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うさみち

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第4章 ゼラの過去

4-10 ゼラの過去 蛇頭のメデューサの足跡

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「うううう~ヤアッ!」
「いいぞ! ゼラ、その調子だ! 腕の力だけでなくて、体重を乗せられるともっといいぞ!」
「ハイッ!」

 早朝の剣術の稽古。
 最近のルーティンとしては、走り込みからの素振りだ。嬉しいことに、護衛騎士さんが専属トレーナーとして稽古をつけてくれている。

 そんな僕らを見つめるのが、サラたちの日課。
 サラもジンもシンも、闘うというよりは、家事の方が好きなようだ。シスターのお手伝いとして、洗濯物を干したり、家庭菜園のお世話をしながら僕たちの稽古様子を眺めている。

 それも今だけかもしれないけれど。幼い頃の1歳2歳という年齢差は、できることに天と地ほどの差があると僕は思う。数年後はもしかしたら、ジンとシンも稽古するようになっているかもしれない。

 一方でみんなのアイドル赤ちゃんのユウリは、揺籠に揺られて「ダァダァ」言っている。

 みんなに見守られているからこそ、僕は頑張れる。
 ――新しい家族を守るために。
 ――父さんたちの仇を討つために。

 そしてもう一つ、僕に新たな目標が加わった。
 それは――デュランとトレニアの、家族を探すことだ。

 ……そう。攫われてきた子、デュランとトレニアはどうしているのかというと……。

 女神フロレンス様の魔法をもってしても、トレニアの失語症は治らなかった。
 女神様いわく、外傷は治せても、心の傷は魔法をもってしても治せないのだとか。

 トレニアは、心配なことに言葉だけでなく表情も失ってしまった。微笑むことも、悲しむことも……男たちに捕まっていた時に見せていた怯える表情を見せることさえも、なにも……無くなってしまった。
 そんなトレニアに、双子の兄デュランはずっと寄り添っている。ただ、デュランにいろいろ聞き出そうとしても、言うことができるのは名前だけで、出身地などめぼしい情報は得ることができなかった。
 ジンとシンと同じ3歳程度なら、至って普通のことだと思う。

 シスターはというと、いつもどおり僕らをお世話してくれながら、女神様に神の御技について教わろうとしていたらしい。
 けれど、女神様だけではなくて、少し加護の恩恵を受けているシスターが癒しの力が使えるのが珍しいだけで、魔法というものは、使おうと思って使えるようなものではないらしい。

 シスターは気落ちするかと思ったけれど、

「現状に感謝せねばなりませんね」

 と優しく微笑んで、事実を受け止めているようだ。僕はシスターの、こういった穏やかな性格が大好きだ。

 ◇

 そうして、一月ひとつきくらいは経ったのかもしれない。
 女神様と護衛騎士さんは、大事な旅の途中だという。だけれど、僕たちの生活の基盤を整えるために、旅を一度休憩して、一月ひとつき間、僕たちに寄り添ってくれた。

 森の木々を必要量伐採して、建築素材を得て、教会は生まれ変わったように綺麗になった。元々は白色だったと思われる生地のカーテンなども、女神様の魔法――清浄なる温風でとても綺麗になった。

 教会だけでない。
 川下の町とも、接点を持ってくれたんだ。

 川下の町に蔓延していた流行り病を魔法で治してくれた女神様。女神様と町を男たちから救った護衛騎士さんの口添えがあって、僕は川下の町で働き口を見つけることができた。

 僕に似合うかわからないけれど、働き口は可愛らしいパンケーキ屋さんだ。今はお皿洗いしかさせてもらえないけれど、いつかパンケーキを焼いたり、接客もしてみたいと思う。
 ――人と人との繋がりを大事にしていきたいなって、そう、思うんだ。
 
 こうして、絶望の淵にいた僕たちに女神様たちは希望の道標を灯してくれたんだ。

 ◇ ◇ ◇

 そうして暮らしが安定し始めた頃。
 ――事件は起きた。

「たっ、大変だぁ! 女神様ぁ! 護衛騎士様ぁ」

 薬屋のおじさんだった。
 川下の町から、走ってきたらしい。
 肩を上下させて、ゼェゼェと息を切らしている。

 僕はちょうど素振りの最中だったので、大声で女神様とシスターを呼んだ。
 僕の稽古に付き合ってくれている護衛騎士さんは、何も言わずに腰に提げた剣の柄をギュウッと握っている。

