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うさみち

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第4章 ゼラの過去

4-1 捜索専念班結成

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「状況を整理しましょう。
 捜索対象は、マール。3歳の男の子、アザレアの街民です。
 昨晩はいつもどおりに就寝。朝目覚めたらベッドにいるはずのマールがいなくなっていた、ということです」

 捜索に入る前に、練金釜の横のテーブルを囲んで状況の整理をする。まだ報告を受けて時間が経っていないはずだというのに、有能であると名高いローデは、既に要点を用紙にまとめあげていた。

「なるほど、ね……」
「ええっ⁉︎ うさみ、なにがわかったの?」

 さすが名探偵のうさみに、ミミリは驚きが隠せない。驚いた拍子に、ミミリのワンピースのしっぽはピーン! と真っ直ぐ伸びる。

「3歳、でしょ。ミミリの幼かった頃を思い出すわ。好奇心旺盛なお転婆だったわよ。でも、好奇心のままに1人で勝手に飛び出すようなことはなかったわ。マールはどう? 内緒で飛び出すような子かしら」
「いいえ、そんなことはありません。隠し事もできないような、素直な子です……!」

 マールの母ソフィアの涙が、床にぽたり、と落ちる。

「……攫われたのか、かどわかされたか、どちらね。若しくは……。この街に内通者がいるかもしれないわ。だって、警備は万全なはずでしょ?」

 言いながら、うさみはバルディの服を見る。
 門番の任務中を誰かに代わってきてもらったのか、はたまたこれから任務なのか。バルディは門番の服を身に纏っている。ミミリがガウルに提供した【一角牛の暴れ革】で作られた革の胸当てだ。

「防具もグレードアップして警備は万全。そして街の出入りには身分証確認もある。この状況では、3歳の子がたった1人で外に出るのは困難よ。そうでしょう、ローデ?」

 いつも冷静なローデが、珍しく内心を顔に出す。それほど、小さなうさみの名推理はローデを驚かせたということなのだろう。

「ご明察です、うさみさん。警備は万全ですし、直近の出入りを名簿で確認いたしましたが、不審人物は見られませんでした」

「ふぅむ……」

 うさみは、腕を組んで2、3歩歩く。
 
「……門番が確認するのは、荷馬車の積荷であって、手荷物までは確認しないわよね?」
「うさみ、それじゃあ……!」
「ええ、おそらく……、これは今後においての改善事項だと思うわよ」

 うさみの指摘でローデも察し、深く心に刻むように大きく首肯する。

「3歳ならまだ小さな身体。手荷物として運べなくもないわ。もしくは、ゼラみたいにピョーンとこの堅牢なアザレアの壁を飛び越えるとかね。闇夜に乗じて」

 うさみの発言は、本来なら驚くべきもの。
 堅牢な壁の存在こそが、まるで城塞都市のようなアザレアの絶対的防衛を貫く所以なのだから。その壁を飛び越えるだなんて。
 しかし、今までは人的要因により防衛力は低減傾向にあったが、ミミリの功労により下止まりしつつある。
 そのパーティーの一員であるうさみが、ゼラなら壁を飛び越えられると言うのだから、それは本当なのだろう。

 張り詰めた空気の中、ゼラは短剣の柄に手を当てて、俯きながら呟いた。

「……操られているんだ……多分」

 うさみの言葉を継ぐようなゼラの言葉。俯きながらも心の中では遠くを見ているようで、若干放心しているようにも見える。

「ゼラくん……」 「ゼラ……」

 ゼラに内緒で冒険者ギルドに見に行った、特等依頼の依頼書。蛇頭のメデューサは、ゼラの両親の仇。それだけではなく、今もなおゼラを追い詰め、苦しめている。

 ミミリとうさみは、顔を見合わせる。

 ――私たちで、絶対に倒す……!

 ミミリとうさみは、改めて固く誓い合った。

 ◇ ◇ ◇ ◆

「それで捜索方法ですが、大きく分けて3手に分かれていただこうと思います」

 ローデは工房内にある練金釜の後ろ、黒板に白のチョークで作戦を書き始めた。
 ミミリたちは、審判の関所でも見たこの「黒板」と「チョーク」について、アザレアに来て初めて正式名称を知った。

「『①情報収集班
 こちらは、冒険者ギルド及び役所が担います。そして収集した情報を各班に伝達する任務も担う予定です。冒険者ギルドにも役所にも、元冒険者は多くいますからね。

 ②アザレア防衛班
 門番をはじめとし、冒険者ギルドに登録している冒険者も輪番制で防衛を担当していただきます。アザレアを防衛しつつ、アザレアの街内にて捜索を行っていただきましょう。もちろん、街中での捜索は街を挙げて捜索いたしますので、一般市民も。

 ③捜索専念班
 ミミリさんたちはこちらに所属していただきます。まずは過去にも目撃情報のあるアザレアの森、瞑想の湖を中心に捜索していただければと。そこでメンバーなのですが……』」

 ローデの話の途中で、スッとバルディが手を挙げた。かつてないほど神妙な面持ちを浮かべるバルディ。まるで、内に秘めた何かが湧き上がっているような表情だ。

 それはもう…………ただならぬ何か。
 ――まるで、ゼラに似た何か……。

「俺も、ミミリちゃんたちの捜索専念班に加えていただけないだろうか」

「――もしかして、バルディさん、事情があるんじゃないですか……? 蛇頭メデューサに対する、唯ならぬ事情が」

 ゼラは無意識のうちに短剣の柄を握りしめながら、バルディを見る。

「まったく……。名探偵が多いな。ミミリちゃんたちのパーティーは」

 バルディは瞬時に俯いたのちに、すかさずパァン! と両頬を叩いた。

「バルディ……大丈夫?」

 声を上げたのは、ローデだった。いつものように、「バルディ」と、敬称もない。その姿は、いつもの凛とした「公」のローデではなく、親しい友人を心配するような、「私」のローデ。

「あぁ、ごめん。ありがとうローデ。俺は大丈夫だ。俺はD級冒険者だ。力不足は重々承知のうえ。だけれど……。どうしても……ミミリちゃんたちの班に加えてほしい」
「いかがでしょうか。ミミリさんたち。確かにバルディは冒険者としては力不足かもしれません。ですが今回の標的蛇頭のメデューサには人一倍の思いがあります」

 いつも凛としたローデは、珍しく眉尻を下げ悲しそうな面持ちで話を続ける。

「実質C級ないしはさらにその上であると言っても過言ではないと思われるミミリさんたちなら連れ立つ資格はおありかと。あとはミミリさんたちのお気持ちだけです」

「私は……私たちは……」

 ミミリは、うさみとゼラを見る。
 言わんとすることは、顔を見ればわかる。

 ――そう、私たちの気持ちは決まってる……!

「……一緒に行きましょう、バルディさん!」

 両手の拳をギュッと握るミミリに、

「頼りにしてるわよん、バルディ」

 ウインクするうさみ。

 そして……

「よろしくお願いします、バルディさん」

 ゼラに笑顔はなかったけれど、決意は固く、みんなを見遣る。

「……道中、俺の過去を話します。何かの、手がかりになることを願って」

「ゼラくん……」 「ゼラ……」

 ミミリとうさみが、かねてより気掛かりだったゼラの過去。自分から話してくれるのを待とうと決めた、秘められた過去……。

 そして。

「ゼラだけに話させるのは不公平だからな。行きがてら、俺の話も聞いてくれ」

 バルディは、少し哀しげに微笑んでいった。


 ――今まで謎に包まれてきた、ゼラとバルディの過去が、紐解かれていく……。

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