仲違いさせるのは大好物ダヨォ」
――僕は心がグチャグチャに歪んで、飛び出して行きたい気持ちをグッと抑える。そんなくだらない理由で、父さんたちは……!
一方で護衛騎士さんは、顔を上げない。
冷静に戦況を見極めようとしているようだ。
父さんがしたように、視線を合わせずに闘う気なのだろうか。
「ハッ。蛇頭のメデューサ噂どおりのクズねぇ。私はね、目には目を。歯には歯をって精神なのよ。それに守られてばかりの女じゃないから覚悟しなさいッ」
「アンタ……女にしておくには勿体ない性格してるじゃないカァ……どぉれ、マトモに相手してやろうかネェ。
――石礫!」
蛇頭のメデューサが右手を女神様たちに向けると、頭の蛇が一斉に女神様たちに照準を合わせ……言葉どおりの石つぶてが矢の如く蛇たちの口から放たれた。
「――守護神の大楯!」
女神様は両手を掲げ、来たる石つぶてに対しニ双の大楯を女神様と護衛騎士さんの前に構える。
「防ぐとはなかなかやるじゃないカァ」
女神様はさらに力を込め――
「甘く見てもらっちゃあ困るのよ! ――水魚の反照!」
――蛇頭のメデューサから撃たれた石つぶてを、魚の形をした水が覆い、さらに光を纏って蛇頭メデューサに撃ち返される。
――すごい! 反射の盾だ……!
「ギャアアアアアアア! このアマ……」
撃ち返された水の石つぶてをかぶり、明らかに不快そうな声を上げる蛇頭のメデューサ。この隙を逃さなかったのは――護衛騎士さんだった。
蛇頭のメデューサのある場所を目掛けて、駆け抜けざまに剣を一閃した。
「……雷刃!」
「ギャアアアアアアア!」
蛇頭のメデューサは、右目を押さえた。
護衛騎士さんの雷を纏った剣が、ヤツの右目を抉った。撃ち返された石つぶてで水分を含んだ身体には効果は抜群のようだ。
――驚くべきは、護衛騎士さんの目。
目には、鎧と同じ蒼のバンダナを巻いている。完全に視覚を絶って闘っていたのだ。
蛇頭のメデューサは右目を押さえながら言う。右目からは、ポタリポタリと紫色の液が滴っている。
「目を隠して闘うとは……舐めたガキめェ」
「本当は足捌きだけで動きは読めるが……これは念を入れたに過ぎない。
しかも……貴様の殺気はダダ漏れだ。
動きを読むことなど視覚なしでも容易い」
「面白いじゃないカァ……どこまでできるか、やってみたらいいサァ」
蛇頭のメデューサの頭の蛇は、伸び縮みしつつ時に形状を刃のように変えて護衛騎士さんに攻め狂う。蛇の口からは、石つぶてを吐きながら。
――キィン、キィン……と切り結ばれる刃。
撃ち落とされる石つぶて。
女神様も、すかさず応戦する。
「聖女の慈愛! 剣聖の逆鱗!」
女神様は、サポートに徹しているようだ。
前半の呪文はよくわからなかったけれど、後半の呪文を唱えた途端、護衛騎士さんの周りを紅く揺らめく炎が纏った。すると、剣捌きも身のこなしも格段にスピードが上がった。支援魔法のようだ。
「フッ、敵対心管理かい。でも……どこまで守れるかナァ」
――ブチブチブチッ! という音とともに、蛇頭メデューサの頭から数十匹の蛇が切り離され、女神様目掛けてものすごいスピードで地を這って行った。
――女神様が喰われる!
僕は目を瞑りたくなった。
女神様に勢いよく四方八方から飛びつこうとする無数の蛇。
しかし女神様は余裕そうにクスリと笑みを浮かべた。
「悪いわね。守られてばかりの女じゃないのよ! 守護雷神の庇護!」
女神様の背後に、雷の杖のようなものを持った、長い髭を蓄えた石像が現れた。同時に、金色に近い色の薄い電膜がドーム状に表れる。
「ギュアアアアアアアア」
蛇たちの叫び声。
ドームに触れた途端、感電したようだ。
ボタリ、バタリと焦げた蛇が地に落ちてゆく。
「アンタら、アンタら……一体なんなのサァ」
「さてね。答える義理もないわ。 しがらみの呪縛!」
護衛騎士さんはさっと身を引く。
同時に森の中の木という木から、樹皮を突き破って出てきた茨の蔦が一瞬のうちに蛇頭のメデューサを締め上げた。
「くうううう……」
締め上げられた蛇頭のメデューサ。右目は潰され、茨の蔦に拘束されて……予想外だったろう。
今までの行動から容易に推測できるが、あまりに人間を舐めすぎていた。
「念には念を、よ。――水神の恵み」
「ウギャアアアアアアア!」
女神様が呪文を唱えると、局地的に――蛇頭のメデューサにだけ雨が降り注いだ。
「コイ……ツ……」
「蛇頭のメデューサは、異種族間の超えてはいけない線を越えすぎた。これはその報いね。蛇頭のメデューサクラスのモンスターにもなると、身体の中に核があるはずだから、壊させてもらうわよ」
女神様は右手を上げた――
「水神の水杭……」
「ソウハ、させないィィィィ! キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
蛇頭のメデューサの心臓付近に、女神様が放った水の杭が半分程刺さった時点で、蛇頭のメデューサは断末魔を上げた……!
「「クッ……」」
僕も含めて、女神様たちも思わず耳を塞ぐ。
――ブチブチブチブチブチブチ!
蛇頭のメデューサの頭の蛇は、引きちぎったかのように全て森に放たれた。そして一斉に――
「――なにっ?」
「――――!」
全ての蛇は、川下へ向かっていく……!
「蛇頭のメデューサ……!
――――ハッ!」
女神様が睨みを効かせたときには、蛇頭のメデューサはもうその場にいなかった。
最後の力を振り絞って、頭の蛇を全て放し、拘束する蔦を食い破らせて逃げおおせたのだろう。
その場へ残ったのは、蛇頭メデューサのいらやしくもおぞましい、笑い声だけだった。
『ヒイヤァ~ハッハァァ! 早く町へ向かうんだネェ。人間どもを喰い殺してやるサァ!』
「くっ! 町へ行きましょう!」
「あぁ!」
――こうして、蛇頭のメデューサには致命傷を与えつつも逃げられてしまった。核を壊さない限り、ヤツは生き続ける。
僕は――復讐を心に誓いながらも、少しでも助けになればと思い、川下の町へ助太刀に向かった。
――これが幼少期における、僕と蛇頭のメデューサの最後の邂逅だった……。
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