「ど、どうされたのですか……!」

 シスターは慌てて出てきてコップ一杯のお水を薬屋のおじさんに差し出した。
 薬屋のおじさんは水をグイッと飲み干し、言葉を続けようとした――

 ――が、薬屋さんのおじさんの言葉を代弁したのは、教会から出てきた女神様だった。いつものおっとりとした表情ではなく、険しい面持ち。

「探索魔法により感知――危険度レッド。……おそらく……」
「出たか……」

 護衛騎士さんも、続けて言う。

「そうなんです。視力に自信のある弓使いが森に鳥狩りに行ったところ、石女らしき姿を見つけて、大急ぎで逃げ帰ってきたと。慌てふためいてはいましたが、先日の男たちのような怪しげな素振りはなかったので、操られてはいないと思います」

 胸に手を当てながら、薬屋のおじさんは話を続ける。

「……俺は闘いはからっきしだから、俺できることは……これくらいしか……」

 薬屋さんのおじさんは、息を切らしながら、ドサっと大きなお尻を地についた。伝えきって安心したんだろう。シスターはおじさんはの背中をさすって落ち着かせている。

「探索魔法によると現在地はおそらく……川下の町からそう離れていない森の中ね。早く向かわないと危険かもしれないわ。どう闘うか……ゼラ!」
「はいっ」
「たしか、黄の光る目で男を操るのよね?」
「そう、言っていました」

 女神様は、うーんと腕組みしながら護衛騎士さんを見る。

「目、目を見ないように気をつけるよ……」

 何故か女神様にタジタジな護衛騎士さん。稽古時に見せる僕への気迫はどこへやら。なんとなく、この2人の力関係が見えた気がした。

「貴方が蛇頭のメデューサの魅了チャームにやられたら、私が全っ力で往復ビンタして目を覚まさせてあげるわ! 任せといて」
「いや……目を見ないように闘うよ」

 そんな状況ではないのはわかっているけれど、危なく笑いそうになってしまった。
 そうか、緊迫した状況を和ませるために、女神様はえて……

「私、本気だからね! 魅了チャームにかかったら浮気と見做みなすから」
「……気をつけます……」

 ――どうやら、本気だったらしい。
 というか、この2人は夫婦だったのかと、僕は今初めて知る。

「さぁ、行きましょうか! みんなは危ないからここにいてね。私たちで……」



「……行かせてください」



 僕は、女神様の言葉を遮るように言う。

「ゼラ、遊びじゃないのよ」
「わかってます。絶対に邪魔はしません。遠くから見ているだけって、約束します。ヤツは……蛇頭のメデューサは、僕の父さんと母さんを殺し、そして僕の街、川上の街を廃墟にしました。僕は……僕は……」

 言葉に詰まった僕の肩に、護衛騎士さんが優しく触れた。

「危なくなったら、私たちを置いて逃げると約束できるな?」
「……はい!」

 護衛騎士さんは、袋に入れていたマントを僕に授けた。

「これは、【忍者村の黒マント】というものだ。俺もいただきものなんだけどな。ゼラ、お前に託すよ。これは、モンスターや探索魔法で認識されにくくなるらしい」
「あ、ありがとうございます……!」

 女神様は、僕たちの様子を見てクスリと微笑んだ。

「まぁ、ゼラに託すのであれば、きっとアルヒも納得してくれるはずね」

 そう言いながら天を仰いだ女神様は、眩しそうに目を細めた。
 女神様の右耳のエメラルドグリーンのイヤリングの金のフレームが、陽の光に反射してキラリと光る。

「さぁ、行きましょうか」
「ああ」
「……ハイッ!」

「ゼラ……気をつけてくださいね」
「ゼラお兄ちゃん……」

 僕はコクリと大きく首肯した。


 ――蛇頭のメデューサ……僕は闘うことはできないけれど、お前の弱点、挙動……何から何まで目に焼き付けてやる……!


